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「自然に充電される」「漂う電波を使う」 【東大・川原圭博の考える新時代の給電システムとは?その2】

堀江貴文氏は8月18日、東京大学の川原圭博氏を取材。「給電システム」の未来などについて話を聞いた。(初回配信日:2014年8月21日)

家庭用プリンタで電子回路が作れる時代

堀江 川原さんは、他にも家庭用のプリンタで電子回路を作ったりしてるんですよね。

川原 はい。印刷で電子回路を作るのは、この業界では流行っていたんです。でも、これまでのやり方だとコストがかかってしまうので、なかなか使い道がなかった。だから、それを家庭用のインクジェットプリンタでやってみたんです。

堀江 銀ナノインクを使ってますよね。

川原 ええ。『三菱製紙』っていう日本の会社が作ったインクなんですけど、ある特別な性質があって、書いただけで回路ができるんです。

堀江 それは新しいですよね。

川原 今は簡単に曲げられるフレキシブル電子回路が流行っているんですよ。従来のコンピュータやスマホって、スピードや大きさの競争だけでつまらなかったので、もう少し違う発想で電子回路が作れないかなと思ったんです。東大の同僚の染谷隆夫先生が作ったものは、サランラップの5分の1から10分の1くらいの厚さの電子回路なんですが、体に貼り付けても感じることすらありません。

堀江 へー。

川原 ここまで薄くして体に密着させると運動中にどう筋肉を使っているかなど、筋肉ひとつひとつの動きまで今までにないくらいの解像度で情報が取れる可能性があるんですよ。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_0631.jpg

堀江 すごく細かいメッシュで情報が取れる。

川原 そうです。通常筋電は弱いので、それ取得してもそれを伝える伝送線でノイズに埋もれやすいのですが、これは信号を増幅する回路もフィルムの中に作り込めるので、 ノイズが乗る前に筋電位をノイズに負けないくっきりとした電気信号に変換できます。筋電とかBMI(体格指数)とか今流行ってますけど、そういうのがガラッと変わる可能性もあるという技術ですね。

堀江 ウェアラブルのなにかに使えそうですね。

川原 そうですね。まあ、これは世界最先端の技術なんですけど、我々はもうちょっと性能が劣ってもいいので、電子回路をもっと手軽に作れないかという点に着目してきました。つまり「1万円以下で買える家庭用プリンタを使って、電子回路ができないか」ということで、このプロジェクトが始まったわけです。プリンタって、1ピコリットル(1兆分の1リットル)とかすごく小さな液滴を、1ミリ以下の精度で打てるすごくハイテクなデバイスなんですよ。それを使わない手はない。銀を使ったインクはこれまでもあったんです。でも、三菱製紙が作ったインクの素晴らしいところは、プリントした瞬間に電気が通ることなんです。逆に言うと、これまでのは通らなかった。

堀江 すごいですね。

川原 そして導電性の両面テープっていうものがあって……。

堀江 導電性のね。

川原 それで貼るだけで回路が作れちゃう。

堀江 めっちゃ便利ですね。

川原 ソフトもイラストレーターでもパワーポイントでも使えますしね。曲げられますし、コーティングすれば水の中でも使えます。

堀江 これまでは、どんな回路を作ったんですか?

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: DSC_0715.jpg

川原 普通の電子回路の基盤に使うようなものから、RFID(バーコードなど、人物や物品を識別する技術)などまで作れますね。今、力を入れてやってるのは水分センサーで、いろんなものの水分を量れます。あとは、巨大なタッチセンサー。折り紙のような展開図にタッチセンサーを印刷して立体に組み立てると、立体のタッチセンサーが簡単にできるみたいな、そういうアイデアです。要は、コンピュータでアルゴリズムを組めば複雑なパターンはいくらでも作れるという話です。インク以外にカーボンナノチューブとか、グラフェンとか流行っている材料を上手く組み合わせれば、プリンタだけでガスセンサーを作ることもできるんです。カーボンナノチューブに特定のガスが吸着したときに電気的な性質が変わるように塗布すれば、いいわけですから。

堀江 へー。

川原 家庭用プリンタがいいのは4色のインクタンク、黒とCMY(C=シアン・水色、M=マゼンタ・赤紫、Y=イエロー・黄色)があることです。その中のひとつに三菱製紙のインクを入れておけば、自動的にいろいろな電子回路が刷れるということです。なので、新しいiPhoneが出ると家のプリンタで印刷して使うみたいな日が来ないとも限らない。

堀江 ハハハ(笑)。本当にそうですね。有機ELのペラッペラのやつが出たらほんとにiPhoneがペラッペラになっちゃいますよね。

川原 ええ。ディスプレイも印刷できますからね。

堀江 そうなんですか。

川原 はい。うちのグループではないですけど、東大の他の研究室でやってます。

堀江 そうしたらペラッペラのiPhoneに無線給電するわけですね。あ、でもそうなると、もう携帯電話というよりコンタクトレンズみたいなものになっちゃうんですかね。

川原 コンタクトレンズだと、たぶんつけても見えないと思うんですよ。

堀江 あ、そうか。たしかにコンタクトレンズだと透過しちゃいますよね。じゃあ、やっぱりメガネ型しかないんですかね。

川原 でしょうね。あとは脳みそですかね(笑)。

堀江 脳みそに直にやるしかないんですかね(笑)。

川原 あと、産業用だけじゃなくて、今は教育用にも展開を考えているんです。絵を描くように電子回路を作れないかなって。たとえば、アイコンだったり、点滅するLEDだったり、いろんな回路がステッカーになっていて、それをペタペタ貼るといろいろな回路が作れる。

堀江 ひとつ、ひとつのパターンが回路になっているんですね。

川原 そうです。それがシールになってて、使いたいところに貼る。そういうアイデアなんですけどね。

その3に続く

川原圭博(Yoshihiro Kawahara)
東京大学大学院情報理工学系准教授(当時)。2000年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2005年、東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。その後、大学院情報理工学系研究助手、助教を経て、2013年准教授に。2011から2013年まで、ジョージア工科大学客員研究員及びマサチューセッツ工科大学「Media Lab」の客員教員を兼任した。