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自動運転で「移動の権利」を再構築する──あのタクカンパニーが描く、地域交通インフラの次のかたち

■はじめに:地域交通の“静かな崩壊線”

日本の地方交通は、静かに、しかし確実に限界へと近づいている。
タクシーが捕まらない。バスが来ない。乗務員がいない。
こうした現象は一部の過疎地域ではなく、全国の地方都市で広がりつつある。

国土交通省の公表資料によれば、2008年度〜2023年度の15年間で、約23,000kmの路線バスが廃止された。また、全国ハイヤー・タクシー連合会によれば、タクシー車両数も16年間で約57,000台減少(約24%減)している。
数字の解釈には注意が必要だが、少なくとも“移動の選択肢が縮小している”現実は明らかである。

こうした交通インフラの空白を埋める手段として、政府は2027年度までに「無人自動運転移動サービスを全国100地域以上で実現」する方針を掲げている。
これが政策的な背景であり、テクノロジーによる交通再構築が「検討段階」から「社会実装フェーズ」へ移行しつつある。

この潮流の中で、北海道帯広市でタクシー事業を展開するTKタクシー株式会社をグループに持つミライズグループは、自動運転車両によるロボットタクシー・ロボットバスの運行事業に特化した新会社「あのタクカンパニー」を設立した。

本稿は、同社の設立リリースをもとに、ZEROICHI編集部が社会的文脈とともに再構成したものである。

1.深刻化する“移動弱者”問題

― 乗務員不足 × 人口減少が生む交通インフラの空洞化

まず確認しておきたいのは、交通サービスの縮小要因は単一ではなく、以下の複合的な構造にある点である。

●(1)乗務員不足

バス・タクシー乗務員の高齢化と人材確保難は、地方部で特に顕著である。地域によっては、タクシーの配車に30分〜1時間以上かかることが日常化しているという報告もある。

●(2)人口減少

人口減少は、公共交通の収益性を低下させ、維持コストを賄えない地域を増やしている。路線廃止・減便が進む背景には、需要の低下だけではなく「担い手がいない」という問題が重なっている。

●(3)移動格差の拡大

高齢者、学生、免許返納者、障害者など“移動の選択肢が少ない層”が多い地域ほど、社会参加が制限されやすくなる。
交通インフラは単なる移動手段ではなく、「教育」「医療」「労働」「地域コミュニティ」など、生活の根幹に結びつく。

この状況は、単なる利便性の問題ではなく、「移動の権利」そのものが揺らいでいる問題と言える。

2.自動運転は“贅沢な未来技術”ではなく、“持続可能な公共財”である

自動運転というと、未来的・華美なイメージが先行しがちである。しかし、地方交通の現状を見る限り、むしろ必要最低限の生活インフラを維持するための現実的な解と位置づけるべきである。

政府は2027年度までに「無人自動運転サービスの100地域実装」を掲げているが、その背景にあるのは以下の必然である。

  • 人口減少で“増員”という解が成立しない
  • 地域公共交通を市場原理だけで維持できない
  • 既存の交通網だけでは安全・安定性を担保できない

つまり、「自動運転が必要なのではなく、現行インフラが持たない」という構造的問題として捉えるべきである。

こうした状況下で、あのタクカンパニーは“移動弱者の生活動線を守る新たなインフラ”として、自動運転型のロボットタクシー・ロボットバスに着手した。

3.あのタクカンパニー設立の背景

― 過疎と都市部の両方に存在する「移動の空白」

同社の親会社ミライズグループは、北海道帯広市を中心にタクシー事業を展開している。
帯広市は、人口密度が比較的高い都市部と郊外の農村エリアが混在する地域であり、多様な交通課題が可視化されやすい地域構造を持つ。

タクシー運行の現場では、

  • 配車待ち時間の増加
  • 乗務員の確保難
  • 夜間運行の縮小
  • 高齢者の移動の不自由化

といった問題が重なり、現場のオペレーションが限界に近づいている。

ミライズグループはこの状況を踏まえ、「現行の延長線では交通インフラを維持できない」という結論に達し、2025年10月1日付であのタクカンパニーを設立した。

4.同社の事業方針:2027年度レベル4運行を目指す

― 海外技術 × 国内アライアンスのハイブリッドモデル

リリースによれば、あのタクカンパニーは以下の方向性を掲げている。

(1)海外自動運転技術の積極導入

自動運転技術は、海外企業が実装面で先行している領域も多い。同社は「技術を国内で再発明する」ことよりも、「安全性が確認された海外技術を導入し、国内仕様の運行オペレーションに適合させる」方針を取る。

これは、時間的にも資本的にも合理的であり、社会実装を急ぐ上で現実的なアプローチである。

(2)自治体・国内企業とのアライアンス

自動運転事業は、単独企業では成立しない。

  • 道路管理者
  • 地方自治体
  • 地域交通事業者
  • 保険・法務・安全基準
  • 地域コミュニティ

これらが連動して初めて成り立つ領域である。
あのタクカンパニーは、自治体との協働を前提とした事業モデルを志向している。

(3)レベル4(特定条件下での完全無人運転)を目指す

2027年度までに実現を目指すのは、限定エリアでのレベル4運行(完全無人)である。
これは、有人監視が前提のレベル3とは明確に異なる段階であり、運賃モデル・運行オペレーション・安全監視体制が大きく変わる。

自動運転の社会実装においては、技術以上に“運行オペレーションの構築”が最大の壁になる。
同社はここを事業の中核として据えている。

5.経済合理性:ロボタク・ロボバスは「公共交通の不足を補う存在」になるか

ロボットタクシーは“既存タクシーの代替”ではなく、“不足している交通サービスを補う新層”として捉えるのが正しい。

●なぜ「代替」ではなく「補完」なのか

  • 既存タクシーは慢性的に乗務員不足
  • 需要に供給が追いつかない
  • 夜間・郊外など採算が取れないエリアが増加
  • 全てを人で賄う構造では持続不能

ロボタク・ロボバスが担うべきは、「人手で維持できなくなった移動の穴」を埋める役割であり、結果的に地域全体の移動能力を底上げする。

自動運転車両の導入は、既存事業者との対立を生むものではなく、むしろ既存交通を存続させるための基盤整備と捉えるべきである。

会社概要

会社名:株式会社あのタクカンパニー

所在地:東京都新宿区新宿2丁目12番13号 新宿アントレサロンビル2階

代表者:代表取締役 小林義幸

設立 :2025年10月1日

URL:https://miraizu-selfdriving-bus.com/selfdriving-bus_lp/

6.ZEROICHI編集部が本件を取り上げた理由

― 技術ではなく「生活のリアリティ」を変える取り組みだから

本リリースを編集部が取り上げた理由は、単に自動運転という先進技術にあるのではない。
それは、“移動という生活基盤の再設計”という社会的意義にある。

具体的には以下の3点に注目した。

POINT 1
移動の権利が失われつつある現実を、テクノロジーで補完する取り組みだから

過疎・都市部の両方で、移動制約が生活者の選択肢を奪っている。
この課題を「技術の導入」ではなく「インフラの再構築」として捉えている点は重要である。

POINT 2
“地方交通 × 自動運転”という社会実装の最前線を示す事例だから

実証実験ではなく、事業会社としての本格立ち上げである点が大きい。
実装フェーズに踏み込む企業は国内でも多くない。

POINT 3
既存交通との対立構図ではなく、“不足する交通層を補完する”という設計思想だから

ロボタクを「人の代わり」ではなく「人がカバーできない部分の補完」に置く姿勢は、地域交通の健全な発展に資すると判断した。

7.まとめ:交通インフラの未来は「共存」と「補完」にある

自動運転は、未来的な贅沢技術ではない。
むしろ、人口減少社会の日本において、「現行交通インフラを維持するために必要な公共技術」である。

あのタクカンパニーの事業は、
“人が担う部分”と“技術が担う部分”を適切に分担し、
地域交通の持続可能性を高める取り組み

として位置づけられる。

移動の自由が維持されることは、教育・医療・労働・地域コミュニティの維持とも密接に結びつく。
本取り組みは、地方だけではなく、都市部の交通未来にも影響を与える可能性を持つ。

原文リリース発表日付:2025年12月3日
自動運転サービスで地域交通の課題を解決する「あのタクカンパニー」の設立のお知らせ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000173929.html

※本記事は、原文から一部編集・要約して掲載しています。
誤解や偏りが生じる可能性のある表現については、原文の意味を損なわない範囲で調整しています。