WITH

「ハイパーカミオカンデが完成すれば、宇宙のメカニズムが解明できるかもしれない」 【梶田隆章が語る宇宙研究の現在と未来とは?その1】

堀江貴文氏は9月1日、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章氏を取材。「宇宙研究」の現在と未来などについて話を聞いた。(初回配信日:2014年9月1日)

今の施設が完成すれば、宇宙からの重力波を年に10回観測できる

梶田隆章(以下、梶田) 東京大学宇宙線研究所は、宇宙から降ってくる陽子や原子核などの宇宙線を観測・研究するため、約60年前に作られた施設です。しかし、今は宇宙全体のことについていろいろ研究しましょうということになっています。

堀江貴文(以下、堀江) 実験施設はどこにあるんですか?

梶田 研究所は千葉県の柏市ですが、国内の大きな実験装置は岐阜県飛騨市の神岡町の地下に「スーパーカミオカンデ(宇宙素粒子観測装置)」や「XMASS(ダークマター観測装置)」があって、今「大型低温重力波望遠鏡」を作っています。

堀江 今、作っているところなんですか?

梶田 作っているといっても、装置を入れるためのトンネルがやっと掘れたという段階ですが……。

堀江 神岡でやっているのはどうしてなんですか?

梶田 詳しい経緯は私もよくわかりませんが、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊先生(1987年に宇宙から飛来したニュートリノをカミオカンデで初めて観測)が、地下で宇宙線の実験をやる際、神岡鉱山がいろいろと便宜をはかってくれたことが縁だと聞いています。

堀江 地下でやっているのは?

梶田 スーパーカミオカンデとXMASSに関していうと、地上だと宇宙線が観測の邪魔になるんです。しかし、地下1000メートルくらいに行くと地表に比べて、宇宙線の影響がだいたい10万分の1に減ります。そのため宇宙線の影響を受けずに観測できるんです。重力波望遠鏡はL字型のレーザー干渉計なんですけど、それを設置するトンネルが今ちょうど掘れたところです。

堀江 レーザー干渉計について、簡単に説明していただけますか?

梶田 簡単に言いますと、レーザーを発射して、ビームスプリッターで光をふたつに分け、その先にある鏡に反射させて戻ってきた光を干渉させて観測します。もし、重力波によって空間が延びたり縮んだりしていたら、干渉した光が増えたり減ったりします。

堀江 その装置の中は真空になっているんですか?

梶田 真空です。

堀江 温度は?

梶田 鏡の温度はマイナス253℃ですね。

堀江 ヘリウムかなにかで冷やすんですか?

梶田 いや、機械的に冷やします。

堀江 マイナス253℃って、絶対温度で何度でしたっけ?

梶田 20ケルビン(編集部注:絶対零度=0ケルビン)です。なんで冷やすかというと、鏡はもちろん物質なので、温度が高いと鏡の中の分子が揺れてしまうわけです。それを冷やすことで分子の揺れを抑えてあげる。そうすると重力派による空間の揺れを受けやすくなるんです。

堀江 重力波って、どういうものなんですか?

梶田 たとえば宇宙には中性子星という重くて小さな星があります。この中性子星がお互いの周りを回る連星の中性子星になっている場合があります。このような連星から出るのが重力波です。そして、重力波を出しながらだんだん近づいていって、最後に合体する時に一番強い重力波を出すので、その前後を観測しようとしているんです。

堀江 それは、どれくらいの頻度で起こっているんですか?

梶田 ひとつの銀河だけでみると、10万年に1回くらいだと思います。

堀江 でも、宇宙には銀河は山ほどある。

梶田 そうですね。この観測装置の設置が完了して、今の天文学の予想が正しければ、年間に10個ぐらいは観測できるはずです。

堀江 じゃあ、スーパーカミオカンデで超新星(編集部注:星が一生を終える時の大爆発)のニュートリノ(電気的に中性な素粒子のひとつ)を観測するよりも頻度が高いんじゃないですか?

梶田 そうですね。重力波のほうが高い頻度で観測できると思います。

堀江 スーパーカミオカンデって、超新星のニュートリノ以外も観測しているんですか?

梶田 超新星以外でしたら、毎日観測しています。

堀江 そんなに……。

その2に続く

梶田隆章(Takaaki Kajita)
理学博士、東京大学宇宙線研究所所長。
1959年生まれ。1986年東京大学大学院博士課程卒業後、東京大学理学部助手を経て、1999年東京大学宇宙線研究所教授に。その後、2008年同研究所所長に就任。ブルーノ・ロッシ賞、米・バノフスキー賞など数々の科学賞を受賞。ノーベル物理学賞にもっとも近い日本人のひとりとも言われている。