WITH

機械はどこまで人の声に近づけるのか?【Syrinx(サイリンクス)開発者、竹内雅樹氏 その1】


2019年から「サイリンクスプロジェクト」を始動した、東京大学大学院工学系研究科博士課程の竹内雅樹氏。
竹内氏は、日本最大級のオリジナルハードウエアコンテスト「GUGEN」グランプリ受賞、「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト アイディアコンテスト」グランプリ受賞など、数々の賞を受賞している工学系の若手ホープである。

堀江氏は竹内氏の開発する、声を失った方のための新しいウェアラブルデバイス『Syrinx(サイリンクス)』を装着し、声を出さずに会話ができることに驚愕した。

口の形で声を読みとる

堀江貴文(以下、堀江) 竹内さんは、咽頭がんなどで声を失った方のために新しいウェアラブルデバイスを開発しているんですよね。

竹内雅樹(以下、竹内) はい。本日、こちらに持ってきましたが、私たちが開発しているのは『Syrinx(サイリンクス)』というものです。一方で、こちらが20年以上前から販売されている電気式人工咽頭(EL=ElectroLarynx)です。小さな懐中電灯や電気ひげそり機のような形をしています。

堀江 へー。じゃあ、こうした人工咽頭はかなり前からあるんですね。

竹内 そうですね。まず従来品のデモをさせてください。

堀江 はい。

竹内 ELの電源を入れてボタンを押すと、先端部分が振動します。この振動している部分を喉に押し当てて、声を出さずに口をパクパクするだけで声が出ます。「コンニチワ、コンニチワ、ボクハイマ、クチヲパクパクシテイルダケデス……」

堀江 本当だ! 

竹内 堀江さんも、もしよろしければやってみますか?

堀江 はい。この、振動しているところを喉にあてるんですね。「………………」

竹内 人によって位置が違うので、もう少し下のくぼみにあててみてください。

堀江 「コン……ワ、コンニチワ」出た! やばい! すげえ! 「シャベレマス! シャベレマス!」

竹内 堀江さん、上手ですね。

堀江 ということは、声帯を失った人は声が出なくなって、こういう口パクの状態になっちゃうんですか?

竹内 そうです。人の声は肺からの呼気が喉にある声帯を振動させることで出ています。ただ、この時点では一種類の原音しか出ません。その原音を口の形を変えることなどで「あ」「い」「う」「え」「お」といった音にするんです。

堀江 あー、それは歌手の人から聞いたことがあります。

竹内 でも、咽頭がんや喉頭がん、食道がんなどで声帯を摘出すると、この原音をつくることができなくなってしまいます。すると、口の形を変えることはできるけれども、原音がないので声にならない。それで、このELで原音を皮膚の上から送ってあげるわけです。

堀江 わりと単純な仕組みだけど、このELをつくった人はすごく頭がいいですね。

竹内 調べてみると、第二次世界大戦のときに銃などで喉を撃たれて、声帯を失った人たちのためにつくられたのが最初で、その後、がんなどで声帯をなくした人たちも使うようになったみたいです。

堀江 なるほど。

竹内 ですから、このELはずっと前から売られているものなんですけど、これを使って会話している人を日常生活ではあまり見かけないですよね。

堀江 確かに。

その2へ続く

堀江貴文のメールマガジンはこちら

竹内雅樹 (Masaki Takeuchi)
東京大学大学院工学系研究科博士課程
1995年生まれ。埼玉県所沢市で生まれ、神奈川県横浜市で育つ。
2018年、慶應義塾大学卒業後、理化学研究所勤務。2019年、東京大学大学院入学。同年、「サイリンクスプロジェクト」始動。2020年5月、マイクロソフト主催の学生の開発コンテスト「Microsoft Imagine Cup」で準優勝。10月、国際エンジニアリングアワード「James Dyson Award」でトップ20入り、及び国内最優秀賞受賞。12月、日本最大級のオリジナルハードウエアコンテスト「GUGEN」でグランプリ受賞。2021年、「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト アイディアコンテスト」でグランプリ受賞