堀江貴文氏は、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員・加沢知毅氏から、現在行われている、「昆虫脳」の解析についての研究について話を聞いた。
昆虫の行動研究をみていくと、昆虫は素早い行動をするために、ダイレクトに特化した経路を作り、データをバックアップして高次中枢へといく経路をとり、それが記憶のリコールが起こる原理となっている可能性があるとのお話をしていただいた。
- その1 昆虫の脳の研究でカギとなる“リカレントニューラルネットワーク”とは?
- その2 日本初ショウジョウバエの全脳レベルでのシミュレーションと進化する昆虫の行動研究
- その3 将来的にス-パーコンピューターで昆虫の脳を完全再現、人間の脳の仕組みの解明へ ←今回はここ
将来的にス-パーコンピューターで昆虫の脳を完全再現、人間の脳の仕組みの解明へ
堀江 ラットとマウスでは、どちらのほうが賢いんですか?
加沢 脳のニューロンの数でいうと、ラットは約2億個くらいですが、マウスは数千万くらいです。
堀江 ヒト桁違いますね。人間はどれくらいでしたっけ?
加沢 約1000億個くらいだと言われています。
堀江 猿は?
加沢 ゴリラなどは約100億個くらいだと思います。
堀江 ゴリラと人間では、知覚がヒト桁違うわけですね。最近、Chat GPTとかが出てきて、「大規模言語学習モデルに知性みたいなものが現れた」という話がありますが、それは100億と1000億の違いみたいなものなのでしょうね。というのも、猿の神経細胞もヒトの神経細胞も、物理的には変わらないじゃないですか。
加沢 はい。物理的には変わらないですね。
堀江 簡単にいうと、ニューロンの数が増えただけですよね。でも、その数の違いだけで知性が現れるというのは、Chat GPTを見ているとわかるような気がするんですよ。
加沢 そうですね。例えば「数を数える」ということでいうと、人間が言葉を持っていなかった時は、手指の数である10までしか数えられなかった。昆虫は触覚だから「1、2」です。でも、人間が言語を持った瞬間に100でも、1000でも数えられるようになった。「メタ(高次元)構造」みたいなものを作り、考えることができるようになったからです。
堀江 人間はバーチャルというか、物理的に存在しない概念を作り上げることができたんですよね。
加沢 はい。ただ、人間は言語を話せるようになった瞬間に物理的に存在しない概念を作り上げることができるようになったけれども、その言語の基礎構造というか、言葉の組み合わせ自体はそれほど複雑ではないんです。それを示しているのがChat GPTだと思います。
堀江 あー、それはそうでしょうね。
加沢 組み合わせが単純だから、ネットワーク上で組めば知性のあるようにみえるChat GPTみたいなものができてしまう。だから、いま、私たちが漠然と知性と呼んでいるものは本当はそれほどたいしたものではないかもしれません。
堀江 それを聞いて、僕はなんかスッキリしましたね。脳は物理的にそんなに変わらないのに、ニューロンの数が増えただけで知性を獲得してしまったのは、そういうことなんだと。突然、神が宿るみたいなことが起きたわけではないんですよね。
加沢 そうですね。
堀江 そういえば、昆虫も猿も人間も同じだと思うんですが、脳は神経の伝達を効率的に処理するようにできていますよね。エナジーセーバー(節約型)ですよね。
加沢 はい。エナジーセーバーです。だから、情報がないところでは、あまり活kの動しないんです。
堀江 でも、回路は繋がっている。
加沢 そう。回路は繋がっていてそれを維持しているけれど、エネルギーは使っていない。
堀江 発火(活動)していないときの神経細胞は何をしているんですか?
加沢 機能的なことは何もしていません。逆に発火している時に何をしているかが重要なんです。実は神経細胞は発火してもローカルなその部分で完結しているんですよ。脳の一部だけを使っている。脳全体で活動したりエネルギーを使ったりしているわけではないので、エネルギーがすごく節約できるんです。
堀江 なるほど。そういう仕組みになっているわけだ。
加沢 脳というのは非同期で、みんなバラバラに動いているんです。だから、コンピュータ側から見ると「脳はなんてエネルギーを使わないんだ」という話になります。そのへんが脳とコンピュータの大きな違いでもありますよね。
堀江 昆虫の脳が完全にシミュレーションできると、人間の脳も仕組みもわかってきますよね。今後もぜひ研究を頑張っていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。
加沢 こちらこそ、ありがとうございました。
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Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI
加沢知毅(Tomoki KAZAWA) 東京大学先端科学技術研究センター特任研究員
1967年生まれ。茨城県出身。 1995年名古屋大学大学院物理学科満了の後、筑波大‐東京大学情報理工を経て東京大学先端研へ。昆虫感覚系神経生理の研究から、京コンピュータの開発をきっかけに昆虫全脳神経ミュレーションを目指し世界最大FLOPSの神経回路シミュレーションを構築。現在「富岳」上で昆虫脳詳細シミュレーションを構築して研究中。