山梨大学生命環境学部生命工学科で「バイオマスの有効活用」の研究を行う大槻隆司氏と堀江貴文氏が対談。国内で大量にゴミとして扱われている雑草の刈草をメタンとして有効利用する方法に迫る。
堀江氏がメタンに関心を寄せる理由

大槻隆司(以下、大槻) 堀江さんは、私どもの研究している「雑草の刈草などを微生物で発酵させてメタンを作り出す」ということに興味がおありなんですか?
堀江貴文(以下、堀江) はい。僕、メタンのことに関心があるんですよ。今、ロケットエンジンの燃料はメタンが主流になってきているんです。
大槻 あ、そうなんですね。
堀江 日本の「H-Ⅱロケット」や「H-Ⅲロケット」は、燃料に水素を使っています。水素は分子量が少ないため、燃費はいいんですけどトルクが出ない。だから重力に抗って飛ぶ打ち上げの時や分厚い大気圏を突破する時には効率が悪いんです。逆に空気や重力の影響のない宇宙空間に行ってしまえば、水素は効率が良くなる。じゃあ、打ち上げの時と宇宙空間の両方でバランスがいい燃料は何かというと、それがメタンなんです。
大槻 なるほど。
堀江 「それなら、最初からメタンを使えばいいじゃないか」という話になりますが、昔はメタンの入手に問題があったんです。でも、天然ガスの輸送船などができてからメタンが注目され始めました。そして、天然ガスからメタンを分離して使うというのが、この10年くらいのトレンドになっているんです。
大槻 そうなんですね。
堀江 ただ、日本ではまだ難しさがあるんですよ。天然ガス田のメタン含有量にはかなりバラつきがあって、日本が輸入しているカタールやインドネシアなどのガス田のメタン含有量は70%から80%くらいなんです。だから、そこから分留しなくてはいけないんですけど、分留できるプラントが関東にしかないんです。そこから、北海道などの地方に輸送するのも大変なんですよ。
大槻 へー。
堀江 一方で、トランプ米大統領が輸出したがっているアラスカのガス田のメタン含有量は99%程度。そのままでも使えるくらいなんです。
雑草からメタンがつくられる過程

堀江 今、僕らは北海道でロケットを打ち上げるための実験をやっているんですけど、その時には牛糞由来のリキッドバイオメタン(LBM)を使っています。だから、日本でメタンを産出するプラントが増えてくれると嬉しいんですよ。
大槻 すると、もう「さまざまな微生物が有機物を分解していって最終的にメタンに変換される」というメタンの発酵過程はおわかりになっているわけですね。
堀江 はい。ただ雑草からメタンを作り出すというのは、初めて知りました。
大槻 でも、原理は牛糞や食品残渣などと同じです。有機物を分解していって、最後にメタンにするわけですから。ちなみに牛糞はあまりメタンが作られないほうの原料になります。
堀江 え、そうなんですか。
大槻 はい。逆にパン工場のカスなどからはすごくメタンが作れるんです。パンカスの6割くらいがメタンになります。
堀江 そんなに作れるんですか。
大槻 食品系はわりと相性が良いといわれています。ただ、日本は雑草の刈草がゴミとして大量に出るので、私たちはそれをうまく使えないかずっと考えていました。これまで雑草を使ってメタンを作るときは、食べ物や牛糞を混ぜるのが一般的だったんです。でも、自然界を見ていると落ち葉が溜まって、そこからメタンが発生しているので「これは雑草だけでもいけるのではないか」と思ったんです。そこで最初に試してみたのはギョウギシバというイネ科の雑草でした。すると1トン(t)のギョウギシバから1ヵ月半で200立方メートル(m3)のメタンが作れました。今はその半分の時間で同じくらいの量が作れます。
堀江 へー、そうなんですね。
大槻 それで、国内でどれくらいの雑草が出るのか調べてみたんですが、公式なデータはありませんでした(笑)。そりゃ、そうですよね。雑草の刈草の量なんかみんな関心はないでしょうから。でも、国交省の関連団体の調査結果と全国の自治体から報告されている数、さらに高速道路脇の雑草の刈草の数を足すと年間200万tくらい出るといわれているんです。しかし、こんな数ではないと想定していて、別の資料では山梨県甲州市の河川だけでも年間1000t出ているという報告もあり、ざっくりと言っても国内で2000万tはいくのではないかと推測しています。じゃあ、仮に200万tをメタンに変換するとどうなるかというと、日本のLPガスの年間消費量の2%くらいになります。すると、この10倍の刈草があれば20%くらいは賄える計算になりますよね。これは結構な量だと思います。
堀江 そうですね。

大槻 ただ、まだ問題もあって、菌にも雑草の好き嫌いがあるんですよ(笑)。ギョウギシバや猫じゃらしと呼ばれるイネ科のエノコログサは割と好きみたいです。でも、同じイネ科でもススキは全然ダメなんですよ。また、キク科のヒメジョオンやマメ科のクズの葉などもあまり好きではないみたいです。だから、この違いは何なのかというのが今、一番の課題です。
堀江 食品残渣のほうはいけそうですね。
大槻 そうですね。今、食品残渣の処理費は1tあたり1万5000円くらいだと思いますが、例えば、それを半額の8000円で引き受けるようにする。そして、食品残渣のメタン発酵でできるガスを売るということになればいけるんじゃないですかね。あとは、プラントをどこに建てるかということです。もし、北海道で大量の食品残渣が出るというのであれば、そこにプラントを建てて作れば、メタンの供給はわりとできると思います。
堀江 はいはい。
大槻 実は食品残渣のメタン発酵は、すでに大手食品会社などでは工場の中にプラントを作って、それを燃料として自家発電をしたりしているんです。大手ゼネコンは、そういうシステムを売っていたりするんですよ。
堀江 もう、そういう状況なんですね。
メタン発酵を身近にするには

大槻 ちなみに食品残渣ではなくて、雑草だけでのメタン発酵は私たちと石川県立大学の馬場保徳先生の研究室の2つでアプローチしています。ただ、石川県立大学では、牛の消化液を使ってるんですよ。
堀江 牛の消化液?
大槻 はい。牛は草を食べるじゃないですか。だから、馬場先生のところではその消化液中の微生物を使って雑草を分解しているんです。私たちは、池や川の泥の中にいる微生物を使っています。
堀江 なるほど。メタンを産出する菌の数は多いんですか。
大槻 多いんですが、まだどれが一番効率が良い組み合わせなのかは絞り切れていません。例えば、効率の良い上位10の菌だけを取り出して混ぜてもうまくいかないんです。どうも効率の悪い菌とのつながりがあるようなんです。ですから、菌のリンケージがわかってくるともっと効率が良くなるかもしれません。
堀江 そうですよね。
大槻 理想としては、メタンを作るタンクを部屋に収まるくらいのサイズにして、そのタンクを町内会にひとつずつくらいの割合で置けるようにしたいんです。そして、町内会で雑草の草刈りをやった後に、その刈草をタンクに放り込んでおけばメタンができる。そして、それを利用する。それくらいのサイズにすることができれば普及するんじゃないかと思っています。
堀江 最近は、家庭用の生ゴミ処理機とかも性能が相当上がっていますからね。
大槻 そうですね。ただ、メタンの場合はもう少しシステムが複雑なので、少し難しいんです。メタンは酸素がない嫌気状態で作られるため、タンクに酸素が入ってしまうとダメなんですよ。
堀江 そうか。でも、最近の生ゴミ処理機を見て、その性能にびっくりしたんですよ。生ゴミが肥料になるんですよね。
大槻 そうですね。あと、水になるのもありますよ。食べ物だったら、基本的には水と二酸化炭素に分解できるので。
堀江 確かに原理的にはそうですよね。だから、そういうプラントができるといいですよね。
大槻 みなさんが生ゴミをきちんと選別してくれると、できるんじゃないでしょうか。処理機はすぐに進化すると思います。
雑草からメタンを作り出す未来

堀江 今、雑草とかの焼却はどうしているんですか。
大槻 業者が買ったものはダンプカーなどで焼却場に持っていって、産業廃棄物として燃やしています。でも、そのまま燃やしても大したエネルギーにはならないので、もったいないんですよね。
堀江 ただ、熱エネルギーとして放出しているだけですよね。
大槻 そうなんです。
堀江 確かにもったいないですね。ちなみに、雑草からメタンを作り出すプラントは、いつ頃実用化できそうなんですか。
大槻 メタン菌が、どの雑草が好きでどれが嫌いかというのを調べるだけでも結構大変なので、まだ時間はかかると思います。でも、3年以内にはある程度、目処をつけたいとは思っています。
堀江 楽しみですね。
大槻 ぜひ、期待していてください。
堀江 わかりました。ありがとうございます。
大槻 こちらこそ、ありがとうございました。
Text:村上隆保
大槻隆司(Takashi Ohtsuki)山梨大学生命環境学部准教授
1968年生まれ。神奈川県出身。信州大学大学院修了後、東京大学医科学研究所などを経て、現職に。研究テーマは「バイオマスの有効活用」「微生物機能の高度活用」など。