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技術はあるのに売れない工場をどう救うか。Millyが再設計する製造業の受注構造

日本の製造業には、高い加工技術を持ちながら、その価値を市場に十分伝えきれず、営業や価格交渉の局面で不利に立たされる企業が少なくない。図面管理や工程最適化といった守りのDXは進みつつあるが、それだけでは受注は増えず、利益率も戻らない。

いま必要なのは、管理の効率化だけではなく、受注を生み出す側の仕組みである。

そうした問題意識から、製造業向けの営業支援と協働製造の基盤づくりに取り組むのが、株式会社Milly(東京都港区 代表取締役 北村丈)である。

Millyは、製造業向け協働製造ツール「MILLY(ミリー)」において、ターゲット企業のリストアップから営業文面の作成までを支援する製造業特化のAI営業エージェント「AIジョー」を2026年3月に本格リリースした。 

本記事は、株式会社Milly 代表取締役の北村氏への取材と公開情報をもとに構成したものである。取材を通じて見えてきたのは、Millyが単なる製造業向けAIツールではなく、営業機能を持ちにくい工場に対して、その機能自体を外付けしようとする構造的な試みだということであった。

北村氏は、営業やPRの不足によって価格決定力を持てず、結果としてダンピングや廃業に追い込まれる工場の現実を見てきたことが創業背景にあると語っている。

株式会社Milly 代表取締役 北村丈氏
株式会社Milly 代表取締役の北村丈氏。営業機能を持ちにくい中小製造業に対し、受注創出の仕組みを外付けする構想を語った。

技術があっても生き残れない。中小製造業が抱える“営業不全”という見えにくい危機

中小製造業の課題は、しばしば人手不足や事業承継の問題として語られる。しかし北村氏が強く意識しているのは、その手前にある営業不全である。

技術があっても、それを言語化できない。
仕事を取りに行く時間がない。
新規開拓のやり方が分からない。

そうした事情が積み重なると、取引は既存商流に固定され、価格交渉力を持ちにくくなる。取材では、赤字と分かっていても売り続けざるを得ず、最後は廃業に至る工場を見てきたという認識が語られた。

プレスリリースでも、Millyはこの状況を「いい工場ほど営業で損をする」という言葉で説明している。物価高や賃上げの局面で、1社依存では価格転嫁が難しく、利益が圧迫される。

一方で、現場が忙しくて営業に出られず、「売り方がわからない」という声があるという。ここで問題になっているのは、技術の不足ではなく、技術を市場につなぐ機能の不足である。 

この論点は重要である。

なぜなら、製造業の苦境を「現場の努力が足りない」話として片づけるのではなく、商流・接続・営業機能の設計不足として捉え直すことになるからである。

良い技術ほど自然に評価されるわけではない。むしろ、良い技術ほど、伝える仕組みがなければ見つからず埋もれる。Millyは、その見えにくい断絶を埋めようとしている。

高い技術を持つ工場が、営業・PR不足から新規開拓停滞、既存取引先依存、価格交渉力の低下、利益不足を経て、設備投資・採用難と技術継承停滞に至る流れを示した図
高い技術を持っていても、営業・PRの不足が新規開拓の停滞と既存商流への依存を招き、価格決定力と再投資余力を失っていく構造を整理した。

図面管理では救えない。製造業DXの論点を“管理”から“受注創出”へずらす

製造業DXと聞くと、多くの人は図面管理、生産管理、工程改善、業務効率化といった領域を思い浮かべるだろう。もちろん、それらは現場にとって重要である。

しかし北村氏は、図面管理は大事であっても、それだけでは製造業全体は良くならないと捉えている。取材では、守りのDXに加えて、攻め、すなわち営業支援に踏み込まなければ中小製造業は救えないという問題意識が明確に語られた。

実際、MILLYの公開情報を見ても、同サービスは単なる管理ツールとして設計されていない。

AIによる協業先の提案・検索、自社紹介ページ作成支援、顧客・請求管理、チャット・同時翻訳などが一体で並んでおり、既存取引の効率化と新規開拓の両方を視野に入れている。

所在地だけでなく、加工方法や材質など、製造業の実務に即した条件で検索できる点も、その方向性を裏づけている。 

ここでMillyがずらしているのは、DXの対象である。

管理SaaSが「いまある業務をどう効率化するか」を中心に置くのに対し、Millyが向き合っているのは「そもそもどう受注をつくるか」というレイヤーである。

これは機能差ではなく、解こうとしている問題の層の違いである。

Millyが実装しようとしているのはAIではなく“営業機能”である

AIジョーを単なる生成AI機能として理解すると、本質を取りこぼす。

北村氏が取材で語ったのは、自らが現場で続けてきた営業行為そのものを、AIに移植するという発想であった。

困っている図面や探している加工内容を聞く。条件を整理する。どの会社に当てるべきかを考える。相手ごとに文面をつくる。

そうした泥臭い営業の分解と再現こそが、AIジョーの核になっている。

製造業の営業プロセスのうち、技術整理、条件の言語化、相手候補抽出、営業文面作成、初回接触、一次成立をMillyが支援し、その後の商談・見積、条件調整、継続取引は企業同士が担うことを示した図
Millyが担うのは、製造業に不足しがちな営業機能の前半部分である。商談や継続取引そのものを代替するのではなく、接続を生み出すまでの機能を外付けする設計だ。

リリースでも北村氏は、これまで120社を超える顧客の現場に足を運び、手作業でマッチングを行ってきたと述べている。

利用企業が200社へ拡大するなかで、1社ごとに十分な対応を続けるには物理的な限界があったという。そして、ただ待つだけの機能ではなく、自ら相性の良い企業を探しに行き、話しかける「攻めの営業」が必要だと感じたことから、AIジョーが生まれたとしている。 

この意味で、Millyが外付けしようとしているのはAIそのものではない。

営業専任を置けない、あるいは営業の型を持てない工場に対して、営業機能そのものを供給しようとしているのである

重要なのは「AIがすごい」という話ではない。「営業が再現可能になりつつある」という点にこそ、事業の意味がある。

待つマッチングでは仕事は増えない。Millyが持ち込む“攻めの接続”の思想

北村氏は、製造業のマッチングは「ただ待っているだけではダメだ」と繰り返し語っている。リリースでも、システムを見るだけでは接続は生まれず、知らない企業に話しかけたり、ゼロから営業文面をつくったりすることに高いハードルがあると説明している。

だからこそ、受け身の機能ではなく、探しに行き、話しかける機能が必要だというのである。 

この指摘は、製造業の案件が持つ粒度の細かさと結びついている。MILLYのLPでは、エリア、加工方法、材質など、協働先を見つけるための条件で検索できるとしている。加えて、自由文や会話ベースでAIが検索を支援する構成になっている。

取材でも、単純なマッチングプラットフォームの限界から、北村氏自身の営業ノウハウを移植したAIエージェントへ発想が移ったと整理されていた。 

つまりMillyの本質は、企業一覧を見せることではない。

接続の粒度を上げ、営業実行量を増やし、一次接続の成立確率を高めることである。

待ちのプラットフォームではなく、攻めの営業基盤として設計されている点が、一般的なマッチング文脈との大きな違いである。

なぜ今Millyなのか。営業支援の先に“取引基盤”が立ち上がろうとしている

Millyを営業支援ツールとしてだけ見ると、その先の構造を見誤る。

取材で北村氏が繰り返し語ったのは、製造業で取引までつなげるには、PR、リスト作成、メール送信だけでなく、決済や支払いまで含めて支える必要があるという視点であった。

初めて取引する会社同士にとっては、「本当に払ってくれるのか」という不安が大きく、そこがボトルネックになるからである。

リリースでも、MILLYはAI営業エージェントに加えて、顧客・取引一元管理、同時翻訳チャット、GMO連携による決済保証を組み合わせ、日本の中小製造業が国内外のメーカーと直接つながり、適正な利益を得られる「グローバルな受発注インフラ」の構築を加速させるとしている。

LPでも、顧客・請求管理や与信審査、かけ払い対応が明記されている。 

営業支援を現在地として、接続成立、顧客・取引管理、決済・与信・信用補完、共同製造、越境取引を経て、グローバル製造インフラへ拡張していく流れを示した図
Millyは営業支援にとどまらず、接続後の管理、信用補完、共同製造、越境取引へと段階的に拡張していく構造を持つ。

ここで重要なのは、これを単なる機能追加として読まないことである。営業支援の先には、初回取引の信用、支払い条件、輸送、条件調整といった摩擦がある。Millyは、その摩擦を一層ずつ潰していく方向へ構造的に伸びていく。

したがって、営業支援から取引基盤への拡張は、話を大きく見せるための将来像ではなく、現在の課題を突き詰めた先の自然な延長線上にある。

Millyが解こうとしているのは一社の営業課題ではない。日本の製造業の価格決定力と生存可能性である

Millyの意義は、一社の営業効率を上げることだけではない。

取材と公開情報をあわせて読むと、その射程は、日本の中小製造業が失ってきた価格決定力と再投資余力にまで及んでいる。

営業やPRが弱いままでは、良い技術があっても安く売らざるを得ない。利益が残らなければ、設備投資も採用もできず、技術継承も難しくなる。こうして優れた加工技術そのものが市場から失われていく。

北村氏は、商社モデルを避け、製造業者の利益を確保するためにサブスクリプションモデルを導入しているとも説明している。

これは単なる料金設計の話ではなく、誰に利益を残すのかという事業思想の問題である。

中小製造業の競争力を高めるために営業支援を行うという創業背景と合わせると、Millyが向き合っているのは、技術力と収益力が分断された状態そのものだと分かる。

そう考えると、Millyは便利な工場向けツールではない。

営業・接続の弱さゆえに市場で損をしている技術を、適正な利益へつなぎ直すための装置として位置づけられる。

社会的に見れば、それは日本の製造業の見えにくい基盤を守る試みにもつながっている。

世界に出るためには、まず営業から強くなる。Millyが描く“グローバル製造インフラ”への延長線

北村氏が語る未来像は大きい。

しかし、その構造は現在の課題解決と連続している。

取材では、営業支援によって各社が強くなれば、共同製造が可能になり、単独では受けられない大きな案件にも対応しやすくなるという見立てが示された。

その先に、グローバルな接続があるという。5年後の完成形として、「世界に出るためにはミリーを使わないと」と言われる状態を目指すという発言もあった。

公開情報でも、その方向性は一貫している。

北村氏はリリースで、日本国内で強固な「協働製造の場」をつくり、それをそのまま海外へ直結させたいと述べている。また、LPでは、スマホで撮影した図面や写真を送り、海外企業とも翻訳機能を通じてやり取りできることが示されている。 

ここで重要なのは、Millyのゴールを「営業AI」として狭く捉えないことである。

営業支援によって企業が強くなる。強くなった企業同士がつながる。つながりが共同製造へ発展する。そこで信用と決済が整う

そうした積み重ねの先に、越境取引が可能になる。Millyの将来像は、そのような因果の延長線上にある。

ZEROICHIが今、Millyを取り上げる理由

Millyをいま取り上げる価値は、新しいAI機能が出たからではない。

重要なのは、Millyが製造業DXの論点を一段深く更新している点にある。

管理のDXはすでに多く存在する。しかし、受注創出、価格決定力、商流構造、初回取引の信用まで含めて再設計しようとするプレイヤーは、まだ多くない。

Millyは、その空白に対して、営業機能の供給というかたちで切り込んでいる。 

また、これは一企業の成長可能性だけを語るテーマでもない。

技術はあるのに営業やPRの不足で埋もれ、価格決定力を失い、利益を残せないまま消耗していく中小製造業は、日本の産業基盤の下部に広く存在している。

Millyが示しているのは、その構造にどう介入できるかという論点である。だからこそ、これは単なるサービス紹介ではなく、製造業の未来を考える上での問いとして扱う意味がある。 

ZEROICHIが注目するのは、Millyがいま完成されたインフラだからではない。

むしろ、営業できない優良工場の技術を市場につなぎ直し、製造業DXの重心を「管理」から「受注創出」へ移そうとしている点にある。

その動きは、製造業の構造変化の兆しとして、十分に追う価値がある。

企業概要

商号:株式会社Milly
代表者:代表取締役 北村 丈
所在地:〒107-0061東京都港区北青山1丁目3番1号 アールキューブ青山3階
設立:2023年7月13日
事業内容:製造業向けAI営業エージェント・コミュニケーションサービス「MILLY」の開発・提供
サービスURL:https://www.milly-platform.com/lp

原文リリース(参照)

2026年3月18日:〖製造業DX〗既存顧客の掘り起こしから新規開拓まで自動化。製造業特化のAI営業エージェント『AIジョー』が本格始動!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000131613.html

※本記事は、取材および公開情報をもとに構成している。事実関係や固有情報については、公開情報を参照のうえ確認した。