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量子コンピュータがAIの進化の鍵に【Well-being for Planet Earth理事・北川拓也が語る「AIの未来」 その3】

公益社団法人「Well-being for Planet Earth」理事でハーバード発の量子コンピュータースタートアップ企業の顧問も務める北川拓也。
堀江氏はChatGPTが世間を騒がせている今、注目されるAI技術の未来について、北川氏に、最新動向を聞いた。

量子コンピュータがAIの進化をさらに加速させるだろう。

北川 そうですね。実は、AIが進化したこともあって、この数年、量子コンピュータでAIを作るという研究が進んでいるんですよ。量子コンピュータを使うとAIの進化がさらに加速する可能性があります。量子コンピュータが今、どんな状態かお話ししていいですか?

堀江 はい。

北川 まず、ミクロの世界の物理法則とマクロの世界の物理法則は違っていて、ミクロの世界の物理法則である量子力学を使うと一部の計算がすごく速くできるんです。それが量子コンピュータです。例えば、今のコンピュータが1万年かかるある計算が200秒でできた、というGoogleの論文があります。

堀江 はい。

北川 それから、マクロな世界で建物をつくろうとしたときには、今のコンピュータでシミュレーションができますが、化学や薬学などで何かをつくろうとしたときはシミュレーションがほとんどできません。化学はミクロの世界のことなので、今のコンピュータではやりたくても時間がかかりすぎるんです。そのため、研究にめちゃくちゃ時間がかかっています。

堀江 ロケットもそうです。ロケットの燃料は化学ですから。

北川 そうですね。ロケットも今のコンピュータでは計算しきれないから、ひたすら実験をしてますよね。でも、量子コンピュータができたらシミュレーションができるようになるので、化学はすごく進化します。これまでつくれなかった新しい薬などがすぐにできる可能性もある。国としては、10年後に100兆円の経済効果が期待できるので、中国などは今、めちゃくちゃ投資しています。

堀江 そうでしょうね。

北川 でも、現在の量子コンピュータの計算の精度は99.9%までいっていないんですよ。そして、もし99.9%までいったとしても、1000回計算すると100%の確率でミスが出ます。

堀江 そうですね。

北川 だから、エラーを減らさなくてはいけない。でも、目指している計算回数は10億回とかなので、そうすると精度を99.99999……まで持っていかなくてはいけない。これはかなり難しいんです。やはり限界がありますから。

堀江 だから、誤り訂正技術(データを一定の長さで区切り、計算データに誤りがないかを確認して復元する技術)が必要になる。

北川 そうです。今のコンピュータは誤り訂正技術で、エラーをカバーしています。そこで、量子コンピュータにも誤り訂正技術が必要で、それに適しているといわれている物質は5種類くらいあるんですけど、まだ、どれがいいかはわかっていません。

堀江 そうなんですか。

北川 でも、量子コンピュータのタイムスケールでいくと、5年後には誤り訂正技術が完成します。そして、10年後には実用化されて一気に量子コンピュータの時代になります。

堀江 そうでしょうね。

北川 これは、逆にいうと今後5年間は量子コンピュータの産業は小さめで、10年後から一気に花開くということです。だから、先見性のあるファンドや企業がごく一部取り組んでいるだけになっている。AIや半導体のように日本が乗り遅れないためには少しでも多くの政府や企業に広げないといといけないんですよ。だから、その点を政治家含め社会にもっとアピールしなければいけないと思っています。

堀江 でも、政治家に量子コンピュータの話をしても、何に使えるかわかる人はほとんどいないと思いますよ。RSA暗号(複雑な計算をしてすぐには解読されない素因数分解の仕組みを応用した暗号)が破れるくらいはわかっているかもしれませんけど……。

北川 しかもRSA暗号解読はリスクという意味では大事ですが、産業への価値創出、という意味では小さな話かとは思います(笑)。

堀江 そうなんです。どうでもいい話。量子暗号にすればいいということですから。

北川 それに、儲かるのは量子暗号をつくる人ですからね、量子技術産業ではない。

堀江 そうそう。なので、今のコンピュータではできない、化学や薬学、ロケット実験などのシミュレーションができるという話をちゃんと理解してもらう必要があると思います。

北川 そうですよね。これからはAIと量子コンピュータの時代ですからね。

堀江 そうですね。でも、量子コンピュータの話は難しいんですよね。僕も基礎的なことしかわかっていませんから。

北川 いやいや、十分わかっていると思いますよ。

堀江 そうですか。でも、また、今度ゆっくりと教えてください。今回はありがとうございました。

その1はこちら

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

北川拓也(Takuya Kitagawa) 公益社団法人「Well-being for Planet Earth」理事
1985年生まれ。公益社団法人「Well-being for Planet Earth」理事。灘高卒業後、米ハーバード大学に進学。ハーバード大学院にて博士課程終了。理論物理学者。元楽天グループ常務執行役員CDOとして、グループ全体のAI/データを統括。ハーバード発の量子コンピュータースタートアップであるQuEra社の顧問も務める。