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嗅覚の受容体の研究から人間の五感の代替可能性を探る【堀江貴文✕東京農工大学院生命機能科学部門・福谷洋介助教】対談その2

堀江貴文氏は、東京農工大学院生命機能科学部門・福谷洋介助教から、現在行われている、嗅覚受容体によるニオイ応答機構の解析についての研究について話を聞いた。

福谷助教の研究により、嗅覚受容体の膜タンパク質の造成に成功したという。人間の五感を用いて評価する方法などに関わる技術開発を進めていく中で、明らかになってきたこととは…?

1人のゲノムに400種類の違う受容体が配列され、遺伝情報のかけ合わせでニオイのパターンが生まれる。

堀江 新型コロナの後遺症で嗅覚がなくなるという話を聞くんですけど、あれは本当なんですか?

福谷 一部、本当だと思います。嗅覚神経細胞ではなく、その神経細胞を支えている細胞が、新型コロナウイルスに感染するため壊れてしまう。すると、近くにいる神経細胞も死んでしまうというということはあると思います。

福谷洋介©ZEROICHI
©ZEROICHI

堀江 実は僕も3日くらい味覚がなくなったことがあったんですよ。だから、どういうメカニズムでそうなるのかが知りたくて……。

福谷 多分、受容体自体の機能が落ちたという方には、嗅神経細胞や周辺細胞が感染にともなってバーッと崩れちゃった方もいると思います。それに、嗅覚はわかりやすい症状なので「ニオイがしなくなった」とみなさんいいますが、他の部分が先に悪くなって、後からニオイを感じにくくなっていた方も多いと思います。

堀江 僕は味覚と嗅覚がなくなりましたね。めちゃくちゃ濃厚な豚骨ラーメンを食べていたのに、何を食べているのかわかりませんでしたから。だから、さっきのパクチーの話もおもしろいですよね。

福谷 堀江さんパクチーはどうですか?

堀江貴文©ZEROICHI
©ZEROICHI

堀江 僕はパクチーは全然大丈夫です。逆に爽やかでこんなにおいしい食べ物はないと思っているくらいです。

福谷 そうなんですね!

堀江 でも、ややこしいのは、パクチーのニオイがクサイと思っているのに、一周回ってクサイのが好きになる人がいるんですよね。そこがまたややこしいんです(笑)。

福谷 そうですね(笑)。先ほど、人間はニオイを感じる受容体を400種類ほど持っているといいましたが、ひとつの神経細胞は1種類の受容体しか作っていません。ですから、ひとつの神経細胞が反応するのはその受容体が応答する決まったニオイです。

堀江 その1つの受容体は、どうやって決めているんですか?

福谷 それは、ゲノム(すべての遺伝情報)に400種類の違う受容体がコード(塩基配列)されているんです。

堀江 そうなんですか?

福谷 はい。ですから、堀江さんには堀江さん独自のものがあります。そして、その配列は父方、母方のものがあるので、ひとつの受容体に対して2パターンあります。

堀江 そうなんだ。だから、パクチーのニオイをカメムシのニオイと感じる人もいるし、感じない人がいるんだ。

福谷 そうです。ただ、実際はパクチーのニオイについても3段階あると思います。「ものすごく臭く感じる」「ちょっとは臭く感じる」「まったく感じない」。これは父方と母方の遺伝情報のかけ合わせで、どのパターンになっているかによって違うわけです。パクチーのニオイは主にアルデヒドなので、アルデヒドを「分解できる人」「少し分解できる人」「まったく分解できない人」と同じようなパターンです。

その3に続く

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

福谷洋介(Yosuke Fukutani) 東京農工大学 大学院工学研究院 生命機能科学部門助教

1986年生まれ。東京都出身。2014年、東京農工大学大学院工学部博士課程を修了し、現職。2019年に「日本生物工学会東日本支部長賞」を受賞。現在は「嗅覚受容体をによるニオイ応答機構の解析、がん幹細胞の嗅覚受容体選択的発現機構及びその意義の解明」を研究中。