堀江貴文氏は6月29日、東京大学の池谷裕二氏を取材。「脳と感覚」の最先について話を聞いた。(初回配信日:2015年7月2日)
アルツハイマー病は診断と投薬によって予防が可能
堀江 いやー、面白いなあ。でも、これって薬学系の研究なんですか?
池谷 これも薬学です。正式には「電気薬学」と呼びます。
堀江 あ、そうなんですか。
池谷 例えば、心臓のペースメーカーなどは、化合物としての薬ではないけれども、患者さんを助けますよね。パーキンソン病患者の脳に電極を埋め込んで、刺激を続けると症状が改善します。これも治療です。
堀江 パーキンソン病って、脳に電極を埋め込む人が多いんですか?
池谷 結構いますよ。手術療法としては主流です。健康保険の適用も認められています。
堀江 やってない人がいるのは、なぜなんですか? 脳の手術が必要だから?
池谷 そうですね。「頭を開けたくない」と思う人が、やっぱり多いですね。心理的抵抗です。この治療は、電極を埋め込めば、完治するというわけではないのです。どんなに抵抗しても病状は進行します。しかし、「一人で出歩ける期間が何年かは延びますよ」という程度。それでもいいから「頭に電極を埋め込んでください」と言う人は、やはり少ないです。
堀江 パーキンソン病って、脳が死んでしまう病気でしたっけ?
池谷 そうです。脳の「黒質」の神経細胞が死んでしまう病気がパーキンソン病です。黒質が死ぬと、まず体がスムーズに動かなくなります。初期症状としては手が震えてモノが持てなくなってしまう。それから、やる気がでない。それに対して、「海馬」などの大脳皮質周辺から死んでいくのがアルツハイマー病で、アルツハイマーは記憶することができなくなってしまいます。脳のどこから死んでいくかによって症状が違います。
堀江 へぇ
池谷 パーキンソン病は、1000人にひとりくらいの割合でなります。
堀江 1000人にひとりですか……。
池谷 アメリカはもっと多くて1.6%です。
堀江 なんで脳が死んでいくんですか?
池谷 正確にはわかっていません。現在の仮説は、タンパク質がうまく代謝できないからだと言われています。
堀江 タンパク質が溜まってしまう人がいる……。
池谷 タンパク質の中の「シヌクレン」が溜まるとパーキンソン病ですね。一方、「アミロイドβ」が溜まるとアルツハイマー病です。パーキンソン病は認知症よりも患者数が少ないので、少し研究が遅れています。アルツハイマー病は患者さんも多いので、研究がずいぶんと進んでいます。たとえば体の免疫細胞を活性化することで、溜まってしまったアミロイドβを取り除けることがわかってきました。それにアルツハイマーの場合は30、40代から溜まりはじめているので、50歳くらいの時点で診断を受けると、「あなたは80歳で発症します」というような危険率が推定できるのです。だから50歳の時点で除去するような薬を飲み始めれば、発症しないはずとされています。
堀江 それは血中濃度とかでわかるんですか?
池谷 PET(陽電子放出断層撮影)で、頭を断層すればわかります。
堀江 PETでわかるのだったらいいですね。じゃあ、パーキンソン病も予防できたり、治る時代がすぐに来そうですね。
池谷 そうですね。アルツハイマー病はいよいよという気配があります。パーキンソン病の研究はまだまだですが、でもこちらもどれだけお金がつぎ込まれるかが鍵です。例えば、国家プロジェクトなどで集中的に研究者を集めれば、想像されているよりも早く解決するかもしれないですね。
池谷裕二(Yuji Ikegaya)
東京大学・薬学部・教授、薬学博士。1970年8月16日生まれ。静岡県出身。東京大学・薬学部にて博士号取得。米国コロンビア大学客員研究員、東京大学・薬学部・准教授などを経て、現職に。著書に『ココロの盲点』(朝日出版社)など多数。