堀江貴文氏は9月14日、東京大学生産技術研究所の竹内昌治氏を取材。「細胞でのモノ作り」などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年9月14日)
培養肉の食感は「悪くない」。問題はどちらを食べたいか
竹内昌治(以下、竹内) 堀江さんは『JST』って、ご存知ですか?
堀江貴文(以下、堀江) JST?
竹内 『科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency)』といって、科学技術の研究開発を支援してくれる国の機関です。JSTではあるテーマを決めて、そのテーマを研究しているさまざまな分野の人たちに予算を配分しています。その中でも大型プロジェクトとして『ERATO(Exploratory Research for Advanced Technology/創造科学技術推進事業)プロジェクト』というのがあります。私がプロジェクトリーダーを務めている「竹内バイオ融合プロジェクト」もその一つです。
堀江 その“バイオ融合プロジェクト”というのは、どんなことをやっているんですか?
竹内 “細胞で3次元の組織や構造体を作る”ことを目指しています。3次元の組織というと「再生医療」や「創薬」の研究だと思われがちですが、例えば筋肉の3次元組織を作れば人工的に培養された食用の“培養肉”ができるし、犬の鼻の細胞のような嗅覚センサをもつ細胞で3次元組織を作れば“匂いに対して超高感度なセンサー”ができたりする。それから、今、ヒューマノイドはどんどん人間に近づいていますが、ヒューマノイドの皮膚を、僕らは“ヒトの皮膚そのもの”で作っています。近くで見ても人間なのかロボットなのか区別できなくなるような世界が来るかもしれません。そのように細胞でいろいろな3次元の組織や構造体を作ろうというプロジェクトです。
堀江 培養肉って、どこかで作っていましたよね?
竹内 オランダです。2013年にオランダのマーストリヒト大学のマルク・ポスト教授が作りました。
堀江 培養肉、食べました?
竹内 いや、僕はまだ食べてないんですよ。でも、今年(2015年)の秋にオランダで“培養食肉の国際会議”が開催される予定なので、その時に食べられるんじゃないかなと思ってます(笑)。
堀江 培養肉の味って、どうなんですか?
竹内 食感は悪くはないみたいです。ただ、美味しさって脂肪の占める割合が大きいんですよね。だから今は、脂肪も作らなきゃいけないということになっています。
堀江 脂肪は作ってないんですか?
竹内 彼らはね。でも、僕らは脂肪を作れる。それで、今度一緒にやりたいなと思っています。
堀江 生産性でいうと、培養肉のほうがいいんですか?
竹内 それは“どっちを食べたいか”によりますね。今、培養肉は100gで3800万円かかりますから。
堀江 ははは(苦笑)
竹内 でも、もし4万人が培養肉を食べるようになると1kgで600円くらいになる。だから、皆さんが“どっちを食べたいか”なんです。今、日本で「培養した肉を食べたいですか?」って聞くと、半分くらいの人が「食べてもいい」という意見です。これがヨーロッパだと8、9割の人が「食べたい」と言うんですよ。
堀江 牛肉って、環境負荷が大きいじゃないですか。
竹内 そうですね。
堀江 牛肉を生産するために、ものすごく穀物を消費する。そうなると、今後は培養肉のほうがいいということにならないんですかね。
竹内 そうなるといいですね。それに動物を殺さないで済むという倫理的なこともありますね。
その2に続く竹内昌治(Shoji Takeuchi)
工学博士/東京大学生産技術研究所教授/ERATO竹内バイオ融合プロジェクト研究総括(当時)。1972年生まれ。東京都出身。1995年、東京大学工学部卒業。2000年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。ハーバード大学客員研究員などを経て、2008年、東京大学生産技術研究所バイオナノ融合プロセス連携センター・センター長に。2014年、東京大学生産技術研究所教授。