長年、ダイヤモンドへの「ドーピング」は不可能だとされてきた。しかし、嘉数教授はある日、毎朝9時と夕方5時に起こる不思議な現象からそのブレイクスルーとなる発見をする。第2回では、机と椅子しかなかった研究室から生まれた手作りの実物と、埼玉県の全電力を制御できるという驚異の成果について語られる。
・その1:地球温暖化を止める「ダイヤモンド半導体」の可能性。堀江貴文×佐賀大学・嘉数誠教授
・その3:計算上5万倍の省エネと宇宙ビジネス。実用化へのラストピース
不可能とされたダイヤモンドへの「ドーピング」
佐賀大学理工学部 教授 嘉数誠(以下、嘉数):ダイヤモンドが優れているというのは、実は私が最初に言ったわけではありません。恐らく30年も40年も前から、優れた半導体だと言っていた学者さんたちはいたのですが、今までほとんど研究が進展しませんでした。その理由はですね、半導体で不可欠な「ドーピング」にあるんです。ドーピングというのは、不純物を少しだけ入れて、電流の元になる「キャリア」(電子やホールなど)を作り出して流すというものです。
しかし、ダイヤモンドは先ほど言いましたように強い半導体、硬い半導体なので、不純物を入れてもキャリアが出てこず、電気が流れなかった。だから「半導体として優れている」と言われながら、実は全然作れなかったという歴史があります。
大発見のきっかけは「午前9時と午後5時」の異常値
嘉数:ところが、私がダイヤモンドに取り組んでいた20年ぐらい前のことなのですが、研究をしているとあることに気がついたんです。ダイヤモンドの電流をずっと毎日測っていたのですが、どういうわけか午前9時と午後5時になると電流が流れるようになるんです。
しかもそれは月曜から金曜までで、土日は流れないという現象が毎日続きました。最初は機械の故障かと思ったのですが、いろいろ調べていくうちに、それが二酸化窒素(NO2)だと気がついたんです。
堀江貴文(以下、堀江):面白いですね。よく気づきましたね。
嘉数:そうなんですよ。周りにいた人が「排気ガスの濃度によく似ている」と言ってくれたりして。それでNO2を当てるとドーピングができてキャリアが発生し、電流が流れるようになることに気がついたんです。もちろんその後ちゃんと実験をして確かめたのですが、それが大発見でした。
「机と椅子しかない」環境から生まれた手作りのダイヤモンド半導体

堀江:大発見ですね。
嘉数:はい。で、ちょっとそこから長いのですが、大学に移りまして、大体15年ぐらい経ったんですけれども、最初大学に行った時はもう机と椅子しかなくてですね。実験装置が何もなかったんですね。そこから一つ一つ実験をしながら揃えていったんですけれども、ようやくできたんですよ、ダイヤモンド半導体。で、今日ちょっとお持ちしたんですけど。
堀江:これもう現物なんですか。
嘉数:現物です。本物のダイヤモンドです。実はここの真ん中にあるこの4.5ミリ角の透明な板がダイヤモンドなんです。ダイヤモンド半導体です。
堀江:へー。
嘉数:で、その上に、ダイヤモンドという宝石の石だけじゃなくて、その上に半導体の素子が作り込まれているんです。
堀江:ほー。
嘉数:それで、表面にちょっとキラキラって金色に光っていると思うんですが、これは半導体の素子でよく使っている電極が見えているんですね。それが、その4.5ミリ角の中にですね、約70個並んでいます。
堀江:トランジスタが全部70個。へー。
嘉数:これが15年経ってようやく、しかも大学で作れるようになったんです。これで、これは最近の回路なんですけど、最初作った時はこんな回路でして、いかにも手作り感がありますよね。ダイヤモンド半導体を作って、学校で動かしましょうということになったんですが、はんだ付けして作ったんですよ。これ僕が作ったんですけど。
堀江:あー、なるほどなるほど。
埼玉県全域の電力を制御!?驚異の実証データ
嘉数:学生よりも私の方がはんだ付けが上手でして、手作りで作ったんですけど、ちゃんと動いたんです。そして、できた半導体の特性がすごかったんですね。電流値としては普通のパワー半導体と同じぐらい流れるのですが、電圧値は2568ボルトという、電車が動くような高い電圧でも壊れません。オフの時は2568ボルトかかって、オンの時は0.68アンペア流れる。そういうパワー半導体ができてしまったんですね。
これがどれだけの電力を制御できるかというと、875メガワットという桁違いに高い値だったんです。今、直径5センチくらいのダイヤモンドウェハーができているのですが、その上に私たちの技術を使うと、埼玉県の全家庭で使っている電力をすべて制御できるほどの、とてつもなくすごい値が出たんです。そういうわけで、ダイヤモンドがすごいということで、今すごく注目を浴びるようになっているんですね。
高周波数、放射線耐性:宇宙やレーダー技術への応用
嘉数:今日はパワー半導体ということでお話ししていますが、ダイヤモンドはキャリアが走る速度も速いんですね。なので高速動作や高い周波数での動作にも使えるんです。今主流のシリコンのほかに、シリコンカーバイドや窒化ガリウムといった高効率で大電力の半導体も使われつつありますが、ダイヤモンドはさらにその上の大電力と高い周波数をカバーできます。かつ、先ほど言ったように放射線に強いんです。
宇宙には宇宙線という放射線が降り注いでいて、シリコンを使っているとだんだん結晶が壊れてきちゃうのですが、ダイヤモンドは壊れません。そこから地上局や人工衛星での活用が期待されています。あとはレーダーですね。今もなお真空管が使われている箇所があるのですが、ダイヤモンドができれば、小型でエネルギー効率が良く、強力な電波が出せるレーダーに使えるという期待が高まっています。
堀江:なるほど。
ダイヤモンドが変える未来。データセンターから量子コンピューターまで

嘉数:それで、そろそろまとめますけれども、こういう電気自動車のようなパワー半導体と、それから高速通信ですよね。Beyond 5Gや6Gと言われている、例えば高解像度で動画が車や電車の中で見られるとか。それからあとはデータセンターです。データセンターもとても電気を使いますので、どれだけ電力を効率的に、エネルギーのロスがないように使うかというのも重要な課題になっているんですけど、それから宇宙ですよね。堀江さんはロケットの会社を作っておられますので、宇宙というところで接点があるかもしれないなと思います。あと、量子コンピューターのメモリにも使えるという研究も進んでいて、いろんなところでダイヤモンドが使われて、未来を変えていくことができるんじゃないかなと思って、夢を持って研究をしております。
今日はこれがまとめでございます。ダイヤモンドは非常に優れた半導体材料で、ダイヤモンドの基本的な技術を発見して、パワー半導体として動くようになったということと、今世界でも非常にトップレベルの特性を示します。
堀江:はいはい。
嘉数:今、データセンター、電気自動車、次世代通信、人工衛星、量子コンピューター、このあたりで近い将来使われるようになると信じて研究をしております。どうもありがとうございます。
堀江:ありがとうございます。なるほど。
全て大学のラボで手作り。高品質ダイヤモンドの製造プロセス
堀江:これあれなんですか?どこのラボで作ってるんですか?これは。
嘉数:大学で作ってます。
堀江:大学の。
嘉数:はい。
堀江:あ、そうなんですね。人工ダイヤモンドとかを作るのと同じような技術なんですか?
嘉数:そうですね。まずは種結晶を買ってきて、その上に我々、大学にある結晶を作る装置で、さらに高品質なダイヤモンド結晶を作ってですね、その上に半導体を作っています。高品質な結晶というのは、自然のダイヤモンドよりももっと不純物が少なくて、高純度で結晶の欠陥のないダイヤモンドを我々がまず作って、その上にさらに半導体の素子を作っています。
堀江:はい。
嘉数:全部大学でやっています。
堀江:あ、種結晶ってのもダイヤモンドなんですね。
嘉数:そうですね。今は種結晶を使っています。
堀江:それは人工ダイヤモンド?
嘉数:人工ダイヤモンドですね。
堀江:へー。
嘉数 誠(Makoto Kasu)
株式会社ダイヤモンドセミコンダクター最高技術責任者(CTO)、佐賀大学特任教授、名誉教授。
東京都出身。京都大学大学院博士課程電気工学専攻修了、博士(工学)。NTT研究所勤務後、2011年佐賀大学教授。2025年株式会社ダイヤモンドセミコンダクターを設立。2026年佐賀大学特任教授(現職に至る)。
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