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嗅覚の受容体の研究から人間の五感の代替可能性を探る【堀江貴文✕東京農工大学院生命機能科学部門・福谷洋介助教】対談その1

堀江貴文氏は、東京農工大学院生命機能科学部門・福谷洋介助教から、現在行われている、嗅覚受容体によるニオイ応答機構の解析についての研究について話を聞いた。

人間はニオイを感じる受容体を約400種類持っている。この嗅覚受容体の膜タンパク質の造成に成功。

堀江貴文(以下、堀江) 福谷さんは嗅覚の研究をされているんですよね。

福谷洋介(以下、福谷) はい。嗅覚の質が「おいしい」とか「まずい」といった味覚にも影響を及ぼすということで、改めて注目されていますが、実は嗅覚のメカニズムはわかっていないことが多いんです。

福谷洋介©ZEROICHI
©ZEROICHI

堀江 そうなんですか。

福谷 例えば、パクチー(コリアンダー、香菜)のニオイをカメムシのニオイと感じる人と、感じない人がいます。また、魚の腐ったニオイを感じる人と、感じない人もいます。例えば「世界一臭い食べ物」といわれている「シュールストレミング」(ノルウエーなどで生産されている塩漬けニシンの缶詰)などを食べる北欧の人の中には、魚の腐ったニオイをくさいと感じにくい人がある程度いるようなんです。特定の嗅覚の変異は家族性で伝わっていて、DNAの変異が影響しているということが知られています。

堀江 へー。

福谷 すごく簡単になりますが、嗅覚の基本的な仕組みは、鼻に入ってきたニオイ分子を嗅覚神経細胞にある嗅覚受容体という膜タンパク質が捕まえてニオイを感じます。その受容体の種類はかなり多くて、私たち人間だと大体400種類、イヌは800種類、マウスは1200種類くらいです。そして、この受容体がそれぞれ違うニオイ分子に反応します。ですから、複数の受容体の反応の組み合わせで私たちはニオイを認識しているわけです。

堀江 はい。

福谷 実は、この嗅覚受容体の膜タンパク質は非常に不安定です。そのため作るのが難しい。また、どのように嗅覚受容体が分子を捕まえているのかなどの解析もなかなか進んでいませんでした。私たちは嗅覚受容体の膜タンパク質を作ることができますので、私たちが何を研究しているかというと、警察犬や官能評価(人間の五感を用いて評価する方法)に関わる技術を作ろうとしています。例えば、最近では火山ガスのような硫化水素のニオイに対応する受容体を同定しました。そして、硫化水素のニオイに対応する受容体をブロックする香料も探し出しました。このように、今後は生活で生じるさまざまな臭いニオイをブロックすることができるように研究を進めています。警察犬や官能評価に代わるようなものが作れたらいいなと思っています。

堀江 警察犬などの犬がニオイを嗅ぎ分けるのがめちゃくちゃ得意なのは、その受容体の数と関係があるわけですか?

福谷 受容体の数もありますが、犬は鼻が長いのでそもそも神経細胞の数が多いということもあります。あと、犬は視力が弱いので、鼻に神経が集中しているため感度がいいということもあるかもしれません。

堀江 なるほど。例えば、目に障害がある人などは、脳の後頭部の視覚野などが聴覚を補助するために使われているという話も聞きますからね。

福谷 あと、ニオイに関しては経験の部分も大きいと思います。

堀江 そうですよね。例えば、人間も化粧品会社で香水とか作っている人たちって、めちゃくちゃニオイの感度が高いですもんね。

福谷 そうですね。嗅ぐ対象によっては、犬並みに識別できる人もいると思います。ただ、全然、違う分野のニオイになると、わからないという話も聞きます。

堀江貴文©ZEROICHI
©ZEROICHI

堀江 なるほど。ニオイは特化して訓練すると、より正確になる可能性があるわけだ。犬ってすごいって聞くけど、人間も訓練次第でまあまあ犬に近づくこともできるんですかね。

福谷 できると思います。ソムリエさんなんかはそうですよね。ソムリエさんが感じるワインの香りの違いって、多分、犬はわからないと思います。

その2に続く

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

福谷洋介(Yosuke Fukutani) 東京農工大学 大学院工学研究院 生命機能科学部門助教

1986年生まれ。東京都出身。2014年、東京農工大学大学院工学部博士課程を修了し、現職。2019年に「日本生物工学会東日本支部長賞」を受賞。現在は「嗅覚受容体をによるニオイ応答機構の解析、がん幹細胞の嗅覚受容体選択的発現機構及びその意義の解明」を研究中。