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酒業界に大革命!?【森林総合研究所が作る「世界初“樹のお酒”の正体」 その2】

堀江貴文氏は、『森林総合研究所』のチーム長・野尻昌信氏と、同研究所の研究員・大塚祐一郎氏を取材。世界初の“樹木”から作られるお酒について話を聞いた。

“樹のお酒” が作られた理由とは?

堀江 そもそも、なんで木のお酒を作ろうと思ったんですか?

大塚 私はもともと「どうすれば木を微生物に食べさせられるか」という研究をしていました。

野尻 彼は「リグニン(木質素とも呼ばれる高分子物質。細胞壁に堆積して木質化を起こす)」の研究をしたかったんです。リグニンを研究するには木材の中のセルロースが邪魔になる。でも、化学処理をしてセルロースを取り除くとリグニンが変性してしまうので、生物処理によってセルロースを取り除きたかったというのが最初の発想です。

堀江 すみません、僕はセルロースについてそんなに詳しくないので……。

大塚 はい。簡単に説明しますと、木というのは、生きている部分は樹皮のひとつ内側の「形成層」という細胞だけなんです。そして、今生きている細胞は、その年の終わりに新しい細胞を作り、死んで抜け殻になります。細胞の中身は分解されて無くなりますが、外側の細胞壁だけが残ります。そして、その空っぽのところを水が通っていく。

堀江 ホースみたいなものですか?

野尻 そうです。道管です。

堀江 でも、抜け殻なのにどうやって水を吸い上げるんですか?

大塚 上から蒸発する力と下から浸透圧で上がっていく力が連動して水を吸い上げます。うまく連動すると100メートル以上吸い上げることもあるんですよ。

堀江 へー。

大塚 ですから、木の大部分は細胞壁の塊なんです。そして、その細胞壁が何でできているかというと「セルロース」「ヘミセルロース」「リグニン」です。

堀江 セルロースとヘミセルロースは何が違うんですか?

大塚 「ヘミ」とは「のようなもの」という意味です。ですから、ヘミセルロースは「セルロースのようなもの」です。セルロースは単にブドウ糖が直鎖状につながったものですが、ヘミセルロースはブドウ糖だけではなく、キシロースやアラビノースなどの糖も混ざっている。リグニンはポリフェノール(抗酸化物質)です。

堀江 はい。

大塚 まず、セルロースとヘミセルロースが細胞壁の骨格を作ります。そして、リグニンがその骨格を塗り固めます。よく鉄筋コンクリートの建物に例えられるんですが、セルロースが「鉄筋」、ヘミセルロースがその「鉄筋を束ねる針金」、リグニンが「コンクリート」です。

大塚  木材を紙にするためには、非常に強い酸やアルカリでグツグツ煮て、リグニンを壊して中のセルロースを取り出すんですが、飲食物に毒物劇物を使った処理はできません。しかし、我々が開発したセルロースを取り出す技術は、薬剤や熱処理を何も使わない。木材を細かく砕いて微生物に食べさせるというものだったので、そこで初めてお酒という発想が生まれました。

堀江 なるほど。素晴らしい。

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その3へ続く

野尻昌信 Masanobu Nojiri

森永乳業株式会社栄養科学研究所研究員などを経て、1993年森林総合研究所に入所。現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林資源化学研究領域チーム長を務める。

大塚祐一郎 Yuichiro Otsuka

独立行政法人森林総合研究所バイオマス化学研究領域研究員などを経て、現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員を務める。