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「治療よりも予防」【医師・徳田安春が語る 「総合診療」の重要性とは? その3】

堀江貴文氏は3月27日、医師の徳田安春氏を取材。「総合診療」の重要性などについて話を聞いた。(初回配信日:2017年4月24日)

日本の医師は余計なことをしすぎている

徳田 私たちは「治療より予防」、できれば「セルフケア」といった予防医療を普及させたいんです。ですから、「アメリカのようにインフルエンザワクチンの接種はショッピングセンターなどでやってほしい」と言っているんですよ。しかし、いろいろな規制があって、実現困難です。

堀江 いちいち文句言われますよね。

徳田 「何かあったらどうするんだ!」といわれます。例えば「注射している時にアナフィラキシー(重度のアレルギー反応)が出たらどうするんだ」といわれることがあります。看護師が注射して、救急処置ができる医師が待機していればいいのです。

堀江 でも、インフルエンザの予防接種って、前は学校とかでやっていましたよね。

徳田 医師と看護師が学校にいればできるんです。

堀江 そうですよね。

徳田 だいたい、注射は医師より看護師の方が上手なんですよ(笑)。

堀江 注射してる数が違いますもんね(笑)。

徳田 そうなんです。でも、予防接種は原則的に医師がやるものと決められている。

堀江 あと、「インフルエンザかな」と思ったら、自分で検査キットを使って検査して、陽性反応が出たらタミフルを飲めばいいわけじゃないですか。リレンザを吸入するとか。病院に行く必要って、それほどないですよね。

徳田 薬をもらうためだけに病院に行くというのは不便です。ですから、アメリカなどでは、薬はオーバー・ザ・カウンター(店頭販売)にどんどん移行しています。

堀江 ヘルペスの薬とかもそうですよね。

徳田 はい。日本では解熱鎮痛剤の「アセトアミノフェン」など日常的に使われる薬は、オーバー・ザ・カウンター薬(薬局やドラッグストアで購入できる医薬品)になっていますが、まだまだセルフケア後進国なんです。

堀江 とにかく、医師が余計なことをしすぎている気がするんです。

徳田 その通り。昔は出産も“お産婆さん”がやってましたからね。

堀江 そうですよね。

徳田 イギリスでは、今でも基本的にお産婆さん(助産師)が出産を介助します。最初に産婦人科の医師がリスク評価をしますが、多くの場合はお産婆さんで問題ないのです。

堀江 そういえば、予防医療普及協会で新年会をやったんですけど、そのあたりがすごく遅れているという話になって。例えば、最新技術を使えばバイタルサイン(血圧、脈拍、体温、呼吸数などの生命の基本情報)をもとにして、いつ産まれるかがある程度は予測できますよね。

徳田 できますね。

堀江 ウエアラブルセンサーか何かで妊婦さんのバイタルサインを見ておけば、産婦人科医の負担ってかなり減らせるんじゃないかと思うんです。

徳田 減らせますね。

堀江 産婦人科医って、出産が始まると土日も夜中も関係ないので、すごくハードな仕事なんですよね。

徳田 昔は、子宮収縮剤とかを投与して、出産が土日や夜中にならないように、昼間になるようにコントロールされていたことがありました。それで事故が起きたりしました。だから今は「自然に任せよう」ということになっているんですけど、そうなると今度は人手不足になりますね。

堀江 体重、肥満度、脂肪率、血圧などを気にして、できれば記録してほしい

徳田 私たちは、一般向けに“ヘルスリテラシー”の普及活動もしているんです。ヘルスリテラシーが高い人は、より健康なんです。そして、QOL(生活の質)も高い。一方、ヘルスリテラシーの低い人はよく病気になる。普段の生活習慣で重要なのは、ヘルスリテラシーだと思います。

堀江 ヘルスリテラシーは重要だとは思いますが、僕は“教育”のようなまっとうなアプローチで意識を変えるのは無理だと思っているんですよ。

徳田 ということは、何かインセンティブが必要だと?

堀江 そうですね。インセンティブとか、ゲーミフィケーションとか。とにかく「知らないうちに健康になってます」みたいなアプローチが普及には重要だと思っています。僕は、2025年の誘致を目指している大阪万博の特別顧問をしてるんですが、その大阪万博のテーマが“健康と医療”なんです。そして、その時に「万博に遊びに来て、いつのまにか健康になってました」みたいな感じにしたいんです。

徳田 なるほど。

堀江 普段から運動をしないで、好きなだけ食べて、好きなだけお酒を飲んでるような人たちは、最終的には病気になるわけじゃないですか。僕、刑務所の中でそういう人たちをたくさん見てきました。

徳田 そうですか。

堀江 刑務所に入る人たちが全員そうだというわけじゃないけれども、普通に社会で暮らしている人よりも、やはり健康に対する意識が低いんです。50代で総入れ歯になってる人とか、入れ歯すら買えなくて「ハグハグ」何を言ってるかわからない人も多い。歯を失う原因の多くは歯周病ですよね。だから、そういったヘルスリテラシーの意識の低い人たちは、どうすれば健康になるのかというのをやってみたいんです。

徳田 それは面白いですね。例えば、今、運動不足の人は多い。「運動は健康にいい」と知っていながら、実際にやっている人は少ないわけです。それは、結局、運動ができるような環境になってないからなんです。

堀江 でも東京って、公共交通が発達しているので、都心で生活している人は、電車やバスに乗るために駅やバス停まで歩いたり、わりと運動しているんですよ。

徳田 そうです。東京の人は運動量が多い。車で移動する地方の人の方が少ないんです。

堀江 そうですよね。で、僕が面白いなと思ったのは、「ポケモンGO」なんですよ。

徳田 あれは運動になりますよね。

堀江 まあ、ポケモンGOは健康のためにやっているわけじゃないでしょうけど、結果的に人を動かしているわけです。AR(拡張現実)やIoT(モノのネット接続)で人を動かすことが可能であることを証明したんですよ。

徳田 しかも、楽しませながら。

堀江 だから“インセンティブをあげれば人は動く”“運動する”んです。こうしたことを応用して、大阪万博を面白いものにしたいなと思っているんです。

徳田 いいですね。

堀江 あと、通常の生活でのインセンティブ・システムは、例えば歯のクリーニングなども含めて、年に2回以上歯科医院に行ってない人は、歯周病になっても保険がきかないとか。

徳田 厳しいですね(笑)。私がヘルスリテラシーのことでまず思うのは、今の日本人の多くは食事に問題があるということです。塩分も糖分も摂り過ぎなんですよ。

堀江 ヘルスリテラシーの高い人は、糖質制限とかしていますからね。

徳田 ええ。そして体重、BMI(肥満度)、脂肪率、血圧などを気にして、できれば記録してほしい。

堀江 それがビッグデータ化できればいいんですけどね。

徳田 そうなんですよ。人間ドックなどに行けば、血圧や血糖値などいろいろな検査はしてくれますけど、問題は健康に関心のない人たちなんです。

堀江 そうですね。

徳田 人間ドックや健康診断に行かない人たちが、心不全になったり、腎不全になったり、脳卒中になったりして、重症化して救急車で運ばれ、ICUに入ることが多いんです。

堀江 確かに。

徳田 例えば、血圧なんか血圧計を腕に巻いて、ボタンをポンと押せば簡単に測れます。それで200/100などになっていたら、これは血圧をコントロールしないと数年以内に脳卒中とか心不全になる確率が高いってわかるわけじゃないですか。でも、それすらもやらない。

堀江 やっぱり、そこはペナルティが必要だと思うんです。健康診断を受けなかったら保険料が上がるとか。

徳田 ドイツだったと思うんですが、あるヘルスリテラシー関連の研究で、最初にお金を払ってもらって、一定の健康目標を達成したらお金を返却するマネーバックがインセンティブとしては一番効果があったみたいです。

堀江 僕はもっと単純に、半年に1回血液検査をしたらパチンコの玉を一箱貰えるとかがいいと思います。

徳田 パチンコが好きな人は喜ぶでしょうね。私はパチンコはやらないので、商品券とかがいいですけど(笑)。パチンコはギャンブル依存のリスクもあります。

堀江 僕らはピロリ菌の次に、「プ」というオナラの音にかけた大腸がん予防・啓発活動の「プ」プロジェクトを行なっているんですよ。

徳田 素晴らしい取り組みですね。そういった活動は、私たちも応援したいです。

堀江 徳田さんの手掛けられている総合医療やこうした予防医療は、これからどんどん重要になっていくと思っています。私たちでできることがあれば、ぜひお手伝いさせてください。

徳田 そうですね。世の中をより良くするために。

堀江 本日はありがとうございました。

徳田 こちらこそ、ありがとうございました。

その1はこちら

徳田安春 Yasuharu Tokuda

総合診療医、筑波大学客員教授。1964年生まれ。琉球大学医学部卒業後、沖縄県立中央病院、聖路加国際病院、筑波大学付属水戸地域医療教育センターを経て、独立行政法人地域医療機能推進本部顧問に。総合診療の重要性を説き、総合診療医の教育に力を注いでいる。

Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保