1.はじめに――“共創型AIアイドル”が次のフェーズへ
2025年10月、ZEROICHIでは「AIとファンが共にアイドルを創る ― KLabが仕掛ける“共創型エンタメ”の新次元『ゆめかいろプロダクション』」として、KLab株式会社のAIアイドルプロジェクトをいち早く取り上げた。『ゆめかいろプロダクション』は、生成AI技術とファン参加型の仕組みを組み合わせ、「みんながプロデューサー(#みんプロ)」構想を掲げる日本初の試みであると位置づけられていた。(🔗ZEROICHI)
それから約1か月。KLabは「マルチディメンション構想」と「AI VTuber展開」という二つのリリースを立て続けに発表した。ひとつは、5人のAIアイドルを“ハイパーリアル”と“2D”という複数のビジュアルで展開していく構想であり、もうひとつは「完全AI VTuber」と4人の配信者を組み合わせたVTuberプロジェクトとしての本格始動である。
本稿では、これら一連の発表内容を整理しつつ、ZEROICHI編集部としての注目点と取り上げ理由を加えながら、「AIアイドル」と「人間の配信者」がどのような関係性で結び付けられようとしているのかを考察する。なお、本記事はKLabが公表したプレスリリース情報に基づくものであり、独自取材は行っていない。
2.『ゆめかいろプロダクション』とは何か――おさらい
『ゆめかいろプロダクション』は、KLabが推進する「KLab AI Entertainment構想」の一環として位置づけられたAIアイドルプロジェクトである。AIによるキャラクター創造・音楽制作・ストーリー構築と、ファンによる参加・共創を組み合わせ、IP創出のプロセスそのものをエンターテインメントとして提示することが狙いとされている。
第1期生として発表されたのは、
ゆめみなな/水墨まほろ/花咲みもざ/小熊こまめ/月窓ろみ
という5名のAIアイドルである。初期段階では、生成AIによる“ハイパーリアル”ビジュアルを持つアイドルとして紹介され、公式Xのフォロワーは1万人を超えるなど、ローンチ直後から一定の反響を得ていると発表されている。
ZEROICHIが先行記事で整理した通り、このプロジェクトの特徴は主に三つある。
- ファン参加を前提とした「みんながプロデューサー(#みんプロ)」構造
- AIタレントをプロダクション単位で制度化しようとする試み
- AIの学習・変化を「DNA」として記録し、共創の履歴を文化資産化しようとする視点
今回の新リリースは、こうした構想を“立体的に動かすための実装フェーズ”と位置づけることができる。
3.マルチディメンション構想――ハイパーリアルと2Dが並立するアイドル像
2025年11月14日のリリースでは、『ゆめかいろプロダクション』の新展開として「マルチディメンション構想」が発表された。
ここで示されたのは、5人のAIアイドルを以下のような複数レイヤーで展開していく方針である。
- 現実の人間に近い“ハイパーリアル”なビジュアル
- アニメライクで親しみやすい“2D”ビジュアル
- それぞれの世界観に応じた、多様なコンテンツ展開
ハイパーリアルでは「現実感のある存在」として、ライブ映像やビジュアル表現にフォーカスし、2Dではより自由度の高い表現・配信コンテンツなどに軸足を置くという棲み分けが示されている。
さらに、このマルチディメンション構想と連動する形で、「みんプロ第2弾 みんなで作ろう2D AIアイドル」キャンペーンも告知された。ファンがX上で「#ゆめみなな2D」等のハッシュタグを付けて投稿したコメントやシチュエーションをAIが学習し、その内容を反映した2Dビジュアルのイメージが公式アカウントからリプライとして返ってくる、という仕組みである。
このキャンペーンにより、ハイパーリアルなビジュアルでスタートしたアイドルたちが、2Dビジュアルという新たな“次元”を得て、ファンの投稿がキャラクターの個性や物語形成に直接反映されていく構図が明確になったと言える。
4.AI VTuberへの展開――完全AIの「ゆめみなな」と4人の配信者
続く11月17日のリリースでは、5人のAIアイドルがAI VTuberとして活動していくことが発表された。
ここで特筆すべきポイントは二つある。
4-1.センター「ゆめみなな」は“完全AI VTuber”
まずセンターをつとめる「ゆめみなな」は、AIによって音声・表情・発話が生成される“AI VTuber”として定義されている。人間の配信者がライブで演じるのではなく、あらかじめ収録したボイスデータをAIが取り込み、その声で自律的に話す存在として設計されている。
ボイスオーディションの募集要項では、合格者は一度ボイス収録を行うだけで、その後の稼働は発生しないと明記されている。収録音声をもとにAIが発話を生成するため、日々の配信やコンテンツ生成はAI側が担う構造となる。
ここでは、
- 声という“人格の一部”をAIに委ねる行為
- 収録後の継続的稼働が不要である契約設計
といった、AI時代特有のタレントマネジメント構造が見て取れる。
4-2.4人のメンバーは「AIが創った2Dキャラ」をまとうVTuber
一方、残りの4人(水墨まほろ/花咲みもざ/小熊こまめ/月窓ろみ)は、AIが生成した2Dビジュアルを“外観”としてまとうVTuberとして活動する。実際の配信は人間の配信者が行い、キャラクターの中身と外見が異なる“ハイブリッド構造”を取る形である。
この4名については、「ゆめかいろ1期生オーディション」として配信者を募集する。募集条件には、配信経験や歌唱・トークスキルなどを活かしたい人、VTuber・声優・アイドルとしての活動経験がある人が歓迎されている。
4-3.オーディション条件と範囲
両オーディションとも、2025年11月17日〜12月5日が募集期間とされている。応募条件としては、
- 「ゆめみなな」ボイスオーディション:声に自信があり、プロジェクトの想いに共感する18歳以上の女性で日本在住の方
- 「ゆめかいろ1期生」オーディション:叶えたい夢や目標を持ち、プロジェクトの想いに共感する18歳以上の女性で日本在住の方
などが明示されている。
本記事では、これらの条件設定を事実として紹介するに留め、個別の適否や評価については論じない。ただし、AIタレントと人間タレントの役割が分かれ、声や身体性の扱いが再設計されつつあることは、今後の議論の対象となるだろう。
公式サイト:http://yumekairo.ai-ent.klab.com/
公式X:https://x.com/yumekairo_ent
5.ZEROICHI編集部が注目する3つのポイント
今回の「マルチディメンション構想」および「AI VTuber展開」が、単なる新企画やキャンペーンにとどまらないと編集部が考える理由は大きく三つある。
5-1.AIタレントの「身体性」が再構成されている点
センターである「ゆめみなな」は、
- ビジュアル:AIが生成した“ハイパーリアル”および2D
- 声:一度収録した人間の声をAIが利用
- 表情・発話:AIがリアルタイムに生成
という三層構造を持つことになる。
これは、従来のVTuberモデル――すなわち「人間の配信者+2D/3Dアバター」という構造とは異なる、“AI中心のタレント像”であると言える。人間は完全な“中の人”ではなく、声という一要素を提供し、その後はAIが表現の主体となる。
AIと人間の関係が「代理」と「代役」ではなく、「素材提供」と「生成」の関係に変化している点は、タレントの権利設計や契約設計にも影響を与え得る重要な変化である。
5-2.人間配信者とAIキャラクターの「役割分担」が明確になった点
一方で、4人のメンバーは、人間の配信者がキャラクターとして活動する“クラシックなVTuber構造”を引き継いでいる。AIはビジュアル生成や世界観設計に強く関与するが、ライブ配信やファンとのリアルタイムな掛け合いは人間が担う。
このとき浮かび上がるのは、
- 「完全AIタレント」と「人間が担うタレント」の共存
- ファン側から見た“没入感”や“応援の対象”の違い
- 労働としての配信と、AIによる自動生成コンテンツの境界
といった論点である。
KLabは「AI VTuberとVTuberの共演によるハイブリッドエンターテインメント」を掲げているが、その背後では“AIがどこまでタレントの役割を担い、人間はどこからどこまでを担うのか”という線引きの実験が静かに進んでいるように見える。
5-3.共創型エンタメの「運用フェーズ」に入った点
10月の発表時点では、『ゆめかいろプロダクション』は構想とコンセプトの比重が大きかった。
それが11月の二つのリリースを通じて、
- 2Dビジュアルの具体展開
- ファン投稿とAI学習を結びつけるキャンペーン設計
- VTuber活動とオーディションという運営基盤
へと移行している。つまり、「共創型AI IP」を実際に回していくための運用フェーズに入ったと言える。
ZEROICHIとしては、
- ファン参加(みんプロ)
- マルチディメンション展開
- AI VTuber+人間VTuberの共存
という三つの軸がどのような形で持続的なIPとなるのかに強い関心を持っている。
6.これから問われるもの――共創の楽しさと責任のバランス
AIとファンが共にアイドルを創る――このコンセプトは魅力的であり、実装が進むにつれて新しい楽しさを生み出していくであろう。一方で、
- AIが学習するデータとしてのファン投稿
- 声やキャラクターの権利処理
- AIタレントと人間タレントの待遇や位置づけ
など、エンターテインメントと労働・倫理・権利が交差する論点もまた増えていくことになる。
『ゆめかいろプロダクション』は、その最前線に立つプロジェクトであり、エンタメ文脈の中でこうした論点を“物語として”議論可能にする場として機能し得る。ZEROICHI編集部としては、今後も本プロジェクトの進化を追いながら、AIと人間の関係性がどのようにデザインされていくのかを継続的に見ていきたいと考えている。
■ZEROICHI編集部の取り上げ理由
本件リリース群をZEROICHIとして取り上げた理由は、以下の三点に集約される。
- AIタレントの「身体」と「声」の扱いが再設計されている初期事例であること
- 完全AI VTuberと人間配信者VTuberが同一プロジェクト内で共存するハイブリッド構造を試みていること
- 共創型エンタメ構想が、コンセプト段階から実際の運用フェーズへと踏み出した節目であること
AIエンタメの未来を考えるうえで、『ゆめかいろプロダクション』は単体の企画にとどまらず、「AIと共に暮らす文化」をどのように設計するのかという問いを投げかける存在であると判断した。
■原文リリース(参照)
原文リリース発表日付:2025年11月17日
原文タイトル:AIアイドル『ゆめかいろプロダクション』、AI VTuberとしての活動を発表!― 完全AIの“ゆめみなな”と4人の配信者募集のオーディションを開催 ―
原文リリースURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000871.000006348.html
原文リリース発表日付:2025年11月14日
原文タイトル:AIアイドル『ゆめかいろプロダクション』、マルチディメンション構想を発表!― 2D化で活動の幅を拡大、新キャンペーン「みんプロ第2弾」も始動 ―
原文リリースURL:https://www.klab.com/jp/press/release/2025/1114/ai_yumekairo.html
※本記事は、原文から一部編集・要約して掲載しています。
誤解や偏りが生じる可能性のある表現については、原文の意味を損なわない範囲で調整しています。