近年、生成AIの台頭によって劇的な変化を遂げるテクノロジー業界。しかしその裏側では、圧倒的な資金力を持つ米国や中国のメガテック企業による「力技」の覇権争いが繰り広げられている。
今回、実業家の堀江貴文氏が訪れたのは、日本の最先端研究を支える「奈良先端科学技術大学院大学」。ここでソフトウェアのスペシャリストである藤原健真氏(LENZO代表取締役)と、半導体・スパコンの“生き字引”である中島康彦教授がタッグを組んだ、超省電力AI半導体ベンチャーの挑戦に迫った。第1回では、現在の大規模言語モデル(LLM)ブームの裏側にある残酷な資本論と、エンジニアのリアルな開発環境に迫る。
・その2:「データセンターと原発はセットか?」NVIDIAを追うAI半導体開発の最前線と、精度を落として電力を下げる新潮流
・その3:「プレステ3で止まった日本の『垂直統合』の夢をもう一度」世界一のスパコン技術×民生ハードの知見が交錯する、ラストチャンスの引き際
奈良先端大に集った3人、それぞれの歩み

堀江貴文氏(以下、堀江):はい、どうぞよろしくお願いします。僕、この大学(奈良先端科学技術大学院大学)に来たのは初めてなんですよ。
藤原健真氏(以下、藤原):そうですか。まあ、ちょっと辺鄙なところにありますからね。
堀江:いや、奈良自体には何度も来ていますけれど、この大学は初めてですね。
藤原:ようこそ奈良先端大へ。よろしくお願いします。
堀江:よろしくお願いします。他の先端系の大学には行ったことがあるんですけれどね。それこそ北陸とか、沖縄とか。
藤原:奈良先端大はちょっとアクセスが良くないところにありまして、駅からも距離がありますからね。
堀江:なぜここにできたんですかね、ここは。
中島康彦教授(以下、中島):それは、ここに作れと「偉い人」が言ったからここにできてしまったんですね(笑)。
堀江:ああ、なるほど(笑)。でも結構前からありますよね。
中島:といっても三十数年で、その後は新しい国立大学ができていないです。
堀江:なるほど。そうなんですね。皆さんはずっと電子工学系なんですか?
藤原:私はソフトウェアで、中島先生はハードウェアです。
堀江:それで今、ベンチャーを立ち上げられて。最先端AI。
藤原:ええ、競争が激しい分野ですが、先生の技術をもって世界と戦うために、2年前に設立したベンチャー(LENZO)になります。
堀江:なんというか、AI……日本勢……微妙ですよね。
藤原:そうですね……。実は私、直近までAIのモデルレイヤー、上のアプリケーションレイヤーのスタートアップを経営していたのですが、ご存知の通りなかなか苦戦しまして。やっぱり一つはデータ量、技術力、あとやっぱり資本ですね。半導体もそうですけれど、ちょっとやはり日本はもう周回遅れになりつつあるのかなという気はします。
「LLMは力技」――エンジニアが結局“Claude一択”になる理由

堀江:ちなみに、前はどのようなものをやっていたのですか?
藤原:大規模言語モデルのブームが来る前だったので、ヘルスケアから産業系まで幅広く、企業ごとにモデルを作るビジネスをさせていただいていたのですが、やっぱりデータ量とか、技術でいうと、アメリカや中国と比べると苦戦するところがあったのかなとは思いますね。
堀江:でも、大規模言語モデルに関していうと、あれって力技っぽいところがないですか?
藤原:あります。もう要は、本当にお金の世界だと思いますけれどね。
堀江:僕もそう思うんですよね。ただ、その勇気を持ってそこに張る(巨額の資金を投資する)かどうかみたいな。
だけど例えばAnthropicとか、今すごいバーッと伸びているじゃないですか。ああいうのって、でもああいうちょっとしたことだと思うんですよね。その大規模言語モデルのブームを作ったのってOpenAIだと思うんですけれど、なんかコンシューマー向けのプロダクトというか、サービスが多かったじゃないですか。それは割と滑っていて、動画の生成モデルとかでも滑ったじゃないですか。だけど結局「コーディングツールかよ」みたいな(笑)。
藤原:そうですね。我々も内部で使うんですけれど、正直やっぱりもうClaude一択でして。
堀江:でも最近、Codexも調子良くないですか?
藤原:そうですね、キャッチアップしているという風にはよく聞きますね。正直両方使っていると思うんですけれど、Anthropicのほうがエンジニアの方はよく使われていますね。
堀江:僕も昔プログラマーだったんで、よくわかるんですけれど、やばいですね。
藤原:もうほとんど、書けちゃいますね。
堀江:何にもやらなくてもいいレベルになってしまっているから。しかも、組み込み系のシステムまで、僕は全くわからないのに、なんか「USBでつなげろ」って言ったらつながるし。「何なんだこれ」みたいな。
藤原:そうですね。もう仕様とかAPIを渡して、SDKを渡して、「じゃあこれ用のコードを書いて」って言えば、もうほぼエンド・ツー・エンドで書いちゃいますから、やっぱり。
堀江:うーん。いや、だからすごい時代になったもんだなと。
藤原:ただ、この後お話があるんですけれど、とはいえ、やっぱり半導体ハードウェアというのは、まだまだちょっと私から見ると手がつけられない領域で、本当に専門性のある方じゃないと、やっぱりまだ作ることができない領域かなという気はします。
藤原健真(Kenshin Fujiwara)
滋賀県出身。カリフォルニア州立大学コンピューターサイエンス学部卒業後、Sony Computer Entertainment(現Sony Interactive Entertainment)に入社。ゲーム機PlayStation2・3のCPU・GPU開発に携わる。その後、数社のIT・AI系スタートアップを創業し、2024年LENZO INC.を共同設立、CEOに就任。
中島康彦(Yasuhiko Nakashima)
佐賀県出身。1986年京都大学工学部情報工学科卒業、1988年修士課程(情報工学専攻)修了、1998年博士(工学)。1988年富士通株式会社電算機開発部(兼)スーパーコンピュータ開発部、1999年京都大学、2006年奈良先端科学技術大学院大学、2024年LENZO INC.共同創設、現在に至る。