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AIロボットでの実験、iPS細胞での網膜移植、 福祉と一体化した医療センター【理研・高橋政代が語る、眼科治療の今と未来 その4】

堀江貴文氏は10月29日、理研の高橋正代氏を取材。AIロボットでの実験、iPS細胞での網膜移植、福祉と一体化した医療センターなどについて話を聞いた。治療にとどまらない、福祉や予防で医療を変えていくとはどういうことなのか?(初回配信日:2018年11月6日)

治療だけではなく、福祉、最新技術、予防で医療を変える!

堀江 高橋さんが関わっている「神戸アイセンター」っていうのは、視覚障がい者の人たちのトレーニングをやっていたりするんですか?

高橋 トレーニングというか……今の医療を変えたいんです。今の医療は、福祉とまったくかけ離れているので、そこを一体化する。「神戸アイセンター」は、神戸市が全面バックアップしてくれていて、「眼科病院」「理化学研究所の一部」「リハビリ・社会復帰支援施設」「ソーシャルベンチャー」という4つの機能が集まった場所です。ひとつの組織ではないんですが、この4つが協力し合えば、単独ではできなかった面白いことができるんじゃないかと思っています。例えば、治療はすごくゆっくりとしかしか進まないんですけれども、デバイスは進歩のスピードが早くて、あっという間に患者さんを助けてくれることがあります。

堀江 そうですね。

高橋 今は「Body Sharing(ボディシェアリング)」といって、身体の機能を他人にシェアすることができます。例えば、寝たきりの人が、目が見えない人の目になってあげることができるんです。「NIN_NIN」という肩に乗せる小さなロボットがあるんですが、そのロボットにはカメラがついていて遠隔操作ができる。そのため、寝たきりの人が「NIN_NIN」から送られてきた映像を見ながら、目の見えない人に「今は赤信号」とか「次の角を右」とか伝えることができる。寝たきりの人は外の景色が見られるし、目が見えない人は安心して歩ける。そっちの方が、目が見えない人の生活を変えるという点では、圧倒的に早いし有効なんです。

堀江 確かにそうですね。

高橋 だから、治療だけやっていてもしょうがない。あと、再生医療をやっていると、やはり早期に治療する方が絶対によく治るので、それを突きつめていくと“予防が一番”ということになるんです。

堀江 予防の方法はあるんですか?

高橋 病気によりますけど、加齢黄斑変性になりやすいタイプの遺伝子の人とかはわかってきているので、そういう人は日頃からサングラスをかけておくといいとかはありますよね。

堀江 光をあまり受けないようにする。

高橋 遮光グラスとかで、危ない波長だけカットするとか。

堀江 ブルーライトが危ないんでしたっけ?

高橋 ただ、ブルーライトは近視を抑制するのに効くというものわかってきているんです。子供の時に、ブルーライトをカットしすぎちゃうと近視になりやすい。

堀江 近視って何が原因なんですか? 昔は暗いとことで漫画ばっかり読んでいたらとか、ゲームばっかりしていたら近視になるって言われてましたけど(笑)。

高橋 それは、遺伝子のバックグラウンドによって違いますけど、最近わかってきたのは、ブルーライトが足りないと近視になるということです。だから、外で遊んでいる子供が近視にならないのは、外でブルーライトを浴びているからなんじゃないかと言われています。

堀江 へー。

高橋 有名な実験があって、ひよこのまぶたを片方だけ塞いでおくと、そっちの目だけ近視になるんです。

堀江 近視って、基本的に屈折率が変わるわけですよね。

高橋 事実として言えば、眼球が長くなるからです。

堀江 でも、僕もそうですけど、だいたい思春期って眼球が長くなるじゃないですか。

高橋 それは身体の成長によるものなので、思春期のある程度の近視はしょうがないと言っているんです。

堀江 そうなんですか。

高橋 病的な近視は、大人になってからも眼球が伸びる。すると引き伸ばされて網膜が弱くなって失明することもあるので、私たちはそうした病的な近視を防がないといけないんです。

堀江 僕、レーシック受けたんですけど、その後がすごい快適なんですよ。それは、たぶん思春期に視力が悪くなっただけだからなんですね。

高橋 そうですね。止まるやつですね。普通の人は「目が悪い」というと「裸眼視力が悪い」と思いますよね。でも、矯正視力(メガネやコンタクトレンズで矯正した時の視力が)がよければ、それでよしとしてほしいんです。そういうことを中学校・高校で教えてくれるといいんですけど。

堀江 「思春期に近視になるのはしょうがない」って、誰も教えてくれないですもんね。

高橋 そうですね。あと、眼科の健診にも問題があると思います。緑内障は眼圧検査では、ほとんど見つけられませんから。日本人の緑内障は、ほとんどが正常眼圧なんです。

堀江 そうなんですか。

高橋 「70歳以上の10人にひとりは緑内障」といわれているのに、そのほとんどが検診で見つけられない。

堀江 緑内障は、どうしたらわかるんですか?

高橋 緑内障は視野検査で見つけるんです。あるいは視神経周囲の網膜スライスみたいなものを見る。

堀江 視神経のスライスってどうやって見るんですか?

高橋 眼科はものすごく画像診断が発達していて、網膜や視神経の厚みがライブで見られるんです。それを見ます。

堀江 そうなんですね。

高橋 こうした問題のある検診を変えようということで、神戸アイセンターは東京の健診センターと連携しているんですよ。

堀江 素晴らしいですね。僕も今、「予防医療普及協会」というのを立ち上げて、胃がんや大腸がん、子宮頚がんの予防啓発活動をキャンペーンをやっているんですよ。ぜひ、いろいろとご協力させてください。

高橋 はい。ぜひ。

堀江 本日はありがとうございました。

高橋 こちらこそ、ありがとうございました。

その1はこちら

高橋 政代(Masayo Takahashi)
理化学研究所・網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー。1961年生まれ。92年、京都大学院博士過程終了。京都大学医学部助手、京都大学病院探索医療センター助教授などを経て、現職に。神戸市の先端医療振興財団先端医療センター病院眼科部長なども兼務。