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酒業界に大革命!?【森林総合研究所が作る「世界初“樹のお酒”の正体」 その1】

堀江貴文氏は、『森林総合研究所』のチーム長・野尻昌信氏と、同研究所の研究員・大塚祐一郎氏を取材。世界初の“樹木”から作られるお酒について話を聞いた。

世界初の“樹のお酒” とは?

堀江貴文(以下、堀江) ここで“木のお酒”を作っているんですよね。

野尻昌信(以下、野尻) はい。まず、木のお酒がどんなものかを説明したいと思います。

大塚祐一郎(以下、大塚) 原料はこれです。木材。

堀江 普通の木材なんだ(笑)。

大塚 これまでのお酒は、米や麦などの穀物のデンプンをブドウ糖に分解して発酵させた“穀物酒”、または果実の果汁に含まれる糖分を酵母で発酵させた“果実酒”が一般的でした。しかし、我々は「木材を直接発酵させて作る」という方法で、これまでとはまったく違った新しいお酒を開発しています。

堀江 具体的には?

大塚 木の中には紙の原料となるセルロースという繊維が半分くらい入っているんです。このセルロースはブドウ糖が直鎖状につながった繊維で、理論的にはセルロースを取り出してブドウ糖に分解し、酵母に食べさせればアルコール発酵ができます。

堀江 そうですね。

大塚 でも、木は非常に硬い。なぜかというと、セルロースが細胞壁の中にガチガチに埋め込まれているからです。その細胞壁の薄さは、1000分の2㎜から1000分の4㎜。そこで我々は、ビーズミルという装置を応用して1000分の1㎜以下に粉砕できる「湿式ミリング処理」という技術を開発しました。この粉砕作業は水の中で行ないます。湿式ミリング処理で加工すると木材はゲル状になります。

堀江 へー。

大塚 香りを嗅いでみてください(堀江さん、ゲル状になった木材を嗅ぐ)。これはクロモジです。クロモジはすごく爽やかな香りがします。

堀江 本当だ! すごくいい香りですね。さすがクロモジ。

大塚 細胞壁の厚さが砕かれ、埋め込まれていたセルロースが表に露出しているので、ここまでくれば簡単です。セルロースをブドウ糖に分解する酵素が売られているのでそれを入れます。これは野菜ジュースなど果物の粘性を下げるときに使うものです。次に日本醸造協会で買ってきた酵母を入れます。

堀江 どんな酵母を入れているんですか?

野尻 今はワイン用の酵母を入れています。でも、清酒用酵母でも大丈夫です。

大塚 まず酵素が露出したセルロースをブドウ糖に分解します。そこに酵母を入れると、ブドウ糖が発酵によってアルコールに変わります。そして粘度が下がって“どぶろく”ができます。

堀江 あー、なんとなくわかります。

大塚 このどぶろくを搾って瓶につめたものが色のついている醸造酒に相当するものです。そして、これを蒸留したものが焼酎のような木の蒸留酒です。

堀江 蒸留酒まで作っちゃったんですか。すごいなー。

野尻 蒸留酒にしないとアルコール濃度が低いんですよ。

堀江 アルコール濃度は何度くらいなんですか?

野尻 醸造酒だと1、2度です。

堀江 1、2度? なんでですか?

大塚 ビーズミルで粉砕するときに水を混ぜるんですが、このとき木粉10%に対して水90%の割合になります。

堀江 水が多いんだ。

大塚 それくらいセルロースが水を吸ってしまうんです。最初に言ったように木の約半分がセルロースなので、木粉が10%ということはセルロースは5%。

堀江 なるほど。

大塚 5%のセルロースが全部ブドウ糖に分解されて酵母で発酵したとしても、酵母は必ず半分は自分のエネルギーとして使います。ですので、最終的にアルコールになるのは5%の半分の2.5%です。スギの場合はまだ効率よく変換できるのですが、白樺などの広葉樹は硬いので2%以下になってしまいます。

堀江 そうなんですね。

大塚 ですから我々は、蒸留してアルコール度数を30〜40%に高めた蒸留酒のほうが先に商品化できるのではないかと思っています。こちらの蒸留酒は非常に香りがいいんですよ。

堀江 (蒸留酒を手に取って)これ、飲んでもいいんですか?

野尻 申し訳ありませんが、飲まないで香りだけ嗅いでください。我々は酒税法上、試験醸造に限る免許で作っているので、“振る舞い酒”ができないんですよ。

堀江 そうなんですね。

大塚 それはスギです。

堀江 すごい!

大塚 白樺はちょっと甘いリキュールのような雰囲気が出ています。こっちはミズナラ。樽熟成なしで、できたてからもうこの香りです。

堀江 うわぁ、すごいなあ。

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その2へ続く

野尻昌信 Masanobu Nojiri

森永乳業株式会社栄養科学研究所研究員などを経て、1993年森林総合研究所に入所。現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林資源化学研究領域チーム長を務める。

大塚祐一郎 Yuichiro Otsuka

独立行政法人森林総合研究所バイオマス化学研究領域研究員などを経て、現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員を務める。