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人間より優れた嗅覚を持つ線虫の不思議【理学博士・広津崇亮が語る がん検査の未来とは? その1】

堀江貴文氏は10月10日、理学博士の広津崇亮氏を取材。がん検査の未来について話を聞いた。広瀬氏が研究したという線虫の嗅覚とは?(初回配信日:2017年10月10日)

線虫は何万種類もある化学物質の匂いを判別できる

広津崇亮(以下、広津) 私、堀江さんと東大で同期だと思うんですよ。1972年生まれなんですが……。

堀江貴文(以下、堀江) ああ。じゃあ、同期ですね。

広津 理科2類なので学部は違いますが。

堀江 理科2類だと、その後は農学部ですか?

広津 いえ、理学部です。

堀江 2類から理学部に行く人って珍しいんじゃないですか?

広津 そうですね。農学部に行く人が多いんですけど、2類の学生の一部は、理学部の生物系に行きます。それで、その後、20年間、ずっと“線虫の嗅覚の研究”をしていたんですよ。

堀江 なんで線虫の嗅覚の研究をしようと思ったんですか?

広津 それは、嗅覚の研究が遅れていたからです。人間以外の動物は五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)の中で“嗅覚”に頼って生きていることが多い。でも、人間は主に“視覚”に頼って生きています。そのため視覚の研究は進んだけれども、嗅覚の研究は進まなかった。しかし、私が学生だった頃に「生物は匂いをどのように識別しているか」という解析が進み始めたんです。

堀江 ということは、最近のことじゃないですか。

広津 そうです。1991年に米国人の科学者2人が嗅覚の仕組みに関する論文を発表してから、一気に研究が進みました。ちなみに、この米国人科学者2人は「初めて嗅覚の仕組みを明らかにした」ことで2004年にノーベル医学生理学賞を受賞しています。

堀江 へー、そうなんですか。

広津 ですから、嗅覚の研究はそもそも新しいものなんです。あと、なぜ線虫かというと、例えば匂いを直接感じる「嗅覚神経」の数は人間で約500万個、犬だと数億個ですが、線虫は10個しかありません。そのためとても研究しやすい。さらに匂いを感じる仕組みが人間とほとんど同じです。人間と同じであればモデルとして使えるわけで、線虫を使って研究を進めて、その成果を哺乳類に活かそうということです。

堀江 じゃあ最初は、嗅覚のメカニズムの解明みたいなことをずっとやられていたんですか?

広津 はい。つい最近までは。例えば、匂いを感じたあとに「あ、これは花の匂いだ」って考えますよね。「では、なぜそう考えられるのか」ということを研究していました。線虫はあまり頭が良さそうには見えませんけど(笑)、それでも神経回路があって「好き」「嫌い」の判別ができる。では、その好き嫌いの反応はどのように行なわれるのか。また、同じ匂いの物質でも条件を変えると好き嫌いが変わってくる。それはなぜなのかなどをずっと研究していたんです。

堀江 納豆なんかそうですよね。人によって好き嫌いがある。

広津 食べ物の匂いなどは、そのときの体調などによって「いい匂い」「気持ち悪い」というふうに変わったりもしますね。

堀江 ああ、「つわり」とか、ですよね。でも、なんで何万種類とある化学物質の匂いを判別できるんですか? それはどういうメカニズムなんですか?

広津 それは嗅覚神経にある受容体が反応して匂いを判別しているからです。でも、受容体の数は多い生物でも1000くらい。ですから1対1の対応だと足りないので、組み合わせで匂いを感知しています。

堀江 その受容体は人間で何個くらいあるんですか?

広津 人間は約400種類です。犬が800、線虫は1200です。

堀江 へー、1200も。

広津 ですから線虫は、犬よりも嗅覚が優れているかもしれないといわれています。

その2に続く

広津 崇亮(Takaaki Hirotsu
博士(理学)、株式会社HIROTSUバイオサイエンス代表取締役 1972年4月25日、山口県生まれ。東京大学大学院博士課程終了後、日本学術振興会特別研究員、京都大学大学院研究員などを経て、2016年に株式会社HIROTSUバイオサイエンスを設立し代表に。