堀江貴文氏は、 霊長類医科学研究センターセンター長・保富康宏氏から、エイズウイルスを完全に排除できるワクチン技術の詳細や、ワクチンが開発されるまでの経緯、今後起こりうる社会問題について話を聞いた。
感染症の最先端の実験施設「霊長類医化学研究センター」とは
堀江貴文(以下、堀江) 安富先生は、エイズウイルスを完全に排除できるワクチン技術を開発したんですよね。
保富康宏(以下、保富) はい。その前に、まずこの「霊長類医化学研究センター(「医療基盤・健康・栄養研究所」)」をご案内しましょう。現在、これだけ大きな施設で感染症の実験ができる場所は、世界でもここにしかありません(保富氏が施設内を案内する)。
堀江 へー、思っていたよりもすごいです。建物は昭和のシャビー(古めかしい)な感じですが、その中に最先端の施設がある。
保富 ここは「BSL(バイオセーフティレベル)3」の実験室で、「空気感染する病原体用」と「空気感染しない病原体用」の2つの実験室があります。さらに、その上の「BSL4」同等の宇宙服のようなものを着て入る厳しい管理をした実験室もあって、そこでは今、遺伝子組み換えマウスを使って新型コロナウイルスの病原性を調べています。
堀江 すごいなぁ。
保富 高感度性マウスにデルタ株やオミクロン株を接種して、体内にどれくらいの量のウイルスが入ったら死亡するかというデータをとっているんですよ。
堀江 何か結果は出たんですか?
保富 確定的なものはまだ出ていません。
堀江 マウスの実験もやっているんですね。
保富 そうですね。基本的には猿で実験をするんですけど、最初から猿に新型コロナウイルスを接種するのも大変なので、最初はマウスでやっています。
堀江 猿はこの部屋の中にいるんですか?
保富 はい。
堀江 この部屋から外には何も漏れないようになっているんですよね。
保富 それはもう絶対に漏れません。水の一滴だって出てきませんよ。それに、この部屋の高圧減菌器は136℃に設定されているんです。通常は121℃です。理由は狂牛病の原因となるプリオンを滅菌するためです。狂牛病は、いわゆる骨粉(羊の骨を焼いた灰を牛の餌に混ぜたもの)で感染してしまった。だから、これくらいの滅菌消毒をかけないとダメなんです。
堀江 そうなんですね。
保富 気密度だけじゃありません。この建物を設計したのが東日本大震災の年(2011年)だったので、耐震性能も最も高いレベルです。例えば、大地震で茨城県つくば市の建物のほとんどが崩壊したとしても、この建物はびくともしないと思います。水道が止まっても井戸から水を汲み上げられるようになっている。そういう施設なんです。
堀江 すごいですね。
保富 僕らは猿を100%屋内飼育しています。しかし、海外では屋外で飼っていた。それで、猿が新型コロナに感染してしまったりして、海外では猿を使ったコロナの実験ができなくなっているんですよ。今、世界でコロナ前と同様に猿の実験ができるのはここだけです。
堀江 へー。
保富 他にも「世界的にここしかない」というものがいくつかあります。例えば、歳をとった実験用の猿はここにしかいません。
堀江 それはなぜですか?
保富 猿は、だいたい3、4歳で実験用に使われて処分されます。でも、ここでは、将来、歳をとった猿も老化研究で役に立つかもしれないということで、残してもらっているんです。
堀江 歳をとった猿はなんでダメなんですか?
保富 例えば、カニクイザルは5歳前後で成熟し、10歳以上になるともう老年です。老年の猿を実験に使ってもそのデータが本当に正確なのかということがわからないからです。
堀江 なるほど。
保富 僕がこの施設に赴任したのは2007年ですが、その時には「なんで猿が必要なんだ」と言われました。でも、今回のようにカニクイザルで実験をして、エイズの完治につながる発見をできたことで、今は「猿をやっていてよかったね」とみんなから言われています(笑)。
この続きは『WISS』で全文ご覧いただけます。購読はコチラ
保富康宏(Yasuhiro Yasutomi)
国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センターセンター長。1960年生まれ。大阪府出身。1990年、酪農学園大学獣医学研究科博士課程を卒業後、米ハーバード大学でエイズウイルスの研究を重ね、1992年にハーバード大学助教に就任。その後、2007年から霊長類医科学研究センターセンター長、三重大学大学院教授を務める。