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エイズ完治につながるワクチン技術とは?【霊長類医科学研究センター・保富康宏が語る感染症研究の最前線 その2】

堀江貴文氏は、 霊長類医科学研究センターセンター長・保富康宏氏から、エイズウイルスを完全に排除できるワクチン技術の詳細や、ワクチンが開発されるまでの経緯、今後起こりうる社会問題について話を聞いた。

エイズウイルスを完全に排除できるワクチン技術とは?

堀江 では、あらためてエイズウイルスを完全に排除できるワクチン技術について教えてください。

保富 はい。エイズウイルスの一番の問題は、一度感染すると一生なくならないということです。今、エイズは薬でコントロールできますが、そのかわりに患者さんたちは、一生薬を飲み続けるしかない。そして、薬の副作用はかなりつらいようです。あまりのつらさに薬を飲むのをやめた人がいたのですが、やめるとどうしても体の具合が悪くなる。だから、また飲み始めたと言っていました。

堀江 副作用って、そんなにつらいんですか?

保富 個人差があるようです。最初の頃の薬は、手のひらいっぱいぐらいの量を毎日飲まなければいけませんでした。その後、親指くらいの大きさの量になって、今は1カ月に1回の注射で大丈夫というものが出てきました。ただ、副作用の中には精神的に鬱になるような症状もあって、「毎日、悪夢を見るから薬を飲むのをやめた」という人もいます。

堀江 薬を一生飲み続けるということは、どこかにウイルスが残っちゃうっていうことですか?

保富 そうですね。諸説ありますが、リンパ球にゲノム(遺伝情報)として組み込まれて残ってしまうようです。特に消化管のリンパ球に多く残るといわれています。薬を飲んでいれば、ウイルスはおとなしい状態をそのままキープするのですが、薬を飲むのをやめると急に活性化して、どんどんエイズウイルスを生み出していきます。

堀江 へー。

保富 でも、我々は一度感染したエイズウイルスを完全に排除することに猿の実験で成功しました。中にはウイルスが完全に消えなかったケースもありますが、その場合でも治療薬は必要とならない状態です。通常、エイズに感染した猿は2、3年で発症して、その後に死亡するケースがほとんどなのですが、我々が実験している猿は、もう10年近くなんの治療もしていないのに正常な状態を維持しています。

堀江 それはどういうメカニズムでエイズウイルスを排除できたんですか。

保富 獲得免疫には(抗体をつくる)「液性免疫」と(免疫細胞が感染細胞を攻撃する)「細胞性免疫」がありますが、我々は感染している細胞を殺す細胞性免疫を非常に強力にしました。ですから、細胞性免疫がエイズウイルスに感染している細胞を探しては殺し、探しては殺しということをずっとやっているわけです。

堀江 なるほど。

保富 そして、実験では50%は完全に排除できました。これはゲノムごと消滅していたんです。また、30%はウイルスはまだあるけれども、治療がまったく必要ない状態になりました。

堀江 すごいな。

保富 だから、これが人でうまくいけば、エイズ患者の80%はもうエイズ治療薬を飲まなくよくなるということです。

堀江 それは、うまくいってるんですか。

保富 今のところはうまくいっています。そして、それをワクチンにすれば、エイズに罹っている旦那さんに治療をして、奥さんにはワクチンを打つ。すると、奥さんがエイズに感染する心配はなくなります。また、エイズウイルスにもいろいろな株があって「日本だと今、こういう株が流行っている」「アフリカだとこういう株が流行っている」というのはわかります。そこで、アフリカで今、流行っている株のワクチンをつくって、その株の汚染度が高い地域の人にワクチンを接種する。すると罹っている人は治る確率が高くなるし、罹っていない人は感染予防になる。

保富 あと、“HIVベイビー”といって、アフリカではお母さんがエイズに罹っていて、生まれたときからHIV陽性という赤ちゃんが多くいます。その赤ちゃんのお母さんは、大抵、数年後に亡くなってしまいますから、子供たちへの薬はボランティアの人が毎日届けているんです。でも、子供たちにワクチンを打っておけば、もう薬は飲まなくてもいいということになるんです。

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その3へ続く

 

保富康宏(Yasuhiro Yasutomi)
国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センターセンター長。1960年生まれ。大阪府出身。1990年、酪農学園大学獣医学研究科博士課程を卒業後、米ハーバード大学でエイズウイルスの研究を重ね、1992年にハーバード大学助教に就任。その後、2007年から霊長類医科学研究センターセンター長、三重大学大学院教授を務める。