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「宇宙の始まり」「人間はなぜ存在するのか」を研究【 「Kavli IPMU」村山斉が語る 宇宙研究の最先端とは?その3】

堀江貴文氏は5月4日、Kavli IPMU機構長(当時)の村山斉氏を取材。「宇宙研究」の最先端などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年5月7日)

アステロイドベルト(小惑星帯)を宇宙開発の基地にしたい

堀江 村山さんのようにわかりやすく語ってくれる人って、なかなかいないですよね。

村山 嬉しいです(笑)。堀江さんはロケットの打ち上げをやっているそうですが、打ち上げって赤道に近いところからやったほうが得なんじゃないですか?

堀江 それは静止衛星だけです。

村山 ああ、そうか。

堀江 例えば、宇宙観光をしたいとかだと起動傾斜角が30度とかあった方がいいんです。

村山 なるほど。

堀江 唯一、大事なことは、東南海上があいているということ。だいたい、東南方向に打ち上げるので。

村山 堀江さんのロケットの北海道の打ち上げ現場はどのへんでしたっけ?

堀江 広尾郡大樹町といって、帯広の南なんですけど、日本はそういう意味でいうと、東南方面が海に面しているのでロケット打ち上げの適地なんですよ。

村山 ロシアなんか、今だって平地で打ち上げているから、ロケットがみんな平地に落ちてますよね。

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堀江 落ちてます。人口密集地じゃないので良かったみたいですけど……。でも、中国は最初、内陸部に基地を作っちゃったので、かなり悲惨な事故があったみたいですね。

村山 本当に!?

堀江 はい。だから、宇宙ベンチャーを立ち上げる環境として、日本はメチャメチャいい場所なんですよ。問題があるとすれば漁業なんです。僕たちが北海道に基地を作った理由は、漁をしない時期があるからなんです。でも、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙センターがある種子島(鹿児島県)などは、沖合で年中漁をしていますよね。

村山 だから、北海道はロケット打ち上げの立地として、一番いいってことですね。

堀江 ええ。冬が寒いくらいで(笑)。今の宇宙開発って、みんなF1の車を作っているような感じなんですよ。でも、僕らがやってるのは軽自動車。「最低限、走ればいい」みたいな。最低限の性能のロケットエンジンを作っていて、あとは小型化すればなんとか宇宙に行けるでしょうっていうレベルです。宇宙空間に行って帰ってくるくらいのものだったら、うまくいけば今年中にできるかなっていう感じですね。

村山 それは、すごいな。やっぱり、宇宙には行ってみたいですからね。

堀江 そうですよね。それに僕は、人工衛星を安く打ち上げたいんです。「宇宙の始まりを知りたい」っていう真面目な目的もあるんですけど、インターネットがこれだけ普及したのは、不真面目なことにみんなが使い出したからだと思うんです。ゲームをやったり、エロコンテンツを見たり(笑)。今は「流れ星を人工的に作ります」みたいなベンチャー企業もできてきてるし、そういう用途に使えるくらいカジュアルなロケットを作りたいんです。そうすると、世界が変わるんじゃないかと思うんですよね。

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村山 そうでしょうね。

堀江 例えば、学生のロボットコンテストとかあるじゃないですか。あれ、メッチャ盛り上がってますよね。それで、二足歩行のロボットを作る人がすごく増えた。だから、ロケットがカジュアルに打ち上げられるようになると、学生たちで「地球から月まで誰が早いか、ソーラーセイル(特殊な鏡を利用した太陽帆)コンテスト」とか、やれると思うんです。すると、宇宙探査がすごく進むはずです。

村山 それはすごいですね。

堀江 僕らの最初の目標って、アステロイドベルト(火星と木星の間の小惑星帯)への到着なんですよ。月とか火星とかは、ぜんぜん興味ないんです。何でかわかりますか?

村山 なぜですか?

堀江 アステロイドベルトを宇宙開発の基地にしたいんです。

村山 あー。

堀江 太陽系を飛び出すには、アステロイドベルトを使うしかないと思うんですよね。なぜかっていうと、やっぱり地球から資源を持ち出すのが大変だからです。

村山 持っていくのは、全部、重量ですからね。

堀江 そうなんです。今はどんなに効率のいいエンジンを作っても、打ち上げロケットの100分の1の重さしか持ち上げられないじゃないですか。だったら、小惑星に行って、小惑星の資源で作ったほうがいい。

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村山 しかも、重力が弱いですからね。

堀江 アステロイドベルトに行くと、たぶんいろいろな資源があるはずなんですよね。少なくとも鉄とニッケルはあるはずです。

村山 そうですね。

堀江 あとは、炭素、岩石、シリコンとかがあれば……。まあ、僕らが欲しいなと思っているのはウランなんですけどね。

村山 あるかもしれないですよね。

堀江 アメリカの『プラネタリー・リソーシズ』っていう会社は、「数ある小惑星の中から、鉄などの価値のある鉱物を探すんだ。そして資源ベンチャーを作るんだ」というようなことを言ってるんですよ。それで小惑星探査衛星を打ち上げて、「全世界のパソコンの空き時間を使って資源のある小惑星を探そう」みたいなコンテストをやってます。そういう方法でウランのある小惑星を探したら、ウラン鉱石を採掘して濃縮して燃料にして、原子力ロケットで太陽系の外に出て行く。原子力推進だと、たぶん比推力(ロケット推進剤の性能を示す値)が2000秒とか3000秒とか出ますよね。化学推進だと、どんなに頑張っても500秒台なので、いつまでたっても……。

村山 太陽系からは出られない。

堀江 何十年もかかっちゃう世界ですよね(笑)。

村山 ボイジャーがそうですよ。30年くらいかかって、やっと太陽系を出た。

堀江 原子力推進で行くと、隣の恒星系まで何十年かでいけるのかな。

村山 それは、すごい!

堀江 そうなると、たぶん、志願する人も出てくるだろうし、当然、人工冬眠が必要になるので、その技術が進むと思うんですよ。今は用途がないために進んでいないだけですから。僕は、そういうイノベーションを起こしたいと思って、もう6、7年もロケット事業をやっているんですけど、なかなか……。費用も僕の稼いだお金だけですから。うちの会社の売上は、全部そこに投入されているという(笑)。

その4に続く

村山斉(Hitoshi Murayama)
物理学者(専門は素粒子理論、初期宇宙論)「東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構」 機構長、特任教授。「米国カリフォルニア大学バークレー校」物理学科MacAdams冠教授。(※当時)
1964年生まれ。東京都出身。1991年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。その後、ローレンス・バークレー国立研究所研究員などを経て、2000年カリフォルニア大学バークレー校物理学科教授に就任。2007年「Kavli IPMU」機構長兼務。著書に『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)など。