堀江貴文氏は7月26日、ワシントン大学の今井眞一郎教授を取材。抗老化と長寿などについて話を聞いた。老化が進んでしまうメカニズムとは?(初回配信日:2017年7月26日)
人間でいう60歳前後のマウスの活動量が30代に戻った
堀江貴文(以下、堀江) 今井さんは、いつ頃から“老化”の研究をされているんですか?
今井眞一郎(以下、今井) 医学部の学生だった1987年頃から老化の研究をはじめて、大学院で助手をしていた97年にアメリカに渡り、MIT(マサチューセッツ工科大学)で博士課程後(ポスドク)の研究を行ないました。その後に、ミズーリ州セントルイスのワシントン大学で老化•寿命研究の自分のラボを開いたのが2001年ですから、老化研究一筋30年ですね(笑)。
堀江 30年か、すごいですね。今日は、その老化の研究について詳しくお聞きしたいんです。
今井 わかりました。まず、老化や寿命の研究は大きく「細胞レベル」と「個体全体」に分かれていて、私の研究室では主に個体全体の老化の過程について研究しています。
堀江 はい。
今井 私たちは脳や心臓、肺、肝臓それから骨格筋や脂肪など、いろいろな臓器を持っていますよね。その臓器たちがお互いにコミュニケーションをとって、全体がちゃんと働くようになっています。老化はこのコミュニケーションが悪くなることで起こります。この臓器のコミュニケーションによって成り立つシステムのことを私たちの研究室では、“NADワールド”と呼んでいますが……。
堀江 NADって、ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(=電子伝達体)ですよね。
今井 そうです。よくご存知ですね。で、そのNADワールドには、“視床下部”と“骨格筋”と“脂肪”という3つの重要な構成因子があります。視床下部は老化のコントロールセンター。骨格筋は視床下部からのシグナルを受けて、他の臓器をコントロールする物質を分泌するエフェクター。脂肪は視床下部を助ける重要な物質を分泌するモジュレーター。
堀江 それは、フィードバックループになっているということですか?
今井 そういうことです。なぜ視床下部がコントロールセンターだとわかったかというと、サーチュイン(長寿遺伝子)の中で一番メジャーなSIRT1(サーティワン)を脳内で強めたマウスを作ったら、長寿だけでなく老化が著しく遅れました。その時に脳の中でどの神経細胞が活発な動きをしているのかを調べたら、視床下部だった。さらに興味深かったのは、視床下部だけでSIRT1の働きを強めたら、人間でいうと50代後半から60代前半だったマウスの活動量が30代くらいになった。カラカラとホイールを回す活動量が30代くらいに戻ったんです。
堀江 へぇー!
今井 そして、そのマウスの骨格筋を調べてみると、構造や機能も若い状態に保たれていました。視床下部から交感神経を通じて骨格筋にシグナルが行くことがわかったんです。このことで筋肉が老化して介護が必要になるようなロコモティブシンドロームなどは、筋肉だけではなく脳が弱ってくることが原因だということがわかってきました。
今井眞一郎 Shinichiro Imai
1964年生まれ。医学博士。米国ワシントン大学医学部教授。慶應義塾大学医学部卒。哺乳類における老化・寿命のメカニズムの研究及びその理解に基づく抗老化方法論の確立が専門。