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倒産危機にあった老舗旅館を ITで立ち直らせた! 【『陣屋』社長・宮﨑富夫が語る 旅館の未来とは? その1】

堀江貴文氏は9月27日、陣屋社長 (当時) の宮﨑富夫氏を取材。「旅館」の未来などについて話を聞いた。(初回配信日:2016年9月27日)

休館日を3日設けたら、シフトが安定し、スタッフが休めて、生産性も上がった!

堀江貴文(以下、堀江) 『陣屋』さんは、創業してから何年目なんですか?

宮﨑富夫(以下、宮﨑) 98年です。

堀江 98年!(笑)

宮﨑 はい。大正7年ですから。

堀江 すごいなー。なんか囲碁や将棋の対局場にも使われているんですよね?

宮﨑 ええ。これまでに300くらいのタイトル戦が行なわれています。

堀江 なんで対局が行なわれるようになったんですか?

宮﨑 私の祖父が囲碁や将棋が好きで、自分の家で対局を見たいと思って、戦時中にここを買ったんです。それまでは三井財閥の奥座敷(「平塚園」)でした。

堀江 じゃあ、もともとゲストハウスみたいなものだったんですね。

宮﨑 そうですね。そして私は、4代目として2009年にこの旅館を継いだんですが、その時は倒産の危機でした(笑)。

堀江 ははは(笑)。

宮﨑 本当に倒産するか、売却するか迫られたんですよ。

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堀江 それで、旅館のIT化に乗り出したと。

宮﨑 はい。

堀江 旅館の経営って今でもそうですけど、あまりIT化が進んでいませんよね。

宮﨑 ええ。当時のうちの旅館もまさにそうでした。本当にアナログで、手書きや伝言だったために、いろいろと問題が出ていたんです。それで、まずは顧客情報や予約情報などをクラウド化するために、SEをひとり採用して開発を始めました。私は大学時代からずっとエンジニアで、以前、勤めていた会社でも燃料電池の基礎研究などをしていたので、そういうコアの部分に関しては妥協したくなかったんです。

堀江 それまでは、顧客管理とかにかなりコストがかかっていたんですか?

宮﨑 コストというか、人が多かったんです。当時はスタッフが120人くらいいましたから。

堀江 部屋数はどれくらいですか?

宮﨑 20部屋です。

堀江 20部屋に120人いたんですか?

宮﨑 そうです。社員が20人。パートさんが100人です。それに“ひとつの仕事しかしない”っていうパートさんが結構いたんですよ。例えば“炭を起こすだけ”とか“靴を出すだけ”とか“太鼓を叩くだけ”とか(笑)。

堀江 入り口で太鼓を叩いていた人がいましたけど、あれだけやってる人がいたんですか?(笑)

宮﨑 当時は。今はそれ以外もやってますけどね。

堀江 それはそうでしょ。すごい非効率的な経営だったんですね。

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宮﨑 なので、利益は全然出ないし、稼働率も下がっていく。やむを得ず、宿泊客を増やすために宿泊の単価をどんどん安くしていったんです。

堀江 ダメなパターンだ。

宮﨑 私が入った時は、1泊2食付きで9800円くらいまで落としていました。だから、お客さんが入っても全然、利益が出ないんですよ。人件費だけで赤字。そして、今よりずっと忙しかった(笑)。

堀江 いいことが何もない(笑)。

宮﨑 それを変えなきゃいけないので、まず、生産性を上げるために“3日休む”ことにしたんです。

堀江 休館日を設ける。

宮﨑 そうです。月・火・水の3日間、宿泊を取らないようにしたんです。これは旅館では結構、珍しいことなんですよ。

堀江 ほー。

宮﨑 土日の忙しい時にスタッフを集中させたかったんです。それに、もともと月・火・水って、そんなに稼働率が上がらないですし、平日のお客様は木曜日とか金曜日に移動してもらえることが多いので、売り上げがそれほど下がらなかったんです。

堀江 なるほど。

宮﨑 月曜日は昼だけ営業していますが、毎週、火曜日と水曜日が完全休館日なるのでスタッフが体を休められるし、シフトも安定するんです。その結果、離職率が10分の1くらいになりました。今までの旅館のスタッフって、不規則なシフトと労働時間の長さ、そして給料の低さで、なかなか長く続かなかったんです。特に若い人はそうですね。昔は、いろいろな事情があって、住み込みで働くみたいなことがあったようですが……。

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堀江 よく、わけありの人が働いてます、みたいな(笑)。

宮﨑 旦那から逃げてきた、みたいな(笑)。

堀江 でも、旅館に休館日を設けるっていうのは、素晴らしい発想ですね。

宮﨑 本当にそれで生産性が上がったんです。私の家内が女将なんですが、倒産するかどうかの時は、本当に休みなしで働いてました。でも今は、女将も休むし、支配人も休む。「みんなで気持ちよく休もう」という雰囲気になっています。

堀江 いいことですよね。

宮﨑 そして休館日を作ったら、設備の修繕も計画的にできるようになりましたし、テレビドラマや映画の撮影が入るようになりました。

堀江 これは誰が対応してるんですか?

宮﨑 それは女将とか私とかですが、まあ、毎週のことではないし、一人いれば大丈夫なので。

堀江 ドラマや映画の撮影だけじゃなくて、全館使える状況っていうのは珍しいので、麻雀大会とか囲碁大会とかのイベントをやっても楽しいですよね。

宮﨑 そうですね。面白そうですね。

その2に続く

宮﨑富夫 Tomio Miyazaki

神奈川県秦野市・鶴巻温泉『元湯陣屋』4代目社長 (当時) 。1977年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学部修士課程修了。2002年、本田技術研究所に入所に、次世代燃料電池の開発に携わる。2009年、陣屋の代表取締役社長就任。2012年、陣屋コネクトを設立。映画監督の宮崎駿氏は叔父にあたる。