液体金属を使った革新的な技術が、地球環境や宇宙探索の未来を変えることに着目しているゼロカーボンエネルギー研究所 准教授・近藤正聡。
堀江氏は、近藤准教授に、現在の開発と未来のプロジェクトについて聞いた。
- その1 2035年頃の建設開始が検討されている核融合炉。資源不足を補う、新たなエネルギーの開発へ
- その2 液体金属の反応性をヒントにした発想の転換とは?←今回はここ
- その3 液体金属が地球環境や宇宙の技術開発まで変えてゆく!?
液体金属の反応性をヒントにした発想の転換とは?
近藤 500℃くらいになった液体金属に海水を噴霧すると、水成分は蒸発し、その他の成分は液体金属に溶けていきます。そして、溶け切ったら今度は温度を下げるとリチウムやモリブデン(レアメタルの一種)、マグネシウム、ナトリウムなどの資源になる成分が分離生成されるんです。
堀江 なんで、こういうことをこれまでやってこなかったんですか。
近藤 誰も考えつかなかったんだと思います。液体金属の主な用途は、パソコンや家庭用ゲーム機のCPUを冷やす冷媒ですから、熱がよく伝わるということのほうに注目がいってました。あとは「ハンダ」です。
堀江 確かに、液体金属といわれて一番わかりやすいのは、ハンダですね。
近藤 はい。ハンダのように液体金属は色々な金属と合金化できるという特徴があるんですけど、一方で、高温の状態で金属と結合する事で他の金属を痛めてしまうという課題もあるんです。
堀江 痛めてしまうとは、どういうことですか?
近藤 例えば、ステンレスのような容器の中に高温の液体金属を入れて1年くらい保持した場合、ステンレスは鉄とクロムとニッケルでできているので、それが液体金属の中に溶けだしてステンレスに穴をあけてしまうことがあるんです。そのような腐食が起こる可能性があるために、これまで液体金属はあまり使われてきませんでした。液体金属に強い材料の開発も進められています。
堀江 液体金属の反応性が、海水からリチウムを取り出す技術に関係しているわけだ。
近藤 そうです。要はネガティブだと思われていた反応をポジティブに考えて、それだけ強い反応があるならば、海水に溶け込んでいる微量な金属とも反応するはずだと考えたんです。
堀江 すごい発想の転換ですね。
近藤 はい。それにリチウムなどの資源を析出できるだけじゃなくて、世界的に見たら現在は淡水不足ですよね。
堀江 ああ、淡水化プラントにするんだ。
近藤 そうです。現在の淡水化プラントは、海水から水分をとった後に濃縮された塩水などの副産物がゴミとして出てしまうんです。例えば、現在は1リットルの水を作るために2リットルくらいの濃い海水が出てしまいます。そして、それを海に戻すと環境破壊につながってしまう場合があります。でも、私の開発している液体金属の淡水化プラントは蒸発と溶解なのでゴミが出ません。
堀江 なるほど。
近藤 そして、液体金属を温めるのに、実は太陽熱を使ってやろうと思っています。なぜ太陽熱を使うかというと……。
堀江 水不足の地域は、太陽熱がいっぱいあるから。
近藤 そうです。それで、この淡水化プラントをコンテナサイズにしてエジプトなどに持っていくことができれば、電気などのインフラがなくても太陽熱で水をつくることができるんです。
堀江 そうですよね。
近藤 ですから、飲み水に困っている人たちがこのプラントを使えば使うほど、水も資源も溜まっていくというわけです。それは海外の飲み水に困っている地域だけでなく、日本も含めてです。
Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI
近藤正聡 (Masatoshi Kondo)
東京工業大学 科学技術創成研究院、ゼロカーボンエネルギー研究所 准教授
1979年生まれ。東京都出身。2006年、東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学博士課程終了。その後、核融合科学研究所、総合研究大学院大学、東京工業大学原子炉工学研究所などをへて現職。核融合に関しては、文部科学省学術調査官や科学・技術審議会専門委員(原型炉タスクフォース)なども担当。液体金属を用いた海水淡水化技術は、マリンテックグランプリ2022最優秀賞を受賞。