インタビュー中の堀江さんと戸谷さん2-1@ZEROICHI
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「盲点」に眠った未知の光。15年分の観測データが語る宇宙

宇宙の「見えない9割」に、人類の英知はどこまで肉薄できるのか。

宇宙の全質量のうち、我々が知る「物質」はわずか数パーセントに過ぎない。残りの大部分を占めるとされながら、いまだ正体不明の謎の存在「暗黒物質(ダークマター)」と「ダークエネルギー」。その解明に繋がる新たなシグナルを、15年分の膨大な観測データから掘り起こしたのが、東京大学大学院理学系研究科 教授の戸谷友則氏だ。

銀河の形成から超新星爆発、そして生命の起源まで、宇宙の成り立ちそのものを研究対象とする戸谷氏。その最前線の知見に、宇宙開発の実業家としての顔を持つ堀江貴文氏が迫る。

全3回にわたるこの対談では、「宇宙の外側には何があるのか?」という根源的な疑問から、AIが解き明かす科学の未来、そして「138億光年の中に生命は我々だけ」という衝撃の宇宙論までを網羅。広大な闇に包まれた宇宙の真実を、理論とデータ、そして飽くなき好奇心で解き明かす。

第2回は、15年分の蓄積データという盲点に眠っていた未知の光。戸谷教授が自らコードを書き、執念でノイズを削ぎ落とした先に現れたダークマターの正体を紐解きます。

・その1:138億光年の壁を越えて。堀江貴文と探るダークマターの正体

・その3:「最初の一撃」は偶然か?暗黒物質の正体と生命不在の宇宙論

暗黒物質が放つ「未知のガンマ線」

堀江貴文(以下、堀江):今回の研究は、銀河の中心部分にこういう分布をしている、みたいなのが具体的にわかったというお話ですか?

戸谷友則教授(以下、戸谷):分布というより、ガンマ線で光っていることがわかったんです。もちろん暗黒物質かどうかは今後の検証が必要ですが、もしこれが本当に暗黒物質なら、未知の素粒子である暗黒物質の粒子同士がたまにぶつかって、ガンマ線という非常に高いエネルギーの光を出すことが予想されています。

堀江:それが見つかったかもしれない、と。

戸谷:そう。銀河系の中心方向には暗黒物質が密集していますから、そこからガンマ線が強く見えるはずなんです。

堀江:ああ、なるほど。平たく平均的に分布しているというよりは、重力が強いところに集中的に集まっている可能性があるということですね。

戸谷:そうです。銀河系っていうと普通の星は円盤状に分布していますけど、暗黒物質はもっと球状に、ぼわっと広がっているというのが理論的な予想なんです。だから銀河系の中心方向を見ると、モヤッと球状のものがガンマ線として見えるだろうと。それは昔からずっと探されていたんだけど、なかなか見つからなかった。それが今回、私の解析でそれっぽいものが出てきたんです。

「15年分」の蓄積データに眠っていた盲点

堀江:それは、なんでこれまでできなかったんですか?

戸谷:「フェルミ衛星」のデータを使っているんですけど、これまでも多くの研究者が暗黒物質探しをしていました。でも、ぼわっと広がった「ハロー」と呼ばれる領域を丁寧に探す人は、最近は意外と少なかった。ちょっとした盲点だったんですよ。

堀江:みんな、もっと一番密度の高い中心部とかを見ていたんですか?

戸谷:そうです。一番中心は密度が高いからたしかに明るいんですけど、そこには星も多いし、他のガンマ線を出す天体もたくさんあってノイズが多いんです。あとは、銀河系の周りにある小さな「矮小銀河」を探す人も多かった。でも私みたいに、銀河系の中心をちょっと外した領域をぼわっと探すのは、5年前や10年前にはいたけれど、なぜか最近は下火になっていた。

堀江:あー、なるほど。

戸谷:私は別の研究で、たまたま「この辺にダークマターがあってもいいんじゃないか」というヒントが出てきたので、今更感もあるけれど最新のデータでやってみようと。

堀江:それは何年分くらいのデータになるんですか?

戸谷:フェルミ衛星は2008年に打ち上げられて、今でもずっと動いています。2012年に公式チームが解析したときは、最初の2年分しか使っていなかった。私は今回、15年分も溜まりに溜まったデータを使えたんです。

執念の自作コードでノイズを削ぎ落とす

インタビュー中の堀江さんと戸谷さん2-2@ZEROICHI
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堀江:それはすごいデータ量ですね。

戸谷:15年分を使えば、当然ながら感度は上がります。でも、みんな飽きてくるんですよ。科学者って打ち上がってすぐのフレッシュなデータを競って扱いたがりますから。今の若い研究者から見たら、もう10年以上も動いている古い衛星なんて「もうやり尽くされているだろう」と思って、なかなか手を出さない。僕だって若い頃なら、きっと新しいプロジェクトの方に行っていたと思いますし。

堀江:実際に、そのデータはどう保管されていて、どうやって解析するんですか?

戸谷:アメリカのセンターに蓄積されていて、一般公開されています。天文学でスタンダードな形式である「FITSファイル」としてダウンロードできる。全天をメッシュ状に切って、「この方向から15年間に何発ガンマ線が来たか」というマップとして受け取るので、意外と10数GBくらいで済むんです。

堀江:それをどう解析していくんですか?

戸谷:銀河系には既知のガンマ線成分がいっぱいあるので、モデルマップをどんどん入れて、既存の成分を引いていく作業をします。最後に残った球対称の成分が、実際のデータに合うか合わないかを統計解析するんです。

堀江:それは、スクリプトを書いているんですか?

戸谷:これは、今回自分でプログラムを書きました。データをダウンロードし、様々なモデルのテンプレートを入れ、ライクリーフッドを計算するコードを書けるので。自分で作ったほうが早いと思って。

堀江:今だとAIに書かせたりもできますよね。

戸谷:はい、私はまだ古い人間なのでAIは少し心配なんですが。もしバグがあった時に大変だというので。

堀江:まあでも最近はそのへんの修正も。僕も何回か使ってますけど、とりあえず動いてくれるものは作れますね。でもミッションクリティカルなことにはあんまり使いたくないし、相当チューニングしないと怖いですからね。でもすごいですよね、それでフィルタリングして、ついにあれが見えたわけですね。

確証への道:矮小銀河と地下実験

戸谷:まだ確証とまではいかないですけどね。本当にあれが暗黒物質だったら、それはもう大発見なんです。

堀江:それは、これからどうやって検証していくんですか?

戸谷:やっぱり、別の天文現象で似たようなものが出ている可能性は否定できないので、銀河系の中心だけではなかなか100パーセント納得できないんです。そこでさっき言った「矮小銀河」ですね。もし私のシグナルが正しければ、同じようなシグナルが矮小銀河からも見えてくるはずなんです。統計がさらに溜まれば、信じてくれる人がかなり増えてくると思う。あとは暗黒物質を直接とらえる。それが、地下にある巨大タンクでの直接検出実験。暗黒物質が原子と反応してポコンとエネルギーを出すのを捉える実験と矛盾がなければ、みんな色めき立つでしょうね。

宇宙の複雑さと「人間原理」

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堀江:なんでそんなに反応性が低いんですか。

戸谷:暗黒物質がもし普通の電荷を持っていたら、我々の知っている普通の物質とどんどん反応するからすぐにわかりますよね。重力でしか感知できていないということは、相互作用が非常に弱い。そうでなければ、暗黒物質にはなり得ないわけです。

堀江:ややこしいですね、素粒子っていうのは。物理学の方程式ってどんどんシンプルになるのに、なんで素粒子の種類だけは増えていくんですか。

戸谷:究極の理論はシンプルだろうとみんな思っているけれど、宇宙の温度が下がって、粒子のエネルギーが下がってくるとボコボコと分化して、いろいろな変な粒子がいっぱい出てくる。でも、それくらいの種類がなければ生命みたいな複雑なものは作れないんですよ。分化しなければ生命は生まれない。そうなると我々はここに存在していない。我々がここにいる以上、宇宙はそれくらい複雑な仕組みを持っていないといけないという「人間原理」ですね。

その3に続く