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「仮想の物体を触ることができる」 【博士・玉城絵美が開発した 新「ポゼストハンド」とは?その1】

堀江貴文氏は8月31日、博士の玉城絵美氏を取材。「ポゼストハンド」などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年8月31日)

コンピュータが手の動きを制御し、初心者でも簡単に楽器の演奏ができる

堀江貴文(以下、堀江) これが、玉城さんが開発した『Possessed Hand(ポゼストハンド)ですか?

玉城絵美(以下、玉城) はい。コンピュータによって手指の動きを制御する装置です。

(編集部注:腕につけられた電極が筋肉を刺激することで手指が動く。この電極はコンピュータにつながっており、コンピュータを操作することで手指の動きを自在に操ることができる)

堀江 へー。

玉城 168パターンくらいキャリブレーション(パラメーターを調整)すると、自分が動かそうとしなくてもコンピュータからの指示で、手指の16関節が自在に動くようになります。手にある関節は、手首を含めないと18関節なので、これでほとんどの動きが制御できます。

堀江 なぜこれを作ろうと思ったんですか?

玉城 実は私、ひきこもりでして……(笑)。それで、私の代わりにロボットに外に出て行って働いてもらおうと“ロボット制御の研究”をしていたんです。でも、今はロボットの数が少ないので、それなら、外にいる別の“人”に私の代わりに働いてもらえないかと。

堀江 ははははは。でも、これでピアノの演奏とかできそうですよね。

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玉城 そうですね。私自身、これをつけて箏の演奏はやったことがありますけど……。

堀江 箏はどうでした?

玉城 ミスが減って、うまくなります。

堀江 どういうことですか?

玉城 コンピュータに楽譜を入れると、演奏のタイミングと指の動きを教えてくれるのです。意識しなくても勝手に指が動いて弾ける。

堀江 なるほどね。

玉城 簡単な曲だったら初心者でもだいたい弾けるという感じです。

堀江 じゃあ、ギターとかもできそうですよね。

玉城 ギターは左手のコードを押さえる動きがあって、そのためには肩も動かさないといけないんですけど、それは危険だということでやめました。

堀江 危険というのは?

玉城 予備実験のための予備実験というのをやるんですけど、後輩の肩に装置をつけていろいろなパターンを試したら、腕が意図しない動きをして、近くにあったディスプレイに当たったんです。それで、これはまずいかなと思って「実験を中止しようか」って聞いたら、その後輩は「ははははは、大丈夫ですよ」と言うので、そのまま続けたんです。そうしたら、今度は自分の顔を殴り始めて……。

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堀江 そんなに動くんですか?

玉城 ええ。

堀江 でも、たしかに腕は可動域が広いもんなあ。

玉城 そうなんですよ。それであきらめちゃったんです。

堀江 じゃあ、やろうと思えば脚も動かせたりするんですか?

玉城 脚は難しいです。

堀江 なんで難しいんですか?

玉城 結構、コアマッスルを使っているので。MIT(マサチューセッツ工科大学)のほうでも同じような研究をしているんですが、彼らは針を直接脚に刺して、コアマッスルに電気刺激を与えているんです。

堀江 えーっ!?

玉城 針を刺したまま歩く実験をしているんですが、そうした実験は日本ではちょっとできないので。それに、もし刺激が心臓のほうに行っちゃったら……。

堀江 心臓が止まっちゃう可能性もある。

玉城 なきにしもあらず、です。

その2に続く

玉城絵美(Emi Tamaki)

『H2L』株式会社チーフリサーチャー、工学博士、早稲田大学人間科学学術院助教(当時)。1984年生まれ。沖縄県出身。2006年、琉球大学卒業後、筑波大学、米国ディズニー研究所を経て、2011年に東京大学大学院博士課程終了。同年、東京大学総長賞を受賞。ポゼストハンドが米『TIME』誌の「世界の発明50」に選ばれる。2012年、岩崎健一郎氏とともにベンチャー起業『H2L』を設立。2015年日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」準大賞受賞。

岩崎健一郎(Kenichiro Iwasaki)

『H2L』株式会社代表取締役(当時)。1984年生まれ。東京都出身。2008年、東京大学卒業。2010年、東京大学大学院にて修士号取得。2011年、理化学研究所テクニカルスタッフ。2012年、ベンチャー起業『H2L』を設立。代表取締役就任。