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民間ロケット開発は「開発拠点」から「製造体制」へ

インターステラテクノロジズが東北に新拠点を構える意味

日本の宇宙産業は、研究開発中心のフェーズから、社会実装と量産体制の構築という次の段階へと移行しつつある。人工衛星の小型化と活用分野の拡大を背景に、打上げ需要は世界的に増加している一方で、輸送能力の不足が課題として指摘されてきた。

こうした中、民間ロケット開発を手がけるインターステラテクノロジズが、福島県南相馬市に新たな東北支社を開設した。本拠点は、小型人工衛星打上げロケット「ZERO」の製造体制強化を目的とした、工場機能を有する戦略拠点である。

「開発」から「製造」を見据えた拠点整備

インターステラテクノロジズは、観測ロケット「MOMO」によって国内の民間企業として初めて単独で宇宙空間への到達を果たした実績を持つ。同社は現在、小型衛星専用の宇宙輸送サービスとして「ZERO」の開発を進めており、初号機の打上げに向けた準備段階にある。

今回開設された東北支社は、北海道大樹町の本社、東京支社、北海道帯広支社に続く工場機能を備えた拠点であり、単なる営業や管理拠点ではない点が特徴である。電気系・機構系部品の製造に加え、射場支援システムの開発・試験機能を集約する計画が示されており、ロケットを「つくる」ための実行フェーズに重心が移りつつあることがうかがえる。

南相馬という立地が持つ産業的背景

新拠点が置かれた福島県浜通り地域は、航空関連をはじめとした製造業の集積地としての歴史を持つ地域である。インターステラテクノロジズは2021年に、ロケット関連企業として初めて同地域に進出し、これまで南相馬市産業創造センター内に拠点を構えてきた。

今回の東北支社開設は、そうした既存の関係性を基盤に、より踏み込んだ製造機能を地域に根付かせる動きと位置づけられる。最大30名規模を収容可能なオフィス機能を備え、地元採用を含む人材がすでに勤務を開始している点からも、短期的なプロジェクト拠点ではなく、継続的な事業基盤として構築されていることが読み取れる。

国内宇宙輸送能力強化という文脈

世界的に宇宙輸送の需要が高まる中、日本国内でも打上げ能力の強化は重要な政策的テーマとなっている。小型衛星は、通信、観測、防災など幅広い分野での活用が期待されており、柔軟かつ高頻度な打上げ手段の確保が不可欠である。

インターステラテクノロジズが開発する「ZERO」は、こうした需要に対応する小型衛星専用の輸送サービスとして位置づけられている。製造体制を強化し、競争力のある価格帯で安定的にサービスを提供するためには、開発拠点だけでなく、製造・試験・運用を支える複数拠点の整備が欠かせない。

東北支社の設立は、その体制構築を具体的に前進させる一手と見ることができる。

地域と宇宙産業の接点をどうつくるか

2025年12月18日に実施された開所式には、地域住民や行政、金融機関の関係者など約70人が参加したとされている。この点は、宇宙産業が一部の専門領域に閉じた存在ではなく、地域経済や雇用と結びつく産業として認識され始めていることを示している。

製造拠点の設置は、雇用創出にとどまらず、関連企業の集積や技術継承の基盤形成にもつながる可能性を持つ。インターステラテクノロジズが掲げる「社会で使われる宇宙インフラの提供」というビジョンは、こうした地域との接点を通じて、より現実味を帯びていくことになる。

東北支社 概要

所在地   :〒979-2162 福島県南相馬市小高区飯崎字北原61-1
都市計画区域:市街化調整区域
敷地面積  :17,942 ㎡
建築面積  :2,570 ㎡
延床面積  :2,503 ㎡
建築    :鉄骨造、地上1階建て
工期    :2024年11月~2025年11月
設計    :有限会社イガラシ建築設計室
施工    :佐藤工業株式会社

インターステラテクノロジズ株式会社 会社概要

インターステラテクノロジズは「社会で使われる宇宙のインフラを提供する」をミッションに、国内初のロケット事業と通信衛星事業の垂直統合ビジネスを目指す。2013年に北海道大樹町で事業を開始、観測ロケットMOMOで国内民間企業単独として初めての宇宙空間到達を達成。現在は、小型人工衛星専用の宇宙輸送サービスを提供するロケットZEROを開発。北海道大樹本社の他、東京都、福島県、北海道帯広市に支社を有してる。

所在地: 北海道広尾郡大樹町字芽武149番地7
代表者: 代表取締役 CEO 稲川 貴大
事業内容:ロケットの開発・製造・打上げサービス、人工衛星の開発・製造・運用サービス
https://www.istellartech.com/

ZEROICHI編集部の注目点・取り上げ理由

本件で編集部が注目したのは、宇宙開発が「実証」や「挑戦」の段階から、「安定供給を前提とした製造体制」へ移行しつつある点である。
ロケット開発というと技術的な挑戦に目が向きがちだが、実際には製造、試験、運用を支える地道な体制づくりこそが、産業化の成否を左右する。

東北支社の開設は、民間宇宙輸送が一過性のプロジェクトではなく、地域と結びついた持続的な産業として根付こうとしている兆しと捉え、取り上げる意義があると判断した。

おわりに

日本の民間宇宙産業は、いま確実に次の段階へ進み始めている。製造体制の強化と地域拠点の分散は、その象徴的な動きの一つである。インターステラテクノロジズの東北支社開設は、小型衛星時代における宇宙輸送インフラの現実的な構築に向けた一歩として、今後の動向が注目される。

■原文リリース(参照)

原文リリース発表日:2025年12月18日
タイトル:ロケットZERO製造体制強化の新たな拠点として東北支社を開設
原文リリースURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000043667.html

※本記事は、原文から一部編集・要約して掲載しています。
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