polyphonyで提供された料理の一皿
FOOD

魚の未来を変える藻は、料理の現場にどう入り始めているのか

本記事は、株式会社AlgaleX(沖縄県うるま市 代表取締役 髙田大地氏)への取材、および東京都新宿区四ツ谷のレストラン「polyphony」における実食時の対話をもとに構成したものである。

前回のZEROICHI掲載では、うま藻を「珍しい新食材」としてではなく、魚を食べ続けられる未来のために、魚を育てる前提条件そのものを組み替えようとする試みとして整理した。

今回確認したのは、その考えが、実際にどのような順番で市場に入り始めているかという次の段階である。

前回見えたのは、うま藻が「なぜ生まれたのか」だった

前回記事で見えていた核心は、うま藻が単なる“美味しい藻”ではなく、天然魚に依存する養殖構造の矛盾に向き合うための入口として生まれているという点であった。

養殖を増やして食を支えようとしても、その餌がなお魚由来である限り、構造的な解決には届かない。だからこそ、AlgaleXは食物連鎖の起点にある藻へと遡り、その上流を再設計しようとしている。

ここで重要なのは、同社が最初から飼料市場に入っているわけではないことである。

価格競争の激しい飼料市場へ正面から入るのではなく、まずは食材として市場に入り、収益と認知と生産基盤を整え、その先で本来の目的関数である養殖構造の側へ接続していく。

この段階設計そのものが、事業の強さである。

では、その構造は現実の社会でどのように立ち上がっているのか。今回見えたのは、その問いに対する一つの具体的な答えである。

うま藻は何か、ではない。うま藻が、どのような順番で社会に入り始めているのか。その輪郭が、試食と導入現場の双方から見え始めていた。

試食時に用意されたうま藻のサンプル
試食時に用意されていたうま藻のサンプル。今回見えたのは、構想としての素材ではなく、すでに社会実装の入口に立っている食材としての姿である。

うま藻は、単なる“美味しい調味料”として設計されているわけではない

高田氏との対話から見えてきたのは、うま藻が単なる味の面白さだけで位置づけられている素材ではないということである。

乾燥品として流通できるだけでなく、酸化や劣化を抑えるための液体調味料化も進めているという説明からは、素材そのものよりも、どういう形で社会に載せるかまで含めて設計されていることが分かる。

1グラムの乾燥品が、乾燥前には約4グラム程度の状態であり、取れたてでは“プリンのようにプルプルした状態”であるという説明も、うま藻が単なる粉末調味料ではなく、もともと別の物性を持つ食材であることを示している。

さらに今回の対話では、うま藻を育てる原料や環境が味へ反映されうること、そしてそれが将来的には地域の資源や土地の味を閉じ込める食材として機能しうることも語られていた。

ここで語られているのは、珍しい味の発明ではない。未利用資源、培養制御、味覚、流通、地域性が一つの素材に束ねられていく可能性である。

うま藻において「美味しい」は否定されるべきものではない。むしろ必要な入口である。ただし、それだけで語ると事業の本質は見えなくなる。

AlgaleXが直面している最大のリスクは、まさにそこにある。美味しい食材として見られる一方で、本来の構造改革とのあいだに市場ストーリーの断絶が生まれやすいのである。

だからこそ、この素材は“商品”としてだけではなく、本来の課題へ向かうために設計された市場への入り方として読む必要がある。

塩を加えたうま藻のサンプル
塩を加えたうま藻。単なる“珍しい味”としてではなく、どの形で市場や料理の現場に載せるかまで含めて設計されている。

構造を変える素材であっても、最初に問われるのはやはり「味」である

どれだけ社会的に正しい問題設定であっても、市場へ入るときには使う理由が必要になる。

うま藻にとって、その理由の第一歩はやはり味である。

実際、前回までの取材でも、高田氏は「食べれば分かる」と語り、その味わいをカラスミに近い旨味として説明していた。味覚体験として人を引きつける入口を持っているからこそ、その先に構造の話をつなげることができる。

一方で、ここを取り違えると、うま藻は“ちょっと変わった調味料”としてしか理解されない。

四ツ谷での対話でも、高田氏は、自社を「藻で作った調味料の会社」とだけ捉えられることへの違和感を率直に語っていた。

これは単なる広報上の不満ではない。表層の美味しさと、深層の構造改革が切り離されて見えてしまうこと自体が、事業リスクだからである

だから今回見るべきなのは、評判や話題性ではない。料理の現場で、なぜ使われるのかである。

技術が市場に降りていく最初の段階とは、ただ売られていることではなく、使い手がその素材を選ぶ理由を持ち始めていることだからである。

polyphonyで見えたのは、“説明される素材”ではなく“採用される素材”としてのうま藻だった

今回訪れた polyphony は、東京で最初にうま藻を使い始めた店として、高田氏が案内した現場である。

店主の竹口敏樹氏は、日本酒と料理のペアリングを追求する過程で、食材の栄養や調理法に関心を深め、現在の料理スタイルに至ったと公式にも紹介されている。

polyphony 店主のポートレート写真
今回の記事で重要なのは、うま藻が語られる素材ではなく、実際に採用される素材になり始めている点である。導入店の存在は、その具体性を与える。

今回重要だったのは、うま藻がこの店で“話題の素材”として置かれていたのではなく、料理の設計の中で採用され始めていたことである。 

対話の中で店側から語られていたのは、うま藻が単に珍しいということではなかった。

  • 美味しかったこと。
  • 野菜料理に相性があること。
  • 甘みや旨味の輪郭が立つこと。
  • 魚を使わなくても出汁のような力が見えること。

そうした評価が、導入理由として挙がっていた。

とりわけ、野菜そのものの味を覆うのではなく、輪郭や奥行きを補うかたちで働く点が、野菜料理を軸に組み立てる現場と噛み合っていた。

ここで重要なのは、評価を“美味しい”の一言で済ませないことである。

料理人にとって意味があるのは、何に合うのか、どう効くのか、どの料理思想に接続するのかである。今回の現場では、それが“魚介の代用品”としてではなく、野菜料理の味の設計を補強する素材として受け止められていた。

polyphony のように野菜料理を軸に構成する現場に入っていること自体が、うま藻の性格を示している。

この場で見えていたのは、素材の説明ではなく、採用理由の分解であった。

使われるからこそ、輪郭が立つ

どの料理に馴染み、どんな役割を果たし、どこで過剰にならず、どこで立つのか。そうした判断が、レストランの現場では具体的に試される。うま藻はこの段階に入り始めていた。

polyphonyで提供されたうま藻使用料理
polyphonyでは、うま藻は“説明される素材”ではなく、料理の設計に組み込まれる素材として扱われ始めていた。

ここで見えたのは、一皿の評価ではなく、社会への入り口の輪郭だった

今回の現場で重要なのは、特定の料理が美味しかったかどうかだけではない。見えてきたのは、うま藻が社会へ入っていくときの最初の経路である。

家庭の食卓へ直接広がる前に、まず料理人の現場で、どの料理に馴染むか、どんな使い方で立つか、他の素材との関係でどんな役割を果たすかが試される。

その意味で、レストラン導入はゴールではなく、素材が使われながら輪郭を持ち始める最初の局面である。

前回記事で見えていた「日常へ入り込む必要」と、今回の導入現場は一本の線でつながっている。

高級珍味として強い反応を得るだけでは、スタートアップとして十分な広がりには届かない。だからこそ、食材としての導入現場を経由しながら、日常の使い方へ接続していく必要がある。

うま藻は、いきなり“未来の食”として広がるのではなく、まず現場に選ばれながら輪郭を持ち始めているのである。

うま藻の価値は、「珍しい食材」で終わらないところにある

もし、うま藻を「カラスミのような旨味を持つ藻」としてだけ扱えば、それは面白い新食材の紹介で終わる。

しかし本当に重要なのは、その背後に、魚に依存しない供給構造への問題意識があり、未利用資源や培養制御の技術があり、その本丸に向かうための市場導入の順序設計があるという点である。

AlgaleXの価値核は、魚を守るために、魚を育てる前提そのものを再設計することにある。

今回確認できたのは、その構想が単なる理念のままではなく、料理の現場で“使われるもの”として試され始めていることだった。

技術はまだ説明の対象であり続けるかもしれない。

しかし素材は、すでに使われ始めている。この順序が重要である。

うま藻の価値は、味の新しさにあるのではない。魚を育てる前提条件を変えていくための最初の市場接点として、現実の現場に着地し始めていることにある。

polyphonyで提供された料理の一皿
うま藻の価値は、珍しい食材であることではなく、構造を変える入口として現場に着地し始めていることにある。

ZEROICHIがこの取り組みを取り上げる理由

ZEROICHIが見ているのは、新しい食材や調味料の話題性ではない。

重要なのは、「魚が減るなら別のものを食べる」という代替の話ではなく、これからも魚を食べられる未来のために、その前提条件そのものを変えようとしている点である。

AlgaleXは、食の未来を“代替”ではなく“再設計”として捉えている。その発想が、きわめて構造的である。

しかもこの挑戦は、理念や正しさだけで進もうとしているのではない。入口には味があり、料理の現場で採用理由があり、そこから市場への入口をつくろうとしている。

美味しさ、技術、社会課題、事業設計が一本の線でつながっているからこそ、ZEROICHIが追う意味がある。

今回の現場は、そうした構造が初めて具体的な料理の現場に触れ始めていることを示していた。

ZEROICHIが取り上げる価値は、新しいものを紹介することではない。未来の食が、どのような順番で社会に実装されていくのかを可視化することにある。

会社概要

商号:株式会社AlgaleX
沖縄県うるま市に拠点を置く。藻類の培養・発酵制御技術を基盤に、食材開発から将来的な養殖向け展開までを見据えた事業を進めている。
代表取締役:髙田大地氏
うま藻公式サイト:https://umamo.jp/

導入店舗情報

店名:polyphony(ポリフォニー)
東京都新宿区若葉にあるレストラン。野菜料理と日本酒・日本ワインのペアリングを軸とし、東京で最初にうま藻を使い始めた店として今回取材した。
店主:竹口敏樹氏
公式サイト:https://www.polyohony2021.com/

過去掲載(参照)

引用・参考

※本記事は、取材および公開情報をもとに構成している。事実関係や固有情報については、公開情報を参照のうえ確認した。