
北海道・砂川に誕生したSHIROの自社工場「みんなの工場」。かつてお土産品を作っていた小さな会社を26歳で引き継ぎ、独自の「素材主義」でグローバルブランドへと押し上げたSHIRO会長・今井浩恵氏。その徹底した現場主義とブランド哲学に、実業家の堀江貴文氏が迫る。
一方、北海道大樹町で宇宙開発の拠点を築き、同町のまちづくりの活動も盛んに行っている堀江氏。
「地方でやる価値」とは何か。大樹町のインフラ整備、SHIROの16億円の投資判断、そして次世代に「ものづくり」の選択肢を提示するオープンファクトリーの仕掛けまで。北海道から世界を揺さぶる二人の異端児が、停滞する日本を再起動させるための「勝てる経営戦略」を語り尽くした。
・その1:16億円を投じる「地方再生」の正体。堀江貴文×SHIRO今井氏が語る、既成概念を壊しグローバルを制する経営戦略
・その2:「あえて店舗を増やさない」作り方。SHIROが直営店と自社製造にこだわる真意
・その4:ものづくりの気配を感じてほしいーSHIROのオープンファクトリーのしかけ
堀江貴文(以下、堀江):うち(大樹町)の今の町長は、もともと副町長を務めていた方なんです。
SHIRO会長・今井浩恵(以下、今井):行政出身の方なのですね。
堀江:はい。もともと僕が16年前に初めて会ったんですけど、それこそ赤平(あかびら/北海道赤平市)で事業をやっていた頃に、植松電機の植松さん(植松電機・植松努氏)が「ロケットを打ち上げる」となって。「植松さんが打ち上げるなら、うちも打ち上げたい。どこでやるんですか?」と聞いたら、「北海道の大樹町というところで」と言われたんです。当時はまだSNSが今ほど普及していなかったので、SNSがない時代というのは、人づてでしか情報が見つからなかったんですよね。
今井:確かに、そうですね。
堀江:それで大樹町って馬の牧場があるところですよね。僕は馬主(うまぬし)でもあるので、タイキブリザードやタイキシャトルといった名馬のことは知っていたんですが、「そんなところでロケットなんてできるの?」と思っていました。そうしたら、「いや、うちはもう1985年から『宇宙のまち』を標榜(ひょうぼう)していますから」と言われて。「そんなの知らないよ」と思いながらも、実際に行ってみたんです。
今井:植松さんからお話を聞いて行かれたのですね。
堀江:はい、植松さんから聞いて行きました。そうしたら、当時大樹町役場で企画課課長を務めていたのが今の町長で。行政の方なんですけど、めちゃくちゃ動きが良くて、その方にすごく支えられてやってきました。その後その方は副町長になりました。
今井:その選挙で現職に挑む形になったのですか?
堀江:ええ。現職の町長と副町長がバトルするわけですから、町民のみなさんはそれは怖いですよ。普通、現職は強いですからね。
今井:人口は何人ですか?
堀江:5200人ぐらいですよ。そこでぶつかり合いますから、これは大変なことになります。
今井:なるほど。でも、そこまでする気概というか、そもそも対抗馬すらいないケースが多いと思います。
堀江:いやいや、探せばどこかにいるものですよ。いるところにはいるんですよ。それで、あともう一つ、僕は町づくりにおいて「外の人たち」を結構入れました。

堀江流地方再生術
今井:外の人たちですか。それは、どういった人たちを入れたのでしょうか?
堀江:僕、インターネットでオンラインサロン(堀江貴文イノベーション大学校/HIU)を運営しているんですけど、そのメンバーが移住してきたりしています。まずは居酒屋を作ったりとか、そういったところから始めていますね。
今井:地域おこし協力隊ではなく?
堀江:地域おこし協力隊の制度も使っていますが、居酒屋はそれとは別で、札幌のテレビ局の企画だったんです。「3ヶ月で居酒屋を作る」という番組がありまして。全国オーディションをやって、芸人さんとかセクシー女優さんとかモデルさんとか、そういう方たちが来たんです。それで、結局残ったのはセクシー女優さんで。
今井:へー! 今もいらっしゃるんですか?
堀江:いるんです。
今井:すごい。それは本気ですね。
堀江:本気なんです。気に入っちゃって、もう5年いますよ。
今井:(そういう「外の人」を)何人ぐらい入れたのですか?
堀江:いやいや、居酒屋自体はその年しか残らなかったんですけど、でもその周りにパン屋さんも作りました。「小麦の奴隷」というパン屋さんの店舗があそこにあって。今や全国に何十店舗もあるチェーン店なんですけど、それも作りました。
あと、最近はウイスキーの蒸留所を作っているんです。数年前にスコットランドのアイラ島という、ウイスキーの聖地みたいな場所があるんですけど、そこを旅した時に「これ、大樹町じゃん」と思って。そのまんまなんです。海沿いで磯の香りがして、地面を掘ると泥炭(ピート)があって。それで川の水がピートの染み出した「ヨード色(独特の茶褐色)」をしているんです。それって、帯広などにある「モール温泉」と同じですよね。ああいうちょっとヨード色の温泉が。
今井:いい温泉ですよね。
堀江:それでウイスキー蒸留所を造ろうと考えたんです。今年(2026年)から蒸留を開始するんですけど、大樹町産原料100%のウイスキーを造っています。
「デントコーン」という飼料用のコーンがあって、これがいっぱい作られているから、タダみたいな値段なんですよ。でも、アメリカのケンタッキー州などで造られるバーボンはコーンウイスキーですからね。「じゃあ、コーンでいいじゃん」と思ったんです。日本のウイスキーはなぜかみんなモルト(麦芽)で造りたがりますけど、そのモルトは大体海外産なんですよ。
今井:わざわざ海外産を使っているんですね。
堀江:そうなんです。「なんで海外産のモルトを使っているの? デントコーンでいいじゃん」と。大樹町産のコーンに大樹町産のピート(泥炭)、それにアイラ島と違ってここには森がありますから、ミズナラなどの樽材も取れるんです。水も歴舟川(れきふねがわ)という日本一の清流がありますし、「全部ここで作れるじゃん」となったんです。
今井:その事業も、外から来た人が運営しているんですか?
堀江:それも、うちのオンラインサロンのメンバーが社長をやってるんです。
今井:みんなメンバーさんが行ってくれるのですね(笑)
堀江:僕がハンドリングしきれないことを、「これ、やったらどう?」と言って、メンバーにやってもらっています。
今井:そうやって外部の人を入れていくことで、どんどん町が変化していったのですか?
堀江:どんどん変化しているし、町にも活気が生まれているように感じます。60年ぶりに「社会増(転入者の数 - 転出者の数)」が「自然減(死亡者の数 - 出生者の数)」を上回って人口が増えた年もありました。大樹町さんにもご協力いただいて、「ふるさと納税」をロケットの発射場の整備やロケット開発に充てられる仕組みも作っていただいています。
今井:それを資金にしているのですね。
堀江:はい。
今井:大樹町には、他に大きな産業はあるのですか?
堀江:雪印メグミルクの工場があるんです。
今井:ふるさと納税も、そこがメインになっているのですか?
堀江:雪印さんをはじめ様々な地域の特産品が返礼品になっています。他(紋別市など)と比べればまだまだですけれど。ただ、税金を落とす先としては、そういう構成になっているという感じです。
今井:なるほど。
堀江:例えば福島県の南相馬市などは、復興予算があるので。
今井:(そのようなケースは)イレギュラーですよね。
堀江:イレギュラーではないですよ。福島(復興支援)はまだ続いていますから。本来、防衛増税と復興増税が入れ替わる予定だったんですけど、復興増税が延長されることになったので、まだ復興予算というものが存在しているんです。インターステラテクノロジズは2021年から南相馬市でも開発を進めていたのですが、ロケットの製造強化のために2025年に新たに拠点を作ったんですよ。
今井: 何を作ったのですか?
堀江:(ロケット)工場です。
今井:へぇー!
堀江:本当は大樹町に作りたかったんですけど。
今井:では、大樹町を大きくするのはやめたということですか?
堀江:やめたわけじゃないです。ただ、大樹町は農地が多く、高圧電線など工場に必要なインフラがないんですよ。今後もっと盛り上がってきて、「そういう場所を整備します」となれば作れますけれど、今はまだ地面から自分たちで作らなければいけない。ただ、ロケットの発射場は大樹町に作るしかないので、大樹町さんとともにあの手この手で進めているんです。
ただ、やはり歯車が回り出すと、例えば、うちのロケットも打ち上げが始まれば、一気に盛り上がります。注目が集まるので、お金も集まりやすくなるんです。そこに至るまでのハードルは確かに高いですけど、一度回り出せば、大樹町のようなコンパクトな行政の方が、スピード感を持って動けるはずなんです。
今井:それはすごく思います。人口が少ないほうが(物事が)回りやすいですよね。でも、そこまで自分が生きていられるかな、と。
堀江:はいはい(笑)。大丈夫、回りますよ。
今井:やっぱり時間的な感覚が(行政と)違いますよね。
堀江:そうなんです。「何でそんなに焦っているの?」というぐらいの感覚で見られますね。ただしつこくやっていくと、変わります。
今井:しつこく、ですか。
堀江:はい。僕だって、大樹町に初めて行ってから、もう16年目ですからね。住民票も移しているんです。
今井:え、そうなんですか! 今も町民なのですか?
堀江:はい、そうです。
今井:なるほど。それなら(想いが)伝わるかもしれませんね。
堀江:福島県は復興予算があるからというのもあるんですけれど。僕らもお金を節約しなければいけないので、帯広(おびひろ/北海道帯広市)にある倉庫として使われていた建物をリノベーションしてもらって借りたり、といった工夫をしています。
今井:確かにそうですね。
堀江:そもそも、あそこは十勝(とかち)開拓の地ですからね。北海道土産で有名な「マルセイバターサンド」の「マルセイ」は、十勝開拓の祖である依田勉三が率いた晩成社に由来しています。その晩成社の跡地があるのも、大樹町なんです。