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「ナノカプセルが体中をめぐり、 知らない間に診断と治療をする」 【東大・片岡一則教授が語る “ナノ医療”の現状と未来 その1】

堀江貴文氏は10月5日、東京大学の片岡一則氏を取材。「ナノ医療」の現状と未来などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年10月5日)

ナノカプセルは、がん細胞だけを狙って薬を放出する

堀江貴文(以下、堀江) 片岡先生は“ナノマシン”の研究をされているんですよね。

片岡一則(以下、片岡) いや、“ナノマシン”というのは将来的なもので、今は“ドラッグデリバリーシステム(DDS)”です。DDSはナノカプセル(高分子ミセル)の中に薬を入れて、体の中の疾患部位にその薬を届けるというもの。カプセルの大きさはウイルスと同じくらい(直径数十nm程度/1nm=10億分の1m)で、その表面にちょっと仕掛けがしてありましてね……。堀江さんはステルス爆撃機ってご存知ですよね?

堀江 はい。

片岡 レーダーに見つからない飛行機。

堀江 そうですね。

片岡 私たちの体はよくできていて、ウイルスのような異物が体の中に入ると警官みたいな細胞が「こいつは危ないやつだ」と判断して捕まえて食べちゃうんです。

堀江 マクロファージとかですね。

片岡 そうそう。よくご存知ですね。それで、そういった細胞にナノカプセルが捕まらないように表面を親水性ポリマーなどでコーティングする。すると血中で長い時間、“警官”に見つからずに動き回ることができるんです。

堀江 はい。

片岡 正常な血管に比べて、がん組織の血管には大きな隙間があります。すると正常な血管からナノカプセルは出られないけれども、がん組織の血管の隙間からは出ることができる。そして、がん組織にナノカプセルが集まっていって、カプセルの中から薬が出てがんをやっつける。これがDDSの基本です。

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堀江 なるほど。

片岡 では、なぜ、がん細胞の場所でナノカプセルから薬が出るかというと、がん組織はpH(ペーハー/水素イオン指数)が下がっているためです。

堀江 なんで下がっているんですか?

片岡 がん細胞は代謝が盛んなので、酸素が少ない。すると乳酸がどんどんできる。乳酸ができるからpHが下がるんです。

堀江 だいたい、どれくらいのpHになるんですか?

片岡 我々の体はふつう7.4くらいですが、がんのところは6.5〜7くらいです。

堀江 あ、でも、若干なんですね。

片岡 いや、pHって、1pH違うと濃度は10倍違うんですよ。

堀江 そうなんですか。

片岡 そして、pHの低いがん細胞の核に近いところまで入った時にカプセルが壊れて薬が出るような仕組みになっている。だからナノスケールの“トロイの木馬”と言っているんです。

堀江 なるほど。

その2に続く

片岡一則(Kazunori Kataoka)

工学博士。東京大学大学院 工学系研究科・医学系研究科教授(当時)。1950年生まれ。東京都出身。1974年、東京大学工学部卒業。1979年、東京大学工学部博士課程終了。東京女子医科大学助教授、東京理科大学教授などを経て、現職に。2011年にドイツで最も栄誉ある賞といわれる『フンボルト賞』を受賞。2012年には江崎玲於奈賞を受賞。