堀江貴文氏は7月20日、ホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格社長を取材。先進小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」がもたらす革命とは何か?(初回配信日:2018年7月23日)
日本国内でどう使われていくのか?
堀江 日本で小型ジェット機のマーケットがほとんどないのは、なぜなんですか?
藤野 市場が小さい理由の一つは、「ビジネスジェットに乗る」という文化自体があまりないからですね。また「反感を買う」ことを恐れて、使っていても黙っているケースもありますね
堀江 でも、使える空港はものすごいあるじゃないですか。
藤野 その通りで、ホンダジェットを使える空港を調べてみたら、全国に84カ所もありました。それでも全く普及していないのは、「ハリウッドスターのようなものすごいセレブが乗るもの」「自分には関係ない」というイメージがあるからです。
2つ目の理由は、ビジネスジェットが発着できるスロット(発着枠)に制限があること。例えば、羽田空港だと、2年前くらいまで昼間の発着枠は1日8回でした。これだと少なすぎます。去年、やっと2倍の16回にはなりました。
そして、3つ目にコストです。例えば、保険の費用はアメリカの10倍ぐらいかかります。また、日本籍の機体は日本独自の「車検」を毎年受ける必要があったりと、現時点ではアメリカなどと比べて管理費が高くつきます。
堀江 僕がガルフストリームというビジネスジェットを持っていた頃は、年間に2億円ぐらいかかっていましたね。僕が飛行機を買った頃は、「あいつは飛行機を買ったから、事件を起こしたんだ」みたいなことをすごく言われてましたよ。
藤野 贅沢品だったと。
堀江 そう。僕の頃って孫さん、三木谷さん、僕くらいの感じだったんですけど、最近はみんな買い出したんでだんだん認知されつつあるというか。
藤野 やはりそういういろんなビジネスをしている人は、アメリカでもいろんなところに拠点があって責任者が飛び回ってますからね。そういう使い方を日本でもカルチャーとして広がっていけば、すごく可能性はあるんですけどね。
堀江 (今回利用した)富士山静岡空港はビジネスジェット使えるんですか?
藤野 はい。
堀江 ただアクセスが悪いですよね。新幹線の駅があれば東京から1時間くらいでこれるから便利なのに。
藤野 そう。この間も政治家の人に提案したんですけどね。。。
堀江 新幹線の駅や空港の建設というと、すぐに「既得権益」の問題になってしまうから、もったいない。僕は北海道の大樹町というところでロケット開発をやってるけど、新千歳空港も札幌から遠くて不便なんですよね。大樹町にも一応滑走路があるから、ビジネスジェットでそこにそのまま着陸できたら便利だなぁ。
藤野 可能かどうかちょっと調べてみます(笑)。これからの日本の交通インフラを築く上で、ジェット機というのは大いに使えると思います。例えば、リニアモーターカーの建設に数兆円かけているわけですが、「ホンダジェットを50機買って、ビジネスジェットを使える84カ所の空港を有効利用する」というのも有意義なお金の使い道だと思うんです。
堀江 確かにね。他に日本ではどういった使い方を想定してるんですか?
藤野 いろいろな使い方を考えています。まず1つは、中国から来る人向けです。国内の旅行や出張の足として、ビジネスジェットを使ってもらいたいです。 海外からはビジネスジェットで来るような人も、「Nナンバー(米国籍)」のジェットだと国内の空港の発着がしづらいので、国内は結局新幹線での移動になってしまいます。まずはそういう層から取り込みたいです。 また、日本で全国展開しているお店とか、製造拠点があるところとかは、ビジネスニーズがあると思います。 ビジネス利用だけでなくとも、「特別な日」の記念利用として、日本人の所得水準を鑑みて十分キャパシティはあると思います。 例えば、結婚式を海外で挙げて、国内で故郷に帰る時はホンダジェットに乗るとか。家族や友人でジェットをチャーターして記念に沖縄にいくとか。 あとは、IR(統合型リゾート)とも相性がいいと思います。アメリカでは、東海岸からカジノに行く時、ジェットで迎えに来てくれたりしますよね。
堀江 そうそう。ラスベガスに行くときとか迎えに来てくれますよ。
藤野 ありとあらゆるビジネスチャンスはあります。そして、国内にあるジェット機の台数が増えてくると、今度は「タイムシェアリング」ができるようになり、さらに裾野が広がります。これは、自分が使わない時間は他の人に貸すことで、ジェット機の持ち主が収入を得るというやり方です。
このクラスの機体だと、年間300時間使えば買ったほうが安いというようなイメージです。なので、例えば年間200時間しか使わない人は、空いている時間は他の人に貸せばいい。ただ、こういうタイムシェアをするには、ある程度機体の数がないと効率が悪いです。例えば日本に1機しかなければ、東京にあるのに福岡の人が使いたい、というのは非効率的ですからね。こうしたビジネスができるようにするためにも、まずは日本にあるジェット機の台数を増やしたいなと思います。
取材:岡 ゆづは(NewsPicks記者)
写真撮影:遠藤素子
藤野 道格 Michimasa Fujino
ホンダエアクラフトカンパニー社長兼CEO。1960年生まれ。東京大学工学部卒業後、1984年ホンダ技術研究所に入社し、1986年から航空機の開発に携わる。ホンダジェットの設計、製作、飛行実験などあらゆる業務を率いた。2006年から現職