はじめに:ストレス社会における「負担にならない見える化」
心と体のコンディションを可視化するサービスは、この数年で一気に増えた。しかし、多くの人が口を揃えて言うのは、「大事なのはわかるが、続かない」「測ること自体が負担になる」という率直な実感である。
PST株式会社が展開する音声解析プラットフォーム「VOISLOG®」は、そのギャップに真正面から向き合ってきたサービスである。日常会話などの音声をもとに、ストレス状態や睡眠状態、認知機能などの“傾向”を推定し、心身の変化を見える化するクラウドベースのプラットフォームであることが特徴である。
2024年7月のβ版リリース、2025年7月の公式リリースを経て、VOISLOG®は一般企業や自治体、製薬・金融・運輸・コールセンターなど多様な現場で活用されてきた。社員のメンタルヘルス対策や在宅勤務のストレスマネジメント、事故・ヒューマンエラーのリスク低減など、「健康経営」に関わるテーマでの実証や導入が進んでいる。
今回新たに追加されたのが、2つの機能である。
- 対話音声解析機能「音声解析アプリ(対話)|vBG App」
- 個人レポート機能「個人レポート(月間)|vManagement Personal Report」
キーワードは、「解析ゼロ負担」と「結果の活用」である。
本稿では、リリース内容をもとにZEROICHI編集部が構造的に整理し、「声から健康を守る」アプローチがどのような可能性を持つのかを考えていく。
1.VOISLOG®というプラットフォームの位置づけ

― 「話すだけ」でコンディションを記録する
VOISLOG®は、スマートフォンアプリやリモート会議ツール、PCアプリなどと連携し、「話すだけ」でユーザーのコンディションを解析するプラットフォームである。
ここで重要なのは、内容(テキスト)ではなく、音声そのものの特徴に着目している点である。
声の高さや揺らぎ、テンポなど、音声の物理的な特徴量を解析し、そこからストレスのかかり方やコンディションの変化傾向を推定する。個々の数値は医療的な診断を行うものではなく、「最近少し負荷が高まりやすい」「休み明けに落ち込みやすい」といった、生活者がセルフケアを考えるための参考情報として示される位置づけである。
導入企業側にとっても、従来のストレスチェックやアンケートだけでは捉えにくかった「日々の変動」を、日常のコミュニケーションの中から継続的に把握しやすくなるという利点がある。
ただし、こうした仕組みが広く受け入れられるためには、
- 利用者にとっての負担感が小さいこと
- 結果が専門家でなくても理解しやすいこと
- プライバシーやセキュリティに十分配慮されていること
という三つの条件が欠かせない。今回の新機能は、まさにこの三点にフォーカスしたアップデートである。
2.新機能1:vBG App──「いつもの会議」がそのままデータになる

● 日常業務と健康計測を“分けない”発想
「音声解析アプリ(対話)|vBG App」は、PC上でバックグラウンド動作する音声解析アプリである。ZoomやMicrosoft Teams、Google Meet、Slack、LINE、Webexなど、ビジネス現場で利用される主要な通話・会議ツールと連携し、“会議中の自然な声”からストレスや心身の状態変化を解析することを目指している。
ユーザーはアプリを起動しておくだけでよく、「これから計測します」と意識して何かをする必要はない。日々の会議、商談、チームミーティングが、そのまま自分のコンディションの記録になっていく。この「測るための行動を増やさない」という設計思想が、「解析ゼロ負担」というキーワードにつながっている。
● セキュリティとプライバシーへの配慮
音声という個人性の高いデータを扱う以上、プライバシーとセキュリティの配慮は不可欠である。
リリースでは、以下のポイントが明示されている。
- 音声認識とは異なり、「文字情報」や「語彙」は一切解析に用いない
- 事前登録された本人の声だけを対象とし、他者の声は除外する
- 音声ファイル自体は保存せず、必要な特徴量のみを解析に用いる
これにより、「会話内容を監視されているのではないか」「発言が評価に直結してしまうのではないか」といった懸念を最小化しつつ、コンディションの変化傾向だけを抽出することを意図している。
また、対応OS(Windows/macOS)や対応ツール、オンライン環境が必要であることなど、システム要件も明示されており、企業側の情報システム・セキュリティ部門にとっても評価しやすい設計となっている。
● 現場での活用イメージ
vBG Appは、一般企業の在宅ワークやオフィスでのリモート会議だけでなく、コールセンターや運輸業など、「声の負荷」が業務と密接に結びついている現場でも活用が想定されている。
- コールセンター:オペレーターの負荷傾向を把握し、離職リスクやヒューマンエラーの兆候に早く気づく
- 運輸・物流:日々の点呼などと組み合わせ、長時間勤務や過度な疲労によるリスクを定量的に把握する
いずれも、「本人の感覚」だけに頼らない気づきのきっかけを増やす仕組みであると言える。
3.新機能2:Personal Report──結果を“意味のある言葉”に翻訳する

● 数値とグラフを「行動につながる言葉」に変える
これまでのVOISLOG®では、解析結果は主に数値やグラフとして提示されてきた。これはデータとしての客観性を担保する一方で、「結局なにをどう受け止めればよいのか」「明日から何を変えればよいのか」が分かりにくいという声もあったという。
そこで追加されたのが、月に一度の「個人レポート(月間)|Personal Report」機能である。
1か月分の音声解析結果を統合し、状態の推移と傾向をテキストでまとめたレポートを生成する。
レポートには、
- この1か月のコンディションの傾向
- 変化が出やすかったタイミング(例:休み明け、繁忙期など)
- 日常で取り組めるセルフケアのヒント
といった内容が、専門家の知見を踏まえた形で記載される。
ここで重要なのは、「診断」ではなく「振り返りとセルフケアのきっかけ」に徹している点である。
● 専門家と現場をつなぐ「翻訳レイヤー」として
レポートの作成には、PST社の研究部門によるデータ分析ノウハウに加え、産業保健の専門家の知見が活用されている。
これにより、単なる数値の羅列ではなく、「現場でどう対話に使えるか」を意識したコメント設計がなされている。
活用シーンとして想定されているのは、
- 利用者本人によるセルフケア・自己理解
- 管理職と部下の1on1面談での対話のきっかけ
- 産業医・保健師・人事によるラインケア・健康支援の参考情報
などである。
数値が示す傾向を言葉として整理することで、「なんとなくしんどい」を「こういう傾向があるのかもしれない」という共有可能な言語に変換するレイヤーとして機能する点が、本機能の核である。
4.「音声バイオマーカー技術」としてのVOISLOG®
― 医療機器ではないヘルスケアプラットフォーム
PST社は、10年以上にわたり音声病態分析技術の研究開発を続け、「音声バイオマーカー技術」と呼ばれる独自の技術群を構築してきた。
病気やストレスなど心身の変化が、声を生み出す要素に影響を及ぼし、“声の症状”として現れる現象に注目し、声の物理的特徴量を解析することで、状態変化の兆候を数値として扱う試みである。
VOISLOG®は、この音声バイオマーカー技術をヘルスケア向けに実装したプラットフォームであり、
- ストレス(精神機能)「Miシリーズ(Mind)」
- 認知機能「Coシリーズ(Cognitive Function)」
- 睡眠機能「Slシリーズ(Sleep Function)」
- 口腔嚥下機能「Orシリーズ(Oral Function)」
など、複数の機能を順次展開していく構想が示されている。
ここで明確にしておきたいのは、VOISLOG®は医療機器ではなく、“音声から健康状態を見守るヘルスケアプラットフォーム”であるという点である。
つまり、医師の診断や治療行為に代わるものではなく、あくまでセルフケアや健康経営の一環として、状態変化の傾向を把握するためのツールである。
この位置づけを丁寧に説明し続けることは、音声データというセンシティブな情報を扱う上での信頼性にも直結する。
5. PST株式会社について
会社名:PST株式会社
所在地:〒231-0023 神奈川県横浜市中区山下町2番地 産業貿易センタービル 905号室
創業:2012年2月14日
代表者:代表取締役 大塚 寛
事業内容:音声病態分析技術に基づく音声バイオマーカー(Vocal Biomarker)技術の研究開発、ヘルスケア領域向け音声解析プラットフォーム「VOISLOG®︎」(※)の研究開発および販売、メディカル領域向け音声バイオマーカー技術を用いたプログラム医療機器(Software as a Medical Device, SaMD)承認を前提とした研究開発および販売(関連会社:PSTメディカル株式会社)、訪問看護事業(関連会社:UIX株式会社)、リカバリーソリューション関連製品の研究開発および販売等
URL:https://www.medical-pst.com
6.ZEROICHI編集部が注目した3つのポイント
本リリースについて、ZEROICHI編集部が着目したポイントは次の3つである。
(1)「測ること自体がストレス」というジレンマへの正面からの回答であること
多くのストレスチェックサービスは、「測定のための行動」を新たに要求する。
一方、VOISLOG®の新機能は、日常業務(会議・通話)そのものをデータに変えるという発想で、計測行動と業務行動を分離しない設計になっている。
「健康管理のために、さらに時間と意識を割かなくてはならない」というジレンマに対し、「いつもの仕事のままでよい」という回答を提示している点を評価した。
(2)数値に閉じない、「言葉によるフィードバック」のレイヤーを用意していること
データドリブンなサービスほど、数値やグラフが前面に出がちである。しかし、人が行動を変えるきっかけになるのは、多くの場合「自分の状況を言葉として理解できた瞬間」である。
Personal Report機能は、まさにこの「数値から言葉への翻訳レイヤー」を担うものであり、本人・管理職・産業保健スタッフなど、多様な立場の人が同じ情報を共有しやすくする役割を持つ。
(3)音声データの扱いに関する説明責任を意識した設計であること
音声は、個人のプライバシーと人格に強く結びつく情報である。
VOISLOG®は、音声内容をテキスト化して解析するのではなく、音声そのものの物理的特徴に限定して利用する設計をとっている。音声ファイルを保存しないこと、本人以外の声を除外することなど、利用者の不安を抑えるための条件をリリース上で丁寧に説明している。
テクノロジーの先進性だけでなく、「どのように安心して使えるか」という視点がセットになっている点を、ZEROICHIとして重要な要素と捉えた。
おわりに:声を“健康のインターフェース”にするという発想
VOISLOG®が目指しているのは、声を単なるコミュニケーション手段ではなく、「自分と自分のコンディションをつなぐインターフェース」に位置づけることである。
- 意識的な記録や自己申告に頼りすぎないこと
- 数値だけでなく、行動につながる言葉を返すこと
- 医療の領域とヘルスケアの領域を意図的に分けながら、未然のケアを支えること
これらは、テクノロジーが「人の生活にどう寄り添うか」を考える上で、示唆に富む設計思想である。
ストレスや心身の負荷を完全に取り除くことは難しい。
しかし、「どのタイミングで負荷が高まりやすいのか」「どんな生活リズムが自分に合っているのか」を知ることはできる。
声という最も身近なデータから、その手がかりを得る──VOISLOG®の今回のアップデートは、その実装を一歩進めるものであるといえる。
■原文リリース(参照)
原文リリース発表日付:2025年12月8日
「声から、健康を守る」 —— VOISLOG®に新機能2つを追加リリース
〜 対話音声解析機能で“解析ゼロ負担”、個人レポート機能で“結果の活用” 〜
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000040125.html
※本記事は、原文から一部編集・要約して掲載しています。
誤解や偏りが生じる可能性のある表現については、原文の意味を損なわない範囲で調整しています。