WITH

魚を食べたから“文化”を手に入れた?【千葉工業大学学長・松井孝典氏が語る「ロケットで地球外の生命をみつける意義」その1】

千葉工業大学学長であり東京大学名誉教授の松井孝典氏が2023年3月22日永眠されました。弔意を込め、生前の堀江貴文氏との対談(2022年9月12日配信)を再掲します。ご冥福をお祈りいたします。

千葉工業大学学長であり東京大学名誉教授の松井孝典氏は、世界の地球科学者から注目を集めた日本の惑星科学の第一人者である。

ロケット事業を展開する堀江貴文氏は、松井氏が推進する「ロケットで地球外の生命をみつけるプロジェクト」について話を聞いた。松井氏との対談は「20万年前の地球での気候変動」まで話がさかのぼり、「ホモサピエンスの誕生」から「人と微生物の関係性」といった知的なキーワードの数々に、堀江氏の興奮は最高潮になった。

地球の成層圏で微生物を集める

堀江貴文(以下、堀江) この千葉工業大学の東京スカイツリータウンキャンパスにも学生さんはいるんですか?

松井孝典(以下、松井) 学生はいないですね。研究者が使うことが多いんですよ。例えば、惑星探査関係だと「はやぶさ2」や「DESTINY⁺(深宇宙探査技術実証機)」の研究会をやったり、これからは「MMX(火星衛星探査計画)」関連が多くなるでしょう。

堀江 DESTINY⁺って、どこに行くんでしたっけ?

松井 「フェートン」(ふたご座流星群の母天体)という小惑星です。詳細がまだよくわかっていないんです。

 いつ頃、打ち上げを予定しているんですか?

松井 MMXと一緒です。MMXは2024年に打ち上げて、2028年に火星に着いて、2029年にサンプルを持ち帰ってくる。

堀江 MMXは火星の衛星の「フォボス」と「ダイモス」を観測して、サンプルを採取してくるんですよね。

松井 そう。私の推測だと、そのサンプルから生命が見つかるのではないかと思っています。今も、火星にはメタンが季節的にたくさん出ているんですが、そのメタンの起源のひとつの可能性はおそらくバクテリアだろうと言われている。そうだとすると、火星への天体衝突があるたびにバクテリアが放り出される。バクテリアは宇宙空間では凍結乾燥した状態になる。すると、火星の衛星のフォボスには、放り出された凍結状態のバクテリアなどがたくさん降り積もっているはずです。だから、フォボスの表面からサンプルを持ち帰れば、火星に生命がいるのであれば、その証拠が見つかる可能性があります。2029年に、世界で初めて地球以外の生命を見られる可能性があるわけです。

堀江 2024年の打ち上げって、何でやるんですか? 日本のイプシロンロケットですか?

松井 いや、H3ロケットの予定です。

堀江 H3なんですか……。なんか、エンジンサイクルが良くないみたいな話を聞きますけどね。

松井 そうなんです。だから、私は「外国製のロケットを使ってでもいいから、2024年に必ず打ち上げるように」と言っているんです。そうしないと、2029年にサンプルを持って帰れない。2030年になると、アメリカが火星からサンプルを持ち帰るので、その前にやらなきゃ意味がないですからね。

堀江 なるほど。

松井 あと、地球の成層圏でも微生物を集めようと思っているんです。

堀江 それは、なんのためにですか?

松井 2500年前くらいから知られている「赤い雨」という現象があるんです。最近だと2001年にインドで、2012年・2013年にスリランカで起こっています。実は、この赤い雨のサンプルを手に入れてゲノムの分析をしたら、赤い雨はシノバクテリア(藍藻)であることがわかった。シノバクテリアが宇宙まで行って紫外線を浴びて緑の色素がなくなり、赤い色素だけ残って空から降ってきたのが赤い雨現象だろうということを突き止めたんです。

堀江 はい。

松井 すると「パンスペルミア(地球の生命の起源は宇宙からやってきたという説)」が関係してくるんです。地球で生まれた生命が宇宙に出ていって、そのまま戻ってくるということが実際に起こっているかを確認する。そのために、成層圏で地球から出ていく微生物を捕まえようと思っているんです。あるいは、逆に地球に入ってこようとしている微生物が見つかるかもしれない。

堀江 それは、どうやって捕まえるんですか?

松井 回収装置を地上40㎞くらいまで上げて、そこから落下させます。そして、30㎞くらいになったら回収装置の弁を開けて成層圏の大気を吸い込む。20㎞くらいになったら弁を閉める。その回収したサンプルに微生物がいるかどうかを調べるわけです。日本でこの実験をやると、回収装置はだいたい海の中に落ちてしまいます。すると、回収作業に時間がかかるし、回収装置の中に海水が入ってしまう可能性があるんです。今までの実験では、二度海水が入っていました。だから、今度はモンゴルでやろうと思っているんです。モンゴルだと陸上で回収できますからね。

堀江 モンゴルは広いですもんね。

その2へ続く

堀江貴文のメールマガジンはこちら

松井孝典(Takafumi Matsui)
千葉工業大学学長、東京大学名誉教授
1946年生まれ。理学博士。専門は地球物理学、比較惑星学、アストロバイオロジー(宇宙生物学)。1986年、学術誌『ネイチャー』に海の誕生を解明した「水惑星の理論」 を発表し、世界の地球科学者から注目を集めた。日本の惑星科学の第一人者。