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なぜ日本は胃がん発症率が高いのか?【医師・間部克裕が語る「胃がん大国・日本の信じがたい現状」とは? その2】

10年以上にわたり胃がん予防を研究し、日本ヘリコバクター学会の幹事でもある認定医・間部克裕医師に、堀江貴文がお話を聞きました。

(文章・聞き手= 塩谷舞/ 初回配信日:2016年4月18日)

本当は国のプロジェクトとしてやるべき、という声

——現在堀江さんが主体になって進めているこの「予防医療普及委員会」のプロジェクトですが、公開したら「それって国がやれば良いんじゃない?」「なんでホリエモンが?」という声がたくさんTwitterなどで出ていたんです。

間部:残念ながら、国はこれまでも……たとえば薬害エイズにしてもそうでしたが、先導を切って動かしてきてはいないですよね。世界保健機構が2014年に胃がん対策として、ピロリ菌検査と除菌を進めるよう勧告しているのですが。

堀江:この「予防医療普及委員会」は最初に厚生労働省に相談したんですよ。それは最初別件で……まぁ、刑務所のアレで、話をしていたのですが……

間部:あぁ、そんなこともありましたね……(笑)。

堀江:それがきっかけですが、予防医療の担当課長も紹介してもらった。でもリスクの話ばかりになって、なかなか進まない。だからまずは個人的に有志を募って、クラウドファンディングで盛り上げていこう、という途中なのですが。もっと本格的にやるには、「予防医療を推進する議員に投票します」って政治活動とかにするのが一番効果的なんじゃないか、とも思っています。

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間部:我々も何とか国に動いてもらえるように、努力を続けてます。

堀江:うーん。政治家にとって、一番強いのは有権者だから。有権者が明確に「予防医療を推進する政治家じゃないとダメ」と選ぶことができたら、日本も変わっていくと思うんですね。そういう声を集めるWebサイトも作りたい。

——堀江さんは政治家にはならないんですか?

堀江:もともとは、選挙に立候補してたし、やるつもりでしたけどね。でもあの時に政治家の方々と親しくなって、その世界を知っていくと、多分僕は政治家になるよりもこういう活動をしていた方が、結果として政治的課題を速く解決出来るんじゃないか、と思ったんです。

間部:なるほど。話が戻りますが、アメリカでは国ではなく保険会社が「大腸がんの検査を受けないと、保険料を釣り上げますよ」といって、大腸がんの死亡率が随分下がったんです。韓国では国をあげて胃がんの検査率が向上しているし、アメリカでは民間の競争原理によって検査率向上を果たしている。方法はどちらでも良いのですが、日本はどちらにも転ばず、中途半端なんです……。

ピンクリボンに匹敵する、胃がん予防のプロジェクトを

——日本で成功している、検査の例とかってあるんでしょうか?

間部:いやぁ、少ないですよ。欧米だと、主な死亡原因の病気だと50〜80%が検診を受けることが多いけど、日本は多いもので30〜40%くらい。女性の乳がん検診や子宮がん検診は少しずつですが、確実に受診率が上がりつつありますね。

堀江:それは、ピンクリボン運動の成果ですね。あれは成功していると思います。

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http://www.pinkribbonfestival.jp/

間部:そうですね。札幌では会社や市の両方をあわせるともっと高い受診率でした。年代によっては60%以上でした。

堀江:僕は、この予防医療普及委員会で、ピンクリボン運動に匹敵するものをやりたいんですよ。色々と予防するべき病気はあると思いますが、まずは最も簡単な方法で見つかる胃がんを、日本からなくしたい。それができたら、すごいことじゃないですか。

間部:それは同感ですね。僕らは胃がんを防ぐ活動をしていますが、これまでお話した現状はとても重く受け止めている。だって、アメリカには大腸がん、韓国には胃がんの検診の普及率で負けていて。日本の医者は、日々それらの国に医療技術を教えに行っているぐらいレベルが高く、内視鏡機器も殆ど日本製だというのに。

堀江:政策の問題なんですかね。

間部:そうですね。でも、「神の手」のようなものを、医療側もマスコミも重要視する傾向がありますよね。もちろん難しいオペを成功させる技術やその普及は大切です。ですがより大きな目で見れば、もっと前の病気になる前の段階で、簡単な検査で早期発見を促すこと。それを、国として普及させることが重要なんです。

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堀江:それって、工業製品の世界とも似てますね。ものづくり大国ニッポンだ!なんて言って、職人の技ばかりがすごく注目されるんだけど、全体的には衰退している。

間部:職人技はそれはそれで素晴らしいのですが、やっぱり、国家規模でできることをしっかりやらないと。

堀江:あとは、ゼロリスク信仰が強いというのも、影響してますよね。ピロリ菌を除去するにしても、そうすると逆流性食道炎が発症するから……と躊躇する方も多い。リスクがあるから、除去できないという意見があります。

間部:そうですね。ピロリ菌を除去すると、逆流性食道炎になる人もいます。でも統計学的に有意になる程ではなく、良くなる人も変わらない人も多いんです。その先の胃酸逆流によるバレット腺癌の増加を懸念する人も居ますが、ピロリ菌を除菌することによって増加するわけではありません。少なくとも死亡者数でいうと、圧倒的に胃がんの方が多いんです。

間部: ただ、ピロリ菌を取り除いたからといって、胃がんにならない訳ではないので油断は禁物なのですが。それは検査を受ける年齢にも関わってくるんです。

その3に続く

間部 克裕 KATSUHIRO MABE

日本ヘリコバクター学会幹事、認定医、日本消化器内視鏡学会学術評議員、専門医、指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化管学会専門医、指導医、日本消化器がん検診学会認定医、日本内科学会認定医