本稿は、株式会社インバックス(埼玉県さいたま市岩槻区 代表取締役社長 秋山祥克)への取材、および同社資料をもとに作成した記事である。

取材では秋山祥克氏のほか、秋山紗耶香氏の説明も参照した。なお、原文の意味を損なわない範囲で、一部表現の整理と要約を行っている。
土は、なぜ「捨てるもの」になったのか
建設現場で発生する土は、長く「処分対象」として扱われてきた。
理由は単純ではない。
土は場所ごとに性質が異なり、ばらつきが大きいうえ、雨などの条件で状態が変化しやすく、扱いづらい。
安定した品質でそのまま建設材料として使うには難しさがあり、結果として「使えない土は捨て、必要な材料は別に持ち込む」という前提が土木の現場に根づいてきた。
会社案内でも、インバックスはそうした前提に対して「新しい資源の創造」「土を資源にする技術」を掲げている。問いは明快である。
土は本当にゴミなのか。それとも、条件次第で資源になりうるのか。

その問いの原点にあった、雲仙普賢岳の現場
この問題意識は、後づけの環境訴求から生まれたものではない。
取材では、秋山祥克氏が1995年の雲仙普賢岳の災害復旧において、立ち入りが難しい現場でも火山噴出物を資材として活用し、大規模な施設が築かれていく様子に衝撃を受けたことを語っている。
そこにあったのは、土は処分対象である前に、条件を整えればインフラを支える材料になりうるという認識である。
防災の現場から得たこの実感が、後の事業の出発点になった。
インバックスは何をしている会社なのか
インバックスを、単純な残土活用企業や環境配慮型企業として捉えるだけでは本質を外す。
秋山氏は取材で、同社を「世界中の土を資源として活用し、その実現を妨げる問題を解決する研究と、現地での実行を橋渡しする会社」と説明した。
会社資料でも、事業内容は土木設計コンサルティング、土砂活用ソリューション、配合試験、品質管理にまたがっている。
さらにグループ内には、配合試験と品質管理を担うソイルテクノロジー、寒冷地での土砂資源活用研究を担う北海道土砂資源化研究所がある。
つまり同社の中核は、土を処理することではなく、土を資源へ変換し、それを現場で成立させることである。

HOソイルは、土を固める技術ではなく、土の役割を変える技術である
その象徴が、同社が展開するHOソイルである。
取材では、一般的な地盤改良が水分を抜きながら地盤を締め固める方向の発想であるのに対し、HOソイルは水とセメントの反応を適切に起こし、土粒子レベルで土の性状を変えて硬質化させる考え方だと説明された。
会社資料でも、HOソイルは「土砂と異なる性状の新しい材料」に生まれ変わらせる技術として位置づけられている。
重要なのは、土をただ固めるのではなく、地盤安定、泥化抑制、盛土、構造物材料など、用途に応じて別の役割を担う材料へ変換する設計思想にあることだ。

コンクリートを足すのではなく、地形の前提を組み替える
この思想は、従来の土木の発想を少しずつずらしていく。
取材で印象的だったのは、コンクリートなどの薄い壁で「崩れる土を止める」のではなく、崩れやすい土そのものを、崩れにくい地形や構造へ変えていくという見方であった。
もちろん、すべての構造物に同じ材料が適するわけではない。高層建築のように極めて高い強度が求められる領域ではコンクリートの合理性は大きい。
しかし、重さで支える構造物や、現地土砂の活用が効果を持つ土木領域では、ソイルセメントの方が合理的に働く場面がある。
HOソイルが突きつけているのは、新素材の提案というより、土木がどの材料を前提に設計されるべきかという問いそのものである。
本当の競争力は、材料ではなく「配合」と「再現」にある
インバックスの強みは、単に土を使おうという発想にとどまらない。

取材では、競争力の源泉として、配合を決定する能力と、現場で品質管理を担えることが挙げられた。会社資料を見ても、現地調査、室内配合試験、施工中の品質管理、想定外の土質変化への補正提案までが体系化されている。
施工現場では、計画時に想定した土と実際に掘削した土が異なることもある。
その際に、すべてをやり直すのではなく、追加の試験や補正によって目標品質に寄せる力があるかどうかが、技術を商品として成立させる分水嶺になる。
性能の高さだけではなく、現場で再現し、責任を持てることが競争力なのである。
なぜそれが信用になるのか
この会社の強みは、単なるアイデアとしてではなく、公共事業の現場で鍛えられてきた点にもある。
資料では、砂防関連を中心とした設計・施工支援の蓄積が示されており、沿革からも砂防ソイルセメント工法の推進と商品化に長く関わってきたことがわかる。
取材では、公共事業では品質に対する厳しい審査があり、時間をかけて検証が行われてきたこと、さらに長期の品質確認の結果として強度が低下せず、むしろ上がり続けることが確認されているという説明があった。
技術の信用とは、「新しい」ことそのものではなく、不安に対してどこまで検証で答えてきたかで決まる。

インバックスの信用は、その点で公共の厳しい条件のなかで積み上がってきた。
なぜ今、この技術が必要なのか
この技術の意味は、環境配慮の美談としてだけでは捉えきれない。
会社案内では、台風や豪雨、地震の頻発、防災基本計画や国土強靭化の必要性が強調されている。
加えて、現地土砂を使うことは、搬出土砂の削減や、資材調達の合理化、施工時の負荷低減にもつながる。
資料には、生コン車などの運行台数減少による二酸化炭素排出や騒音・振動・粉じんの抑制、土捨て場縮小への寄与も示されている。
つまり、土を資源として扱う技術は、平時にはコストや調達の合理性を持ち、有事には復旧や防災の現実性を支える。
理想論ではなく、いまの土木条件に対して合理的だから必要なのである。
それでも広がり切っていないのはなぜか
もっとも、良い技術であれば自動的に広がるわけではない。
取材では、普及の壁として、配合決定の複雑さ、試験費用の負担、時間が読めないこと、属人性の高さが挙げられた。
公共事業では理論的根拠と検証に時間を要し、民間の小規模案件では試験コストが重荷になることもある。
だからこそ、技術のボトルネックは性能不足ではなく、社会実装のしづらさにある。この点を隠さずに語っていることは、むしろ同社の現在地を正確に示している。
AIは先端演出ではなく、属人的な知見を社会に広げるための装置
その壁を越えるための一つの手段として、インバックスはAIを位置づけている。
ただし、ここでのAIは、派手な先端技術の演出ではない。
取材では、長年蓄積された試験データや配合知見をAI化し、属人的な判断を平準化して、誰でも同じ品質に近づける状態をつくりたいという意図が語られた。
試験項目の圧縮や配合決定の標準化が進めば、これまで扱いづらかった領域にも技術は広がりやすくなる。
見えてくるのは、単なる工法会社の延長ではない。土を資源化するための知識と判断の仕組みを、より広く供給する役割である。
土を資源として見ることは、環境配慮ではなく、社会基盤の見方を変えることだ
現地発生土砂を資源化することの意味は、リサイクルや脱炭素という言葉だけでは足りない。
処分対象だったものをインフラ資材へ転換できれば、残土処分、資材調達、防災、工期、コスト、周辺環境負荷が一本の線でつながる。
会社案内が掲げる「新しい資源の創造」とは、単なる企業理念ではなく、社会基盤を何でつくるかという前提そのものを見直す試みだと読める。
土を資源として見るとは、建設業の周縁にある廃棄物問題を語ることではない。社会の基盤を支える材料観の更新を意味するのである。
ZEROICHIがこの企業を取り上げる理由
この企業に注目すべき理由は、「すごい工法」があるからではない。
土木が長く、何を資源とみなし、何を捨てる前提で設計されてきたのか。その前提がいま揺らぎ始めているからである。
インバックスは、捨てるしかないと思われていた土を、インフラを支える建設材料へ変換する構造を、研究、配合、品質管理、標準化という地道な工程を通じて実装しようとしている。
そこには、雲仙普賢岳の現場で得た問題意識があり、公共で積み上げた信用があり、普及の壁を越えようとする現実的な工夫がある。
日本で、防災、残土問題、資材制約、低炭素化が同時に進む今、「土はゴミか、資源か」という問いは、一企業の挑戦にとどまらず、社会がどんな材料観で未来のインフラを設計するのかを問うものになっている。
ZEROICHIが取り上げる価値は、企業礼賛ではなく、その見過ごされてきた前提の転換点を可視化できる点にある。
企業概要
企業名:株式会社インバックス
所在地:埼玉県さいたま市岩槻区加倉23-12
代表者:代表取締役社長 秋山祥克
事業内容:土砂活用ソリューション事業、土木設計コンサルティング事業、配合試験事業、品質管理事業
許認可登録:建設コンサルタント、地質調査業
公式サイト:https://invax.co.jp
※本記事は、取材および公開情報をもとに構成している。事実関係や固有情報については、公開情報を参照のうえ確認した。