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リニアなど多分野に革新をもたらす!?【“永久電流技術”が誕生した話 その1】

電流を流すと電気抵抗によりロスが生じるというのは聞いたことがあるのではないだろうか? しかし最近では、電気抵抗をほぼ0にして永久的に電流を流し続けられる技術が誕生した。この技術を応用することで、リニアモーターカーや医療用のMRIなど、多分野に大きな変化が訪れるとのこと。

そこで今回、堀江貴文氏は、国立研究開発法人理化学研究所生命機能科学研究センター所属の柳澤吉紀氏と山崎俊夫氏から、その新技術の詳細や想定する活用事例について話を聞いた。 (取材:2021年11月)

“高温超電導 接合”による“永久電流技術” とは

堀江貴文(以下、堀江) 柳澤さんと山崎さんは“高温超電導 接合”による“永久電流技術”を開発されたんですよね?
(*−269℃の液体ヘリウム温度で超電導になる“低温超電導”に対し、−196℃の液体窒素温度で超電導になることを“高温超電導”という)

柳澤吉紀(以下、柳澤) そうです。“高温超電導接合”というのは、“電気抵抗ゼロ”の“接合体”です。この接合体を使って、約2年間、外部からの電流供給なしで“永久電流運転”ができました。この時に発生した磁場は“9.39テスラ(テスラは磁界の強さを表す単位)”と強く、2年間で100万分の1しか変化しません。とても安定性のあるものです。

堀江 すごいですね。

柳澤 まず、こちらをご覧ください。これが、高温超電導の“線材(線状の工業材料)”です。堀江さんのお家は、何アンペア(A)くらいの電流を契約されていますか?

堀江 すみません。僕、ホテル住まいなので……(笑)。

柳澤 ああ(笑)。普通は30Aから60A くらいの電流が送られてきているんですが、高温超電導の線材を使うと電気抵抗のロスがなくなり、液体ヘリウム(−269℃)で冷やしてあげると約1000Aくらいの電流を流すことができます。ちょっと実験をしてみましょう。ここに−196℃の液体窒素があって、その中に高温超電導の線材が入っています。今から電流を流すので、どれくらいの電圧が発生するか見ていてください。電圧は、電流✖️電気抵抗ですから、電気抵抗がゼロであれば電圧は発生しないはずです。

堀江 はい。

柳澤 今、電流が流れ始めました。7A、8Aと上げていきます。

堀江 30A、40A……。

柳澤 もう80Aになりました。これはものすごい大電流です。私が住んでいる家の2倍くらいの電流が、電気抵抗ゼロのまま流れています。

堀江 どこまでも上がりますね。120A、130A……あ、今、ちょっと電圧が出てきましたね。

柳澤 140Aくらいになると、ごくわずかですが電圧が出てきます。それでも、この目盛りの単位はマイクロボルト(μV)なので、100万分の1ボルトくらいしか電圧は発生していません。つまり、非常にわずかな電気抵抗しか出ていない状態です。

堀江 すごいな。

柳澤 液体窒素でも、これだけの大電流が流せるので、液体ヘリウムを使うとこの10倍くらい、1000Aまでは電気抵抗ゼロで流すことができます。

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その2へ続く

柳澤吉紀

国立研究開発法人理化学研究所生命機能科学研究センター・機能性超高磁場マグネット技術研究ユニット・ユニットリーダー

山崎俊夫

国立研究開発法人理化学研究所生命機能科学研究センター・構造NMR技術研究ユニット・ユニットリーダー