堀江貴文氏が新潟県燕市を訪れ、株式会社ATRヤマト代表取締役の吉田宗玄氏に話を聞いた。同社は低コストでシンプルなLSA(軽量スポーツ航空機)の開発製造を推進する。単発固定翼航空機の操縦免許を取得している堀江氏とLSA開発に情熱を傾ける吉田氏からの、日本の航空産業界への提言とは。
「ひとり乗りフットランチド」の開発を睨む
吉田 “できるだけシンプルなものを造ろう”ということで、過剰な快適性は求めていません。オートバイみたいな感じですね。それに、最近はオーナーパイロットさんがメンテナンスをすることが多いんです。すると“整備が簡単”ということが非常に重要で、壊れた部分もすぐにわかった方がいい。ということは、できるだけ部品点数が少なくてシンプルなものということになります。
堀江 今、2機目を造るにあたって、他にどんなことを考えているんですか?
吉田 今は3つの方向性を考えています。ひとつは“機体をブラッシュアップする”こと。ふたつ目は“もう一度マーケットの分析をする”ということ。というのも4人乗りが可能になることを考えた場合、2人乗りのままでいいのか、それとも4人乗りに変更するのかを今度の『オシュコシュ』を見て判断しようかなと思っているからです。
堀江 それで4人乗りが主流になるようだったら、設計変更して少し大型化するわけですか?
吉田 はい。大きさだけの問題なので、たぶん構造体としてはできると思います。みっつ目は、国土交通省が日本でLSAの飛行を一般にも認めないと、日本国内で販売することが難しい。そこで、オプションとして考えているのが……。
堀江 ひとり乗りドローンですか?
吉田 いえ。ドローンじゃなくて、フットランチドです。
堀江 はいはいはい。
吉田 これだと人間の脚で離着陸するので、航空機ではなくなります。すると国交省は関係なくなる。実際はフットランチドよりももっと手軽に乗れるものを考えています。LSAでもショートランディングという機体があるんですが、一番短いものだと20m走れば浮きます。これをひとり乗り用にすることができるんじゃないかなと思っています。
LSA(小型スポーツ飛行機)のマーケティングを考える
堀江 その2機目の開発費ですけど、僕はクラウドファンディング(インターネットなどを使って不特定多数の人から少額の融資を調達すること)とか、ふるさと納税とかもめちゃめちゃ利用できると思うんですよ。例えば、LSAが一機1,200万円なら、富裕層の人たちは普通にふるさと納税しますよ。燕市とうまく連携すればいいんです。それにクラウドファンディングは基本的に前受金だから、開発費にも使えますし。
吉田 なるほど。LSAに関しては、世界中で日本だけが遅れているような状態なんです。中国製のLSAだってあるんです。
堀江 LSAは飛行艇とかにはできないんですか? 瀬戸内海とかだと需要がありますよ。他にも北海道のニセコには飛行場がないんですよ。だから、冬のシーズンに行こうと思ったら、例えば、洞爺湖とかに飛行艇で降りられるとかなり便利になります。
吉田 飛行艇対応のLSAは結構ありますよ。
堀江 そうですよね。だから、僕は飛行機を造る会社はもっと出てきてほしいと思っているんです。小型機でいいので。いきなりMRJ(三菱スペースジェット)みたいな90人乗りの飛行機を造ろうとするから、うまくいかないんです。
吉田 MRJの開発は中止になりましたけど、経産省では反省も踏まえて再考しているみたいですね。
日本の航空産業の裾野を広げるトライ
堀江 日本は戦前、航空機大国だったし、航空系の技術的な蓄積やサプライチェーンはあるんだけど、なんでうまくいかないかというと、最初にもいいましたが航空産業の裾野が広くないからだと思うんですよ。だから、まず裾野を広くしなくちゃいけない。そして、いきなり「大型旅客機を造ります」っていってもうまくいかないわけですから、まずは小型機を造る小さなメーカーをたくさん育てて、人材を育成して、裾野を広げてから大きな飛行機を造りましょうと進めるべきなんです。『Hondajet(ホンダジェット)』がなぜアメリカで造っているかというと、アメリカは裾野が広いからですよ。あれは、すごくいい選択だったと思います。
吉田 そうですね。
堀江 そして、僕は吉田さんがLSAを造ろうとしているのもいい選択だと思いますよ。だって空飛ぶドローンや空飛ぶ車より、LSAの方が絶対に裾野が広いと思いますから。
吉田 ありがとうございます。
堀江 じゃあ、『オシュコシュ』から帰ってきたら、どんな状況だったか教えてください。本日はありがとうございました。
吉田 こちらこそ、ありがとうございました。
Text:村上隆保 Photo: K,Tamura
吉田宗玄(Muneharu Yoshida)株式会社ATRヤマト 代表取締役/工業デザイナー
1969年1月9日生まれ。奈良県出身。
大阪芸術大学卒業後、日本マランツ・フィリップスコーポレイトデザイン東京、クリナップ株式会社などを経て、2007年に工業製品の企画・開発・デザイン主体のメーカー 株式会社ATRヤマトを新潟県・燕市に設立。現在、小型飛行機の研究開発を進めている。