堀江貴文氏が新潟県燕市を訪れ、株式会社ATRヤマト代表の吉田宗玄氏に話を聞いた。同社は低コストでシンプルなLSA(軽量スポーツ航空機)の開発製造を推進する。吉田氏がLSA(軽量スポーツ航空機)開発においてシンプルさを追求する理由とは。
LSA(軽量スポーツ航空機)の驚きの飛行距離
堀江 セスナの170とかは、どうやって持ってきているんですか?
吉田 飛んで持っていくのが半分。あとはバラして船で持っていきます。
堀江 マジですか。セスナ170って、そんな航続距離ありましたっけ?
吉田 途中で何回も給油するんですよ。アメリカだと生産された航空機を発注元に届けるフェリーパイロットという人もいるくらいですから。
堀江 そうか。ハワイでチャーター機を30機くらい持っている会社の人に「どうやって飛行機を持ってきたんですか?」って聞いたら、「アリューシャン列島からサハリンを経由して、沖縄、台湾、フィリピン、フィジーを通って持ってきたんだよ」っていってましたよ。
吉田 実は、2022年にベルギー人のマック・ラザフォード君という17歳の少年がLSAで世界一周したんですよ。だから、LSAで世界一周しようと思えばできるんです。そのマック君は韓国から佐渡の上空を通って、千歳空港まで行ったそうです。
堀江 韓国から直接千歳に行けるんですか?
吉田 日本政府が日本の国土の上空をLSAが飛ぶのを許さなかったみたいです。ただ、千歳の着陸は認めるということだったらしいです。
堀江 LSAって、そんなに飛ぶんだ。
吉田 はい。でも、一番長かったのは釧路から飛び立ってアリューシャン列島のアラスカの付け根あたりまで飛んだときです。1,500kmくらいあると思います。確か12時間くらい飛んでいたはずです。
堀江 それ、不時着する可能性もありましたよね。
吉田 そうなんです。一度、不時着したらしいんですよ。アリューシャン列島を飛んでいるときに、あまりにも向かい風が強くて、無人島に滑走路があるのを見つけてそこに降りたらしいんです。その判断がすごいですよね。
堀江 風待ちしたんですね。
吉田 はい。LSAは結構、すごいんです。
「空を飛びたい」だけなら機能はシンプルでいい
吉田 ただ、私はLSAを造るときに「コストを抑えることを優先しよう」「できるだけシンプルなものを造ろう」というふうに考えました。というのも2006年の『オシュコシュ』で、全米から集まってくるオーナー・パイロットたちにアンケートをやってもらって、その結果をみたら“LSAは思っていたよりも価格が高い”という意見が多かったんです。
堀江 「もっと安いのが欲しい」と。
吉田 そうです。ウルトラライトからLSAに乗り換える人がやはり多いんですけど、ウルトラライトはキットだと100万円くらいから買えるんです。
堀江 キットを買って、自分で組み立てるっていうことですね。
吉田 そうです。ただ、エンジンや計器類は別売りです。だから、エンジンをどこかで買ってこなければいけません。それでもエンジンを含めて500万円くらい出せば立派なものが手に入れられます。
堀江 ちょっと高い自動車と同じくらいの値段ですね。
吉田 はい。そして、そのアンケートの中でもうひとつ印象に残ったのは「あなたはなぜ、その飛行機に乗っているんですか?」という質問に、99%の人が「空を飛びたいから」と答えていました。日本人に「なんでアメリカ人は自家用飛行機を持っているのか?」って聞いたら「アメリカは広いから買い物とかに行くのに飛行機の方が便利だからでしょ」と答える人が多いと思いますが、アメリカ人の感覚は“ただ空を飛びたいから”なんです。だから、空を飛びたいだけならシンプルなものでもいいだろうと思って“コストを抑えることを優先しよう”“できるだけシンプルなものを造ろう”と考えました。
ATRヤマトの低コスト化への挑戦
堀江 吉田さんが造るLSAの価格は、いくらくらいを想定しているんですか?
吉田 8万ドルくらいです(約1,200万円)。
堀江 エンジンは、いくらくらいですか?
吉田 エンジンはその内の130万円くらいですね。
堀江 『Garmin(ガーミン)』のG1000(スイスのガーミン社が開発した航空機用のコックピットシステム)って、いくらくらいするんですか?
吉田 コックピットシステム全部だと、今は250万円~500万円くらいじゃないでしょうか。『Garmin』のシンプルなナビゲーションシステムでも50万円くらいします。でも、LSAは『Garmin』みたいな高級品を使わなくてもいいんです。もうちょっと安いやつがいろんなところから出ていますから。
堀江 そうなんですか?
吉田 はい。私が少し前にLSAに乗せてもらったときは、『Garmin』じゃないナビゲーションシステムでしたけど、機体のスペックを入力しておけば“降りられる空港”と“降りられない空港”がきちんと色分けして表示されていました。それが15万円くらいだったので、「これで全然問題ないじゃん」と思いました。それにLSAは基本的に有視界飛行なので、極論をいえばスマホやタブレットでもいいくらいなんですよ。
堀江 そうですよね。『Hondajet(ホンダジェット)』もタブレットですから。タブレットというか、タッチパネル式のコントロールパネルです。だから、計器類のスイッチが相当減ってますよ。
吉田 確かにスッキリしていますよね。ですから「できるだけシンプルなものを造ろう」ということで、過剰な快適性は求めていません。
Text:村上隆保 Photo: K,Tamura
吉田宗玄(Muneharu Yoshida)株式会社ATRヤマト 代表取締役/工業デザイナー
1969年1月9日生まれ。奈良県出身。
大阪芸術大学卒業後、日本マランツ・フィリップスコーポレイトデザイン東京、クリナップ株式会社などを経て、2007年に工業製品の企画・開発・デザイン主体のメーカー 株式会社ATRヤマトを新潟県・燕市に設立。現在、小型飛行機の研究開発を進めている。