光る植物が問いかける、照明・エネルギー・ウェルビーイングの再設計
「電力を使わずに光る植物」。その言葉は一見すると、未来的で詩的なイメージを喚起する。一方で、現実の社会課題とどこまで接続できるのか、慎重な目線が必要なのも事実である。株式会社LEPは、この“生きた光”という概念を、研究開発の段階にとどめず、社会実装へと進めようとしている。
同社はこのたび、京都大学イノベーションキャピタルをはじめとする複数の投資家から、シードラウンドとして総額1.6億円の資金調達を実施した。調達を機に、自ら発光する植物細胞を活用した展示サービスの開始、新規品種の開発、人材採用の加速を進めるという。
本稿では、この取り組みを単なる“話題性のある技術”として消費するのではなく、照明・エネルギー・空間体験という社会構造の中で、どこに位置づく試みなのかを整理する。
関西発ディープテックが挑む「生きた光」
LEPは大阪を拠点とする大学発スタートアップである。生物発光に必要な独自の遺伝子技術、発光強度を高める制御技術、色と表現を拡張する発光色変換技術など、「光る植物」を成立させるための複数の技術基盤を組み合わせて開発を進めてきた。
その背景には、大阪大学が長年蓄積してきた生物発光研究の特許技術と、奈良先端科学技術大学院大学が有する植物改変技術がある。LEPはこれらの知的資産を活用し、日本発ディープテックとして世界市場での競争を視野に入れている。
今年4月には大阪・関西万博へ出展し、光る植物を用いた茶室空間を公開した。植物が仄かな光を放つ空間体験は、来場者に強い印象を残し、「光る植物」という新しい表現領域の可能性を具体的な体験として提示した。
照明という巨大市場への問い
世界のエネルギー消費において、照明が占める割合は約15%、CO2排出量では約5%とされる。これまで照明の進化は、火から電球、LEDへと進んできた。LEPはそこに、「電力に依存しない生きた光」という異なる軸を持ち込もうとしている。
ここで重要なのは、光る植物が既存の照明インフラをすぐに代替する存在ではない、という点である。明るさや制御性、安定性の面で、街路灯や室内照明の主役になるには、なお多くの課題が残る。
しかしLEPが提示しているのは、「照度を最大化する光」ではなく、生命のゆらぎがもたらす癒しや、愛着を伴う光体験である。電力効率の議論だけでは捉えきれない、ウェルビーイングや空間価値の再設計が、同社の射程に含まれている。
展示から社会実装へ──調達資金の意味
今回調達された資金は、主に三つの用途に充てられる。第一に、自ら光る植物細胞を活用した展示サービスの開始である。これは研究成果を閉じたラボに留めず、社会との接点を増やすための試みだ。
第二に、新しい植物品種の開発である。発光の強度や色、持続性、育成のしやすさなど、社会実装に向けた改良が求められる。第三に、研究開発と事業開発を両立させる人材の採用加速である。ディープテックが直面しがちな「技術はあるが広がらない」という壁を越えるためには、組織づくりが不可欠である。
資金調達はゴールではなく、社会に出すための準備段階に位置づけられている点が読み取れる。
投資家が評価した「第四の光源」という視点
投資家コメントの中で象徴的なのは、「火、電球、LEDに続く人類第四の光源になり得る」という表現である。これは技術的達成を断定するものではなく、概念としての可能性を評価した言葉と捉えるべきだろう。
自発光植物は、エネルギー消費削減の文脈だけでなく、都市景観、屋内外の空間演出、心理的価値といった複合的な領域にまたがる。投資家は、単一の用途に閉じない拡張性と、大学発技術としての独自性、そして経営チームの実行力に賭けている。
地域金融機関系の投資家が名を連ねている点も注目に値する。関西という地域に根ざしながら、グローバル市場を見据える姿勢が、資本の側にも共有されていることがうかがえる。
会社概要
社名: 株式会社LEP
代表者: 代表取締役CEO 高元丈治
所在地: 大阪府大阪市北区梅田1丁目1番3号267
事業内容: 自発光植物の開発・販売、バイオテクノロジー関連事業
URL: https://www.start-lep.jp/
ZEROICHI編集部が注目した理由
本件を取り上げた理由は、「光る植物」というインパクトの強さだけではない。ZEROICHI編集部が注目したのは、照明・エネルギー・癒し・デザインといった異なる文脈を一つの技術で横断しようとする構造である。
サステイナブルという言葉は、ともすれば抽象的になりがちだ。LEPの試みは、削減量や効率性を即座に最大化する解ではない。しかし、電力に依存しすぎた社会構造に対し、「別の選択肢があり得る」という問いを、実体を伴って提示している。
また、大学発ディープテックが社会実装に至るまでの難しさを踏まえ、展示や体験を通じて理解を広げようとしている点も評価できる。研究成果を社会と接続する“翻訳”のプロセスが意識されているからだ。
光る植物が、いつ、どこまで普及するかは未知数である。それでも、照明という当たり前のインフラを問い直し、生命と技術の関係を再設計しようとする試みは、無視できない意味を持つ。ZEROICHIは、その問題提起自体に価値があると判断した。
技術が社会に根付くために必要な視点
今後の課題は明確である。安全性、法規制、量産性、メンテナンス、そして社会受容性。とりわけ遺伝子技術を用いる以上、丁寧な説明と合意形成が欠かせない。
一方で、すべての課題が解決されてから社会に出るのではなく、段階的に実装しながら対話を重ねていく姿勢も重要だ。LEPが展示サービスから着手するのは、その意味で現実的な選択といえる。
結び
光る植物は、すぐに街灯を置き換える存在ではない。しかし、電力を前提としない光、生命のリズムを感じさせる光という概念は、照明の未来像を拡張する。
LEPの資金調達は、単なるスタートアップニュースではなく、「光とは何か」「持続可能とは何か」を社会に問い返す一歩である。技術の成熟とともに、この問いがどのような形で実を結ぶのか。今後の展開を注視したい。
■原文リリース(参照)
原文リリース発表日付:2025年12月16日
タイトル:【資金調達】光る植物で持続可能な未来を照らすLEP、シードラウンドで1.6億円の資金調達を実施
原文リリースURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000174582.html
※本記事は、原文から一部編集・要約して掲載しています。
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