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地方でも大企業でも「脱炭素が続かない」問題──社員参加型が狙う“Scope3の空白” 設備投資の前に、行動が根付く仕組みはつくれるのか

6月の「環境月間」。多くの企業でSDGs・脱炭素イベントが実施される一方、取り組みが“一過性”で終わり、行動が根付かないという課題が繰り返されている。株式会社Linkhola(本社:東京都港区、代表取締役:野村恭子)は、この「継続性」こそが、脱炭素経営の実装フェーズを阻むボトルネックであると捉えたという。

同社が打ち出すのは、歩くだけで環境貢献につながるとするアプリを用い、環境行動を「通年化」する仕組みである。法人向けに初期費用・月額費用無料キャンペーンを掲げ、2026年春の“環境アクションシーズン”に向けて「企業間競争(共創)型脱炭素プロジェクト 2026春」への参加を呼びかけている。

本稿は、公開された情報をもとに、企業が抱える現実の課題と、この施策が狙う“空白”を整理する。

脱炭素が「疲れる」三つの壁

Linkholaは、現場で起きているつまずきを三つの「壁」として提示している。第一に、投資効率の壁である。省エネ設備に数千万円を投じても削減効果が小さい、外部コンサルに費用を払っても実行フェーズに進めない、といった不満が溜まりやすい。第二に、社員参加の壁である。担当部門だけが動き、社員の大半が無関心のまま終わる。研修やボランティアを行っても行動変容が起きない。第三に、差別化の壁である。評価指標やランキングが横並びになり、投資家やステークホルダーへ独自性を示しにくいという悩みがある。 

これらは「脱炭素疲れ」という言葉で雑に括られがちだが、実態は、施策の中身というより組織の“続かなさ”に起因する構造問題である。だからこそ同社は、設備や制度より先に、行動を根付かせる仕掛けに焦点を当てたのだと読める。

Scope3という“やらねばならないが、手が届きにくい領域”

企業の排出削減は、Scope1・2(自社の直接排出や購入電力等)だけでは完結しない。サプライチェーン排出量であるScope3、とりわけ従業員の通勤・出張に伴う排出量の把握と削減が急務だという認識は広がっている。Linkholaも、ここを今回の企画の中心課題としている。

しかしScope3は、設備投資のように“買えば減る”世界ではない。通勤・出張は業務と生活に接続しており、命令で一気に変えると反発が起きる。結果として、重要だと分かっていながら「測る」「続ける」「示す」が難しい。ここに、多くの企業の停滞が生まれる。

この停滞は、脱炭素の是非という倫理の問題ではなく、運用設計の問題である。続かなければ、数値も実績も積み上がらない。実績がなければ、次の投資判断も進まない。Linkholaの企画は、この“空白”に足場を作ろうとしている。

「3ヶ月36万円」で何を買うのか──削減量ではなく、設計で勝負する

今回のプログラムは、スタンダードプランが「3ヶ月体験セット:36万円(税抜)/200名」で、1人あたり月額600円相当だとされる。

ここで注意すべきは、これが「CO2を買う」話ではなく、“行動が変わる仕組み”を買うという設計である点だ。

同社は、アプリ「こつこつ(CO2CO2)」で、社員一人ひとりの開始前(Before)と終了後(After)のCO2排出データを可視化し、達成感を行動継続につなげるという。個人・部署・会社全体の削減量をリアルタイム表示し、行動変容率や目標達成度を数値化する。さらに企業間ランキングを設け、健全な競争意識を醸成するとしている。加えて、従業員から改善提案を集め、「やらされ感」から「提案する」主体性へ転換することも狙いに置く。 

言い換えれば、これは脱炭素の“最終解”ではない。エネルギー転換や設備更新、サプライチェーン全体の改革に代替するものでもない。しかし、Scope3の「測れない・続かない・語れない」を突破するための、行動設計のプロダクトである。

実証と断定のあいだ──「43%削減」「8割行動変容」をどう読むべきか

リリースでは、過去実績(無料版での成果)として「わずか14日間でCO2排出量を43%削減」「参加者の8割が具体的な行動変容」「Scope3(カテゴリ6,7)の見える化と削減を同時達成」を掲げる。

一方で、ここは読み手が最も慎重になるべきポイントでもある。

第一に、母数・対象者・算定方法・比較条件が本文だけでは十分に示されていないため、社会一般へそのまま外挿するのは危険である。第二に、「削減率」が示すのは、あくまで一定期間・一定条件下での変化であり、恒常的な削減量や長期のトレンドとは異なる。第三に、行動変容の定義も多様である。小さな行動が積み重なる設計は価値があるが、企業が求めるのは「その後も続くか」「組織学習に変わるか」である。

したがって、ここでの“重みの付け方”は、削減率の数字そのものよりも、数字を生み出すプロセス設計に置くべきだ。短期の成果を掲げることは入口の説得力になる。しかし本質は、社員の主体性、運用の継続、評価可能な記録という三点が同時に立ち上がるかどうかにある。

2026春の開催概要──「今年度最後のチャンス」が意味するもの

プロジェクトは「企業間競争(共創)型脱炭素プロジェクト 2026春」として、募集期間が2025年11月17日〜2026年1月31日、実施期間が2026年2月2日〜3月20日とされる。対象は全国企業・団体で、とくにScope3の算定・削減、従業員の環境意識向上、GX人材育成、企業価値向上に関心のある組織を想定している。

「今年度最後のチャンス」という強い言い回しは販促である一方、企業側の事情に照らすと現実味もある。年度の区切りは、評価・報告・次年度計画の起点になる。そこへ向けて“活動実績をつくる”という提案は、脱炭素の理想論ではなく、企業実務のリズムに合わせた設計といえる。

公式URL:https://co2co2.jp/spring26

ZEROICHI編集部の注目点・取り上げ理由

本件を取り上げる理由は、単に「安くて効果が大きい」といった分かりやすい主張にあるのではない。むしろ、その逆である。脱炭素領域は、断定と誇大が最も炎上しやすい。だからこそ、企業が置かれた現実の制約条件を踏まえ、施策を“正しい位置”に置き直す必要がある。

Linkholaの提案は、設備投資や制度対応の代替ではなく、Scope3の「空白」を埋める入口として設計されている点に意味がある。社員参加を前提に、可視化と競争、提案収集を束ね、「一過性で終わる」こと自体を課題として正面から扱っている。脱炭素が続かない本質は、技術不足ではなく運用設計にある――その仮説に対し、プロダクトで答えようとしていることが注目に値する。

同時に、数字の扱い方が重要である。短期の削減率や行動変容率は入口の説得力になるが、それが独り歩きすると誤解を生む。本施策は「これで十分」と言うための道具ではなく、「ここから始める」ための道具である。ZEROICHIは、その点を社会に問うべきだと考えた。脱炭素を“正しさの運動”から“続く設計”へ引き戻す試みは、今こそ評価されるべきである。

なお本稿は公開されている情報をもとに編集部の視点から整理・考察したものである。

■原文リリース(参照)

原文リリース発表日付:2025年11月17日 10時00分
タイトル:【脱炭素革命】3ヶ月36万円でCO2大幅削減!社員参加型プロジェクト 2026春!
原文リリースのURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000068026.html

※本記事は、原文から一部編集・要約して掲載しています。
誤解や偏りが生じる可能性のある表現については、原文の意味を損なわない範囲で調整しています。