bodyタグ直後
WITH

AIは意識と感情を持つか?脳機能から考える【堀江貴文✕乾敏郎京都大学名誉教授✕阪口豊教授】鼎談その1

心理学者・脳科学者であり、京都大学名誉教授を務める乾敏郎、電気通信大学大学院情報理工学研究科教授で脳の情報処理メカニズムを専門とする阪口豊。
堀江氏は、両氏の共著である『脳の大統一理論:自由エネルギー原理とはなにか』の基礎となっている自由エネルギー原理とchatGPTとの関係について聞いた。

chatGPTのさらなる進化のために必要な知能とは?

堀江貴文(以下、堀江) 乾先生と阪口先生の著書『脳の大統一理論:自由エネルギー原理とはなにか』(乾敏郎、阪口豊・著/岩波科学ライブラリー)を読ませていただきました。

『脳の大統一理論:自由エネルギー原理とはなにか』乾敏郎、阪口豊・著/岩波科学ライブラリー

乾敏郎(以下、乾) ありがとうございます。この本では脳の個々の機能ではなく、全体としてどう働いているかということを説明しています。実は、そのようなアプローチは今までほとんどなかったんですよ。

堀江 なんでなかったんですか?

 それは、人間が持つ個々の機能の脳内メカニズムを調べるだけでも大変難しいからなんです。

堀江 でも、人間の脳とサルの脳って、物理的にはそんなに差異はないですよね。

 そうですね。ただ、人間の脳はたくさんの機能を持つために左脳と右脳で分業していますが、サルは左脳も右脳もほぼ同じ機能を持っていて分業はしていないんです。

堀江 そうなんですか。

 例えば人間の言語機能の場合、左脳が文法の処理をしていて、右脳は「こういう場面ではこれを言ってはいけない」など社会的なことを処理しています。

堀江 じゃあ、脳梗塞などで片方の脳が機能を失ってしまった場合、言葉が話せなくなるとか、社会性が失われるとか、そういうことになるんですか?

 左脳にも場所によっていろいろな機能があって、文法に従って言葉を組み立てている場所もあれば、人の話を聞いて日本語としてきちんと理解する「音声認識」をしている場所もあります。そして、例えば左脳全体が障害を受ける場合よりも、部分的に障害を受けることの方が多いので、その場所によって失う機能が違います。

堀江 でも、右脳も左脳も脳神経細胞は物理的には同じものを使っているわけですよね。

 そうですね。それが「脳の大統一理論」のポイントです。脳にはいろんな機能があるけれども、それらの根本原理は同じだということ。そして、人工知能学会や神経回路学会が注目しているのは「脳の大統一理論」のベースとなっている自由エネルギー原理(「あらゆる脳機能は自由エネルギーが最小になるように働いている」という英国の神経科学者カール・フリストンが提唱している理論)が数理的に書かれているからなんです。

堀江 なるほど。数理的に書かれているということは、方程式があるからそれを使ってプログラミングができるんだ。

 そうです。だから、AIやロボティクスを研究している人たちが目をつけています。そうなると堀江さんとしては「chatGPTとの関係はどうなんだろう?」ということに関心があると思うんですが……。

堀江 そうですね(笑)。僕は最近chatGPTと会話をしていると、すごく知性を感じるんですよ。今、人間がchatGPTと自然言語で話をしていると、もうそんなに大きな差はないというか、むしろchatGPTは人間よりも賢くなっている気がするんです。

 今、chatGPTに知性を感じるというお話が出ましたけれども、知能として一番ポピュラーなのはIQ(知能指数)ですよね。IQはひと言でいうと「言語能力」「論理数学的能力」「図形の空間的認知能力」です。では、IQ以外の知能にはどんなものがあるかというと、例えば「芸術的才能」や「身体的能力」、それからもうひとつ大事なものに「社会性知能」があります。社会性知能とは、例えば「社会の中でみんなとうまくやっていく。うまく振る舞う。」といった能力です。そして、chatGPTに一番欠けているものが、この社会性知能だと思います。ですから私は、chatGPTがこのまま進化しても社会性知能が獲得されるとは思えないんです。また社会性知能に関連して自分や他の人の感情を正しく把握していることも重要なんです。

堀江 うーん。

その2に続く

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

乾敏郎(Toshio Inui) 京都大学名誉教授
1950年生まれ。京都大学名誉教授。認知神経科学、認知科学、認知心理学が専門。

阪口豊(Yutaka Sakaguchi) 電気通信大学大学院情報理工学研究科教授
1963年生まれ。電気通信大学大学院情報理工学研究科教授。感覚・知覚・運動制御にかかわる脳の情報処理メカニズムが専門。