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「人は五感に加え 『地磁気』感覚も身につけられる」 【東京大学教授・池谷裕二が語る 「脳」と「感覚」の最先端 その2】

堀江貴文氏は6月29日、東京大学の池谷裕二氏を取材。「脳と感覚」の最先端について話を聞いた。(初回配信日:2015年6月29日)

日本人の中にも少数だが地磁気を感じ取れる人がいる

池谷 あとは匂い。コリアンダー(香菜、パクチー)って、好きな人と嫌いな人がいますよね。嫌いな人は「カメムシの匂いがする」って言うんですけど、堀江さんします?

堀江 しないです。

池谷 する人は3割くらいいるんですよ。私、カメムシ臭いんです。

堀江 そうなんですか?

池谷 よく調べると、カメムシの臭さとコリアンダーの匂いはちょっと物質が違うんですが、遺伝子の変化によって、その物質を同じ匂いとして受容してしまう人がいるんです。そうすると、コリアンダーがカメムシ臭く感じるんです。

堀江 カメムシって、どちらかというと排泄物の匂いに近いですよね。

池谷 そう。コリアンダーはあの匂いがするんです、私は。

堀江 それは辛いですね。

池谷 だから、みんな食べられないんです。でも、私はコリアンダーが大好きなんですよ。納豆とかも匂いはありますが美味しいじゃないですか。鮒寿司とか。あのイメージで食べています。みんなは「コリアンダーはさわやかな清涼感たっぷりの野菜だよ」っていうけれど、私にはそのイメージがわからないです(笑)。

堀江 僕は、清涼感たっぷりの野菜の感覚ですね。

池谷 結局、「顔」も「色」も「味」もそうですけど、世の中には感じる人もいれば感じない人もたくさんいて、自分の感覚が他人と本当に共有されているのかどうかは、わからなくなっちゃうわけです。

堀江 人間の感覚っていうのはなんだろうと……。でも、そうした興味が今回の研究につながっていったわけですよね。

池谷 地磁気の実験のことですね。

堀江 はい。

(編集部注:池谷氏は、目の見えないラットの脳に地磁気センサーを埋め込み、地磁気を感知して迷路の中のエサを見つけられることを確認した。この結果、脳は五感以外の新しい感覚にも対応し、それを有効に使うことができることがわかり、視覚障害などの治療に役立てられる可能性が出てきた)

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堀江 僕は、脳にいろいろなセンサーを埋め込んだら、人間も新しい感覚を身につけられると思っているんですよ。「人間の感覚の拡張」です。たとえば、感じられる光の波長を少し広げれば、赤外線も見られるようになるわけですよね。

池谷 そうです。

堀江 紫外線だって見えるようになる。

池谷 ええ。ただ少しだけ違う点もありまして、赤外線や紫外線は、あくまで光です。これを感じるようになるのは「視覚」の延長線上ですよね。私たちが研究しているのは五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)ではなくて、地磁気などの「新しい感覚」なんです。地磁気は、五感をどう延長しても出てこない、新奇なモダリティです。

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堀江 でも、地磁気センサーを持っている動物っていますよね?

その3に続く

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Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保

池谷裕二(Yuji Ikegaya)
東京大学・薬学部・教授、薬学博士。1970年8月16日生まれ。静岡県出身。東京大学・薬学部にて博士号取得。米国コロンビア大学客員研究員、東京大学・薬学部・准教授などを経て、現職に。著書に『ココロの盲点』(朝日出版社)など多数。