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AIは意識と感情を持つか?脳機能から考える【堀江貴文✕乾敏郎京都大学名誉教授✕阪口豊教授】鼎談その3

心理学者・脳科学者であり、京都大学名誉教授を務める乾敏郎、電気通信大学大学院情報理工学研究科教授で脳の情報処理メカニズムを専門とする阪口豊。
堀江氏は、両氏の共著である『脳の大統一理論:自由エネルギー原理とはなにか』の基礎となっている自由エネルギー原理とchatGPTとの関係について聞いた。

人間の脳とchatGPTが融合する未来はあるのだろうか?

堀江 人間がなぜ怒りを覚えるかというと、例えば「給料が安い」とか「きちんと評価してくれない」とか、普段から社長に対する不満があって、それが「今日はお腹が痛い」とか「二日酔いだ」とかのきっかけがあって、感情が高まって怒るわけじゃないですか。でも、chatGPTはお腹が痛くならないし、二日酔いにもならない。だから、怒られたら「すみませんでした」と謝る。逆に「あなたは今、腹痛です」とか「二日酔いです」などとインプットしておくと、たぶん、怒りだすと思いますよ(笑)。

 なるほど。

堀江 最後にひとつ、どうしても聞いておきたいことがあるんですが、人間の脳とchatGPTのシステムをなんらかの手段でつなげると、どうなると思いますか?

 人間の脳のダイナミックス(動き)とchatGPTのダイナミックスが、同じでないとうまくいかないと思います。脳のリズムとchatGPTが計算するリズムは全然違います。ですから、融合して人間のように振る舞えるかと言ったら、私はちょっと疑問です。

堀江 実は、バーチャルな脳を研究をしている科学者の方がいるんですよ。脳は右脳と左脳が脳梁でつながっていますよね。

 はい。

堀江 例えば、サルにchatGPTみたいなものを組み込んだプロセッサー(処理装置)を脳梁に埋め込みます。そして、左脳の機能を停止させて、バーチャル左脳を動かします。バーチャル左脳と生体の右脳がつながってうまく機能したら、今度は右脳の機能を停止して、バーチャル右脳を起動させます。その場合、もともとあった意識はつながっているのか。その人は「つながる」と言ってました。すると、サルの脳をコンピュータに完全に移し替えることができるんじゃないですかね。

阪口 まあ、理屈としてはわかります。

 たぶん、最初のバーチャルな左脳と、生体の右脳がうまく協調できるかが鍵でしょうね。

堀江 でも、もし協調できると、どのようなことが起こるのかということに関心があるんですよ。だって、サルでうまくいったら人間でもうまくいく可能性は非常に高いと思います。そうすると、スーパー超人類ができるかもしれないということを考えているんです。

阪口 人間は体の中に取り入れたエネルギーを脳だけでなくいろいろなところに使わなければいけないという制約がありますが、その人工脳のシステムは、その制約を外してどんどん外部からエネルギーを入れていこうということですよね。だからこそ、生身の人間にはできない新しい可能性があり、それをうまく使えないかということだと思います。ただ、逆にいうと人間が持っている機能の多くは、その制約の中で生まれたものなので、もし意識がその制約の中で生まれてきたものだとすれば、人工脳に意識が出てくるかというのはどうかなあと思います。

堀江 じゃあ、制約があるように機械に思わせればいいんじゃないですかね。

阪口 そうですね。脳の研究は脳が置かれているのと同じ状況を作って、それを計算機でシミュレーションしましょうということなので、今、いわれたように人工知能にもそういう制約をどんどん入れていけば、人間に近いものはできてくると思います。

堀江 まあ、それはただ人間のふりをしているだけなのかもしれませんけど(笑)。でも、『脳の大統一理論:自由エネルギー原理とはなにか』は、いろいろ参考になるとてもいい本でした。

 ありがとうございます。実は9月に同じように自由エネルギー原理をベースにした本を出す予定があるんです。タイトルは『最新脳科学はウェルビーイングをどう語るか-「対話」と「ふれあい」の効果を探る』です。こちらも面白いのでぜひ、読んでみてください。

堀江 わかりました。本日はありがとうございました。

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Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

乾敏郎(Toshio Inui) 京都大学名誉教授
1950年生まれ。京都大学名誉教授。認知神経科学、認知科学、認知心理学が専門。

阪口豊(Yutaka Sakaguchi) 電気通信大学大学院情報理工学研究科教授
1963年生まれ。電気通信大学大学院情報理工学研究科教授。感覚・知覚・運動制御にかかわる脳の情報処理メカニズムが専門。