分割払いが当たり前になる時代、賃貸の入口はどう変わるのか
賃貸住宅の契約では、敷金・礼金・仲介手数料など、入居前にまとまった初期費用が発生する。転職・進学・就職といったライフイベントが集中する局面で、住み替えは「必要なのに実行しづらい」意思決定になりがちである。住環境を変えることが機会(職・学び・健康・家族)に直結する一方で、初期費用は可視化されにくい負担として個人の選択肢を狭めてきた。
初期費用分割サービス「スムーズ」を展開する株式会社スムーズは、シリーズBラウンドのファーストクローズで総額約28.5億円の資金調達を完了した。第三者割当増資として約15.8億円、加えて複数の金融機関等から約12.7億円の融資・運転資金枠を確保し、合計約28.5億円に達したという。
この規模の調達が示すのは、単に一社の成長期待ではない。「賃貸の初期費用」という生活インフラの入口に、金融とプロダクトで再設計を試みる動きが、投資家・金融機関双方にとって“スケール可能な領域”として見え始めている、という構図である。
「クレカ不要の分割」がもたらすもの
スムーズは、賃貸契約時に発生する初期費用を、クレジットカードを使わず分割払いにできるサービスである。就職前の新卒学生や転職する社会人など、「当面のキャッシュフローに不安はあるが、引越ししなければならない」というユーザーを中心に支持され、サービス登録者数は43万人を突破している(2025年12月現在)とする。
初期費用の分割は、消費の拡大ではなく「移動の実行可能性」を上げる装置になり得る。たとえば、住まいを変えられないことで生じる通勤負担や就労機会の制約、家族構成の変化に伴う無理な居住継続といった“生活側の歪み”は、家賃だけでなく初期費用の一括支払いが引き金になることがある。分割という選択肢が、意思決定のタイミングをずらし、必要な移動を可能にする。これは「住み替えの摩擦」を減らす方向の金融である。
一方、不動産会社側にとっても、初期費用を理由とした顧客離脱を防ぎ、成約率や売上改善につながるツールとして評価されているとしている。導入・利用ともに無料で、導入店舗が急増している点も強調されている。
社会課題としての「初期費用」──見えにくいが、確かに効いている
同社は「賃貸の初期費用が高く、引越しに踏み切れない」という課題について、国土交通省の「住宅市場動向調査」(平成22年〜令和元年)を引き合いに、長期にわたり賃貸に関する困りごとの上位に挙がってきた問題だと位置づける。
重要なのは、初期費用の問題が“家賃水準”の議論に吸収されやすい点である。家賃は毎月の支払いとして認識されやすいが、初期費用は契約前に集中的に発生し、比較・検討の段階で疲弊を生みやすい。さらに、引越しは人生の転機と重なるため、貯蓄余力が薄いタイミングで発生しやすい。社会の流動性が求められるほど、入口の負担が足かせになる構造がある。
28.5億円調達の中身が示す「事業構造」
今回の調達は、エクイティとデットを組み合わせた形である。リード投資家として前澤ファンドを迎え、既存投資家のサイバーエージェント・キャピタルに加え、XTech Ventures、広島ベンチャーキャピタル、Valueup Partnersなどが出資。さらにデットとしてモルガン・スタンレーMUFG証券、北國銀行、静岡銀行、Flex Capital(株式会社Fivot)、日本政策金融公庫から約12.7億円の融資・運転資金枠を確保した。
この内訳は示唆的である。初期費用分割は、ユーザー体験としては「支払い方の変更」だが、事業としては「立替資金(原資)」と「審査・回収」の運用が中核になる。同社も、デットファイナンスは初期費用の立替資金として活用すると明記している。
つまり、プロダクトの成長は、原資調達とリスク管理の成熟度と表裏一体である。規模が拡大するほど、金融機関との連携、ファイナンス手法の多様化、そして審査・延滞対応の統制が競争力になる。
AI審査15秒と43万人──スピードの裏側にある論点
スムーズは、43万人規模のユーザー基盤と「最短15秒で完了するAI審査」などのユーザー体験を武器に成長してきたとし、導入店舗数が前年同期比3倍という成長スピード等が評価されたとしている。
ただし、生活に近い金融である以上、ここには必ず論点が伴う。
第一に、審査の公平性である。AI審査が迅速であることは利便性だが、説明可能性や誤判定時の救済導線が弱いと、不透明さが不信につながる。
第二に、過剰利用の抑制である。「分割の手軽さ」が、支払い能力を超えた契約を誘発しない設計が求められる。
第三に、個人情報・信用情報の扱いである。LINEを活用した簡便さがあるからこそ、利用者はどのデータが何に使われるかを理解しやすい形で提示されるべきだ。
これらは否定の指摘ではない。むしろ、住み替えの摩擦を減らす金融が社会に根付くために、避けて通れない「信頼の設計条件」である。
ZEROICHI編集部が注目した理由
本件を取り上げる理由は、資金調達額の大きさだけではない。初期費用という“見えにくい固定観念”を、分割という当たり前の支払い行動へ接続し、住み替えの入口を作り替えようとしている点に注目した。
賃貸領域では、家賃・立地・築年数といった比較軸は多いが、「最初に払えるか」が最後まで残る壁になりやすい。そこに金融の仕組みを差し込むことは、単なる利便性ではなく、生活の可動域を広げる可能性を持つ。
一方で、生活者金融である以上、事業の拡大は「原資調達」「審査・回収」「透明性」の三点セットでしか成立しない。今回のエクイティ+デットの構成は、その前提を踏まえたスケール設計の輪郭を示している。
“住み替えの金融”が、社会にとって意味あるインフラになり得るのか。成長の速度と同時に、信頼の作法が問われる局面に入っている。
■原文リリース(参照)
原文リリース発表日付:2025年12月17日
タイトル:初期費用分割サービスのスムーズ、総額約28.5億円でシリーズBをファーストクローズ
原文リリースのURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000058784.html
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