新潟・長岡から、農業の研究拠点が集まる茨城・つくばへと拠点を移したFieldWorks。家賃18万円の元新聞配達所を改造した「ガレージ」には、3Dプリンターや独自の工夫で高速化したアルミ切削機が並び、日夜新しいプロトタイプが産声を上げています。「単純に食べるのが好き。そして仲間の実家の重労働を救いたい」。そんな純粋な情熱から始まった若者たちの挑戦は、マキタのバッテリー活用といった現場感覚溢れるアイデアを武器に、着実にその歩みを進めています。
最終回となる第3回では、堀江貴文氏がつくばの本社(拠点)を直撃。ロケット開発の黎明期を彷彿とさせる熱き開発現場の裏側と、彼らがロボット技術の先に描く「食糧危機を乗り越える持続可能な農業」のビジョンを語り合います。
・その1:「20kgを背負う重労働」からの解放。ロボコン出身者が挑む農業ハックの正体
・その2:「親機・子機」連携で自動化。高専スピリッツが生んだ“枯れた技術”の最適解
つくばのガレージから世界を目指す

堀江:さて、こちらは事務所ですか?
山岸:はい。FieldWorksの本社と言ってもいい、つくば拠点になります。
堀江:完全にガレージベンチャーですね。
山岸:そうですね。向こうの方で実際の開発も今やっています。
堀江:これ、全部手作りなのですか?
山岸:既製品をうまく組み合わせている部分もたくさんあるのですけれど、設計から最後組み立て、回路もプログラムも全部自分たちでやっています。これは先ほどご覧いただいたものの応用型で、防除用。殺虫や殺菌目的で作ったロボットです。
堀江:うわ、すげえ。これ、インホイールモーター?
山岸:まあ、ほぼそうですね。左右それぞれにポンプが付いているので、プロポで切り替えが可能です。夏場のハウス内は薬剤を浴びないために雨合羽を着なければならない過酷な環境なので、それを解決したい。熱中症リスクも高いですよね。
堀江:高齢化も進んでますし、ハウスの中は暑いですよね。
山岸:ハウス内は屋外よりも暑い場合が多いので。
堀江:ちょっと僕も動かしていいですか?おお、かなり直感的に動かせるね。いいですね。
山岸:ありがとうございます。ご高齢の方や、機械にまったく触れたことのない女性の方でも、一発で操作していただけていますから。
山岸:弊社のロボットの特徴として、小型で軽量なので宅配便が使えるんですよ。従来の農業機械とは違いまして。
堀江:宅配便。
山岸:段ボールに入れて送っていまして、あそこに段ボールがあるのですが……ちょっと見づらくてすみません、あちらにあります。あれで送れるのです。これ、今は20kgくらいですね。
堀江:本当だ、持てる。佐川急便さんで普通に送れてしまうのですね。
山岸:意外と地味に、それが効いてくるんですよ。そのおかげで、今は全国どこでも販売させていただいています。
堀江:へー。
山岸:農業機械はどうしても壊れてしまうものなのですが、壊れてしまっても「うちの方に送り返してください」とお伝えしています。
堀江:何かメンテナンス保証のようなものを付けているのですか?
山岸:一応、1年間は。我々もデータが欲しいので、無償保証という形で行っています。壊れても送り返してください、と。
堀江:なるほどなるほど。データはこれで取っているのですか?
山岸:いえ、ここにはあまり、何と言いますか、あまりPCのようなものは積めないので。
堀江:うん。
山岸:本当に機械的な故障のデータ、という感じになります。「戻ってきた機体のどの部分が、どのように破損したか」という知見を集めて、アップデートに活かしていきたいと考えています。
制御コストを削ぎ落とす「マイコン」の選択と、現場を知る者の「実感」
堀江:これ、制御のコンピューターは何を使っているのですか?
山岸:「M5Stack」というマイコンだけですね。
堀江:はいはいはい、そうなのですね。へー。
山岸:先ほどご覧いただいた親機には、別途PCがしっかり搭載されていまして、そちらは割とコストがかかるのですけれど。まあ、あまり言いづらいですが、従来の農業機械や農業ロボットの電子化コストと比べれば、制御コストはだいぶ小さいかなと思います。
堀江:なるほどなるほど。へー。今、何台くらい出荷しているのですか?
山岸:この「ウネマキ」に関しては、昨年末から売り始めて、今、世の中に30台くらいです。
堀江:え、すごい。へー。ちゃんと商売になっていますね。
山岸:ありがとうございます。ようやく世の中にだんだんと出せるようになってきまして、やはり需要はあるなと感じています。
堀江:需要はありますよ。あります、あります。僕もおじいちゃんの家が農家だったので。
山岸:そうですね、実感がある方だとやはり伝わりやすいのですが。実感のない人、例えばVC(ベンチャーキャピタル)の方々などに、これが如何に必要かというのを伝えるのは結構難しさがあります。
堀江:いや、実感がすごい湧きますよ。
家賃18万円の居抜き物件。改造加工機が唸る「開発の聖域」

山岸:あちらの方で開発をしているわけなのですが、いわゆる開発現場という感じで。
堀江:みんな長岡ナンバーですね。
山岸:長岡からみんな来たばかりなので、現在、つくばと長岡に拠点が分かれています。
堀江:お邪魔します。
山岸:居抜きでここをやらせてもらっています。
堀江:すごいキーボードが並んでいますね。
山岸:ここでロボットを設計したりプログラミングをしたりしています。
堀江:いいなあ。
山岸:この建物は結構特殊で、裏にもまだあるんですよ。ここはプレハブなのですが、加工場という感じで。組み立てスペースと、奥に加工場が二つあります。
堀江:お邪魔します。あ、すごい。なかなかの加工機が。
山岸:3Dプリンターが二台と、これはアルミの切削機ですね。ロボットの部品をこうして削り出しています。一点物のロボットなどを作る時は、特に自分たちでしっかり加工しています。これは市販で売っている卓上の機械を結構改造して、水が上から下に流れ続けるようにしたもので。
堀江:そうですよね、あまり見たことがないですよ、こんなの。なかなかマニアックですね。
山岸:この改造のおかげで、市販の状態より加工速度が10倍くらいになっているんですよ。
堀江:水をずっと出し続けているからですね。へー、それはすごい。日夜ロボットを作っている感じがしますね。ここは賃貸なのですか?
山岸:賃貸です。もともと新聞配達所をやっていたみたいで、その居抜きですね。本当に運が良かったです。
堀江:あ、これも(製品に)使っているのですか?
山岸:はい、これは既製品の「バスタ(BASTA)」という除草剤のノズルです。メーカーから「バスタの除草剤はこのノズルを使ってください」と指定されているので、それをそのまま搭載できる形にしています。
堀江: なるほど、そういうことか。完全に農業の機械に特化していますね。
「ロケット開発」の黎明期に重なる、ガレージベンチャーの熱量

堀江:すごい、マジで町工場だ。マキタのバッテリーチャージャーなんて初めて見ましたよ。本当にベンチャーらしくていいですね。本当にガレージだ。
山岸:ありがとうございます。「ものづくり系と言ったらこうあるべきだろう」という理想が、自分たちの中にやはりあるので。
堀江:なんかいいですね。うちのロケット会社の15年前、鴨川のログハウス時代を思い出しますよ。
山岸:ログハウス時代があったのですか?
堀江:ロケットエンジンの実験もしなければならないのですが、ロボットと違ってうるさい、というか衝撃波が出るんです。だから衝撃波が出ても大丈夫そうな、他の集落から何百メートルか離れている民家のようなところでやったのですが、一発でアウトでしたね。点火したら衝撃波で何百メートルも離れているガラスが割れそうになってしまいまして。「ここじゃもう無理だね」ということで北海道に移転したのです。北海道の最初の工場は、潰れたAコープの中を借りて、そこに旋盤などを置いてやりました。だから、ここを見ると似ているなと思いますよ。我々の頃に比べると、ちょっと近代的になっていますけれどね。
山岸:ありがとうございます!追いつき追い越せるように頑張ります。今は「ウネマキ」を大型化したものや、別の用途にも使えるものを開発中です。経営の規模が大きくなると、今の「ウネマキ」では足りない方もいらっしゃるので。従来の農業機械よりはずっと小さい、というものを形にしていきたいと考えています。今はまだ足だけですが。
堀江:トラクターのようなタイヤのようなものが付いてますね。すごい。面白かったです。
山岸:ありがとうございます。
長岡の花火から、持続可能な農業の未来へ

堀江:今年は長岡の花火大会に来るのですか?
山岸:行くと思います。毎年行っているので。
堀江:僕も今年初めて行くんですよ。いろんな人から「一回は見なきゃダメだ」と言われていたので。
山岸:マニアックな話ですが、川の右と左で結構見え方が違うんですよ。花火の種類によって、こっちが見やすい、あっちが見やすいというのがありますから、楽しみにしていてください。
堀江:楽しみにしてます。これ、農家さんが買おうと思ったら、どうすればいいのですか?
山岸:「フィールドワークス」や「ウネマキ」で検索していただければ、ホームページやYouTube、Instagramで動画をたくさん出しています。そこから問い合わせもできますので、ぜひお願いします。
堀江:FieldWorks、いってらっしゃい!
山岸開(Kai Yamagishi)
新潟県出身。長岡高専、長岡技術科学大学で高専ロボコン、学生ロボコンにチームリーダーとして参加。その後、2020年にDJI主催のロボット競技大会(RoboMaster)に参加するための団体Phoenix Robotsを立ち上げる。筑波大学大学院に進学中に、延べ10年近くロボコンに参加したときの仲間と共に農業用ロボットの開発を開始。2023年6月に株式会社FieldWorksを創業。現在に至る。