堀江貴文氏は7月6日、神経科学者の竹田真己氏を取材。「神経回路研究」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年7月6日)
今は脳の機能地図を作っている段階
堀江貴文(以下、堀江) 先生は、猿を使った実験で“記憶を思い出す時の脳の仕組み”を解明されたんですよね。
竹田真己(以下、竹田) はい。実は、脳の構造とかシステムはかなり複雑で、ほとんど解明されていないんです。今わかっているのは、「脳のあるエリアの細胞はどういった機能を担当しているか」という現象だけ。脳の機能地図を作っている段階に過ぎません。実際にその地図を使ってどのように旅行しているか……つまり、それぞれのエリアの細胞がどう連絡をとって機能しているかは全然わかっていません。
堀江 記憶の仕組みも、まだあまり解明されていないということですか?
竹田 そうです。基本的なメカニズムでいえば、まず最初に記憶を担当するのが「海馬」です。コンピュータに例えると、海馬はRAM(ランダムアクセスメモリ)みたいなものですね。
堀江 海馬にあるのは短期記憶ですよね。それが長期記憶になると、大脳の新皮質に移ると言われてますよね。
竹田 移るという現象だけはわかっていますが、実際に海馬にある短期記憶がどうやって新皮質に移るかは、何もわかっていないんです。そもそも、短期記憶が海馬にあり、長期記憶が新皮質にあると一般的に言われていますが、それも完全に証明されたわけではないんですよ。
堀江 細かなことは全然わかっていないんですか?
竹田 はい。そう言っていいと思います。
堀江 記憶される時、脳はどういう状況になってるんですか? 回路ができているみたいな?
竹田 例えば長期記憶の場合、すごくラフに言うと、記憶される前は細胞同士が単体であるだけです。それが記憶されると、“細胞と細胞の間に明確な配線ができた”状態になります。1回配線ができると、それを思い出す時にはその回線を利用して信号が伝わるので、記憶が再構成できるんです。
堀江 へえ。短期記憶の海馬はどうなんですか?
竹田 海馬にも配線はあるんですが、新皮質とちょっと違って太いというか……。
堀江 太い?
竹田 伝達効率を上げるという意味です。線が太いから情報が伝わりやすいというイメージです。それが「記憶を一時的に蓄えておく」、つまり短期記憶と言われているやり方です。
堀江 なるほど。
竹田 この細胞と細胞をつなぐ線は、使われないとなくなっていきます。逆に、使われると線が太くなっていくイメージです。何回も線が使われると、基本的に消されることはなくなります。
堀江 海馬で線がすごく太くなったものが、長期記憶にコピーされるみたいなことなんですか?
竹田 カット&ペーストみたいな感じですかね。
堀江 どうやってカット&ペーストするんですか?
竹田 それはまだ、全然わかっていません。私が研究しているのは短期記憶から長期記憶に移るところではなくて、その先なんですよ。長期記憶に移った後に、物の記憶がどのようなサーキット(回路)で蓄えられているかということなんです。
竹田真己(Masaki Takeda)
順天堂大学大学院医学研究科特任講師(当時)、神経科学者。1976年生まれ。静岡県出身。2005年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了後、東京大学大学院医学系研究科特任講師を経て、現職に。