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「自然に充電される」「漂う電波を使う」 【東大・川原圭博の考える新時代の給電システムとは?その1】

堀江貴文氏は8月18日、東京大学の川原圭博氏を取材。「給電システム」の未来などについて話を聞いた。(初回配信日:2014年8月18日)

スマホをカバンの中に入れたまま充電できる。それが新時代の給電システム

堀江貴文(以下、堀江) 早速ですが、今はスマホの“ワイヤレス(置くだけ)充電”などがありますが、川原さんはその先の“マルチホップ型無線電力伝送”などを研究しているんですよね。

川原圭博(以下、川原) はい、よくご存知で(笑)。電化製品って、どんどん便利になっていますけど、そのぶん、どんどん充電が面倒くさくなってますよね。

堀江 そうですね。

川原 ガラケーのときなんて、一週間充電しなくても平気だったのに、スマホは毎日充電しなきゃいけない。通信はどんどん速くなるのに、給電は全然改善されない。そこを何とかしたいっていうのが、ここ数年のテーマでした。マルチホップ型無線電力伝送っていうのは、オフィスのカーペットタイルのイメージで、50cmぐらいの大きさのタイルをペタペタ並べるだけで、それぞれを結線しなくても、そのひとつひとつが発電用のタイルになっている。それを給電したい範囲、たとえば「私は机の上だけで給電したいです」っていう場合は、机の上にペタペタ並べておくだけで給電できるものなんです。

堀江 それは、すごく便利ですね。

川原 そして、それをひとつ数十円とかできるだけ安く作りたい。今、携帯電話用に無線充電器って売っていると思うんですけど、あれって基本的には板の上に直接置かないと充電されないですよね。それだと充電器にさすのとそんなには変わらない。でも、マルチホップが目指しているのは、家に帰ったらカバンの中に携帯電話が入ったままでも、充電できるというものです。今の無線充電器は1cm離れると充電できないんですけど、電磁界共振結合という手法を使うと、伝送距離を伸ばせるんです。

堀江 どれくらい伸ばせるんですか。

川原 基本的には効率とのトレードですね。90%送りたいんだったら、かなり近づけないとダメです。コイルの直径くらいの距離で伝送効率は60%程度に落ちます。

堀江 じゃあ、コイルはできるだけ大きい方がいいじゃないですか。

川原 そうですね。でも、そうなると受け手側もそれなりの大きさが必要になってきますね。

堀江 受け手の方も関係があるんですね。

川原 はい。受け手を小さくするとそのままでは効率が落ちるんです。

堀江 たとえば受け手がスマートフォンの大きさで、出し手が1mくらい離れていたら、どれくらい効率が悪くなるんですか?

川原 10%以下になっちゃうこともあるでしょうね。

堀江 そうなんですか……。この原理は新しいものなんですか。今ある無線充電器の原理って、別に新しいものではないと思いますけど。

川原 そうですね。最も根本的なところでは小学校の理科でやる程度の原理です。磁石をコイルの中に出し入れすると電流が流れますっていう。

堀江 フレミングの右手の法則でしたっけ?

川原 ええ。そこまではよく知られているんですけど、その後のものが新しいんです。そのコイルの間隔を変えたり、キャパシタンス(容量)を入れてやることで、共鳴の状態を作ることができます。ワイングラスの縁を指でこするとブーンって音がなって共鳴しますよね。あれは反応する固有の周波数があるからで、その固有の周波数をワイングラスに当てると振幅がたわんでくる。そのたわみが増幅されてくるとワイングラスはパリンと割れます。割れるということは、ワイングラスにすごく強いエネルギーがかかっているということですよね。でも、音がしているワイングラスの間に手を入れてもすごく強い力がかかっているとは感じない。つまり、小さな力でも受け手に一番反応する周波数を使うと、受け手のほうにうまくエネルギーが流れこみます。電磁誘導でそのような条件を満たすと、送ったエネルギーが他のところに逃げていかないで、ほぼ吸収されるという状況を作ることができるんです。それを電気的に実現したのが電磁界共振結合と呼ばれているものです。

堀江 その現象が、わりと最近わかったんですか。

川原 はい。たまたま見つけた人はいたかもしれませんが、メカニズムを解明して、こういう条件でやれば絶対にうまくいくというのがわかったのは、わりと最近の話ですね。

堀江 コイルはふつうの銅線ですか。

川原 そうです。ふつうの銅線ですね。なるべく安いものを使わないとコストダウンできないので、どこにでもあるものを使っています。

堀江 コイルが少したわんでいますけど、これはわざとですか。

川原 わざとです。

堀江 これ、大事なんですか。

川原 大事なんです。

堀江 でも、大量生産すれば、すごく安くなりますよね。このタイルを建材屋さんとかで作ってほしいですね。

川原 そうなんです。配線とかが結構大変なんですけど、建材屋さんが作ってくれれば、いろいろな問題が一気に解決できるのかなと思っているので、それを目指しています。ちょっと、このビデオを見てもらえますか。今説明したことを実演しているんですけど、最初の一個のタイルだけが電源につながっていて、あとはただ置いてあるだけです。これで「電気的にはつながっている」という状況なんですよ。

堀江 最初の一個だけ電源につなげばいいんですね。

川原 そうです。そこがポイントでして……。

堀江 そうか。それで、ひとつひとつに伝搬していく。みんなで共鳴していく感じなんですね。

川原 そうです。

堀江 へー。面白いなあ。

川原 ただ、2×2列で並べて供給が上手くいってても、3×3列にすると真ん中だけ給電できなくなったりするんです。そういうことがたくさん起こるので、今、学生たちと一緒にいろいろ解析をして、どんなふうに置いても必ず共振する条件を導き出そうとしています。そういう研究をしているんです。

堀江 すげえなあ。

川原 このビデオの時は、まだプロジェクトを始めたばっかりだったので、場所によっては光ったり光らなくなったりしていますが、今では完全に理由がわかって、どこに置いても同じ高さがであれば、同じ明るさになるところまでできるようになってきてます。

法整備が進めば、すぐにでも無線給電はできる

堀江 これ、高速道路とかに敷き詰めたらすごいでしょうね。

川原 ああ、走りながら充電できますよね。それは実際にやろうとしてるグループがあります。

堀江 あ、そうなんですか、もうやってるんですか。

その2に続く

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Photograph=柚木大介 Text/Edit=村上隆保

川原圭博(Yoshihiro Kawahara)
東京大学大学院情報理工学系准教授(当時)2000年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2005年、東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。その後、大学院情報理工学系研究助手、助教を経て、2013年准教授に。2011から2013年まで、ジョージア工科大学客員研究員及びマサチューセッツ工科大学「Media Lab」の客員教員を兼任した。