堀江貴文氏は5月4日、Kavli IPMU機構長(当時)の村山斉氏を取材。「宇宙研究」の最先端などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年5月4日)
宇宙には濃い部分と薄い部分がある。だから人間が生まれた
堀江貴文(以下、堀江) 『カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)』の“カブリ”って、何なんですか?
村山斉(以下、村山) カブリというのは、人の名前ですね。“フレッド・カブリ”というノルウェー出身のアメリカ人で、自動車や航空機などに使われるセンサーを提供する会社を起こし、世界最大級の企業に成長させました。でも、もともとは物理学を学んだ人です。カブリさんは「私は3つの分野の研究をサポートしていきたい。1つ目は一番大きな自然である“宇宙”について。2番目は逆に一番小さな自然の“ナノテクノロジー”。そして、3番目はその中間で、自然の中で一番複雑なもの。“人間の脳”だ」と言っていたんです。
堀江 それで、全世界のいろいろな研究機関に……。
村山 はい。それで、私たちはカブリ財団から2012年に寄附をいただいて、“Kavli IPMU”という名称になりました。
堀江 おいくつぐらいの方なんですか?
村山 2013年の11月に亡くなられてしまったんですけれど、その時、86歳でした。
堀江 亡くなられてしまったんですか……。
村山 そうなんですよ。とても残念です。
堀江 研究所(IPMU)自体は、その前からあったんですよね?
村山 はい。2007年に設立しました(編集部注:当初の名称は『東京大学数物連携宇宙研究機構』)。設立の目的は「1、宇宙はどうやって始まったのか?」「2、宇宙は何でできているのか?」「3、どういう運命が待っているのか?」「4、どういう仕組みで動いているのか?」「5、その宇宙になぜ我々が存在しているのか?」の研究です。特に最後の疑問は、人類が生まれてからずっと考えてきたことで、これまでは哲学や神学、宗教が中心でした。でも、少しずつではあるけれども、今は科学で解明できるようになってきた。だから、私たちはその謎に迫りたいんです。
堀江 この研究所は“数物連携” 宇宙研究機構という名称ですが、研究員の方は頭の中でずっと数式を考えているわけではないですよね。
村山 ええ。観測実験をやっている人もいれば、ロケットで打ち上げる装置を作っている人もいます。宇宙に打ち上げた装置が観測をして、その中からインフレーション(急激な膨張)の証拠を見つけていく。それが「宇宙はどうやって始まったのか?」「なんで私たち人間が存在しているのか?」ということにもつながっていくわけですから。
堀江 そうですよね。
村山 宇宙は今、138億光年の広さがあると言われているんですが、もともとは原子よりも小さくて、それが一気にワーッと広がっていったとされています。そして、ものすごい勢いで広がるものだから、宇宙全体がぐわんぐわん揺れていると。
堀江 振動してるわけですね。
村山 そう。その揺れのために濃い部分と薄い部分ができて、星や銀河を作るもとになったんじゃないかと。もし、濃いところも薄いところもなく、平均的に広がっていったのならモノが何も集まらない。濃いところが生まれないと、星も生まれないし、銀河も生まれない。私たちも生まれない。だから、宇宙の誕生を知ることは、我々がどこから来たのかということにも関わってくるんです。
堀江 そうですよね。
村山斉(Hitoshi Murayama)
物理学者(専門は素粒子理論、初期宇宙論)「東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構」 機構長、特任教授。「米国カリフォルニア大学バークレー校」物理学科MacAdams冠教授。(※当時)
1964年生まれ。東京都出身。1991年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。その後、ローレンス・バークレー国立研究所研究員などを経て、2000年カリフォルニア大学バークレー校物理学科教授に就任。2007年「Kavli IPMU」機構長兼務。著書に『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)など。